小説
□君、恋しい
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チュッ
わざと音をたててキスをする。
飛び上がるように遠ざかる体、
あっという間に、赤くなっていく顔、
しまった、考えるのが先か言うのが先か白澤が怒号をあげた。
「なにするんだっ!?」
「…」
口を閉じたまま彼の声だけを聞く。
闇のなかに浮かび上がる彼の赤くなった顔を見つめる。
赤く染め上がった顔からは、一向に熱が引いていく様子はない。
ごしごしと唇が触れた場所を強くこすっている。
白澤との距離を詰め、
彼の背中が冷たい壁へと追いやられる。
ドンッ
両腕で彼を閉じ込める。
背には壁、左右には両腕、
白澤の体が固くなる。
顔には、緊張と恐怖が混ざったような不安な顔つきをしている。
心の奥底で熱い何かが燻っているのを感じた。
再び顔を近づける。
突き放すのは簡単なはずだった
なのに、突き放さない。
軽く触れるだけのキス
僅かな時間が永遠と思われる程続く。
「…っ/////」
唇が離れた時、白澤はもう何も言わなかった。
赤くなったまま、うつむいている。
月夜に晒された白澤の顔には恋慕の情がありありと表されている。
心臓が高鳴る…そんな気がした。
あぁ…。そうか、これは恋だ。
自覚をすると同時に愛しさが込み上げる。
こんなにも心を揺らされるのも、
こんな気持ちになるのも、
随分、久しぶりだ。
気づくのが遅くなるのも無理はない。
私は、白澤さんが好きです。
今はまだ伝えはしない。
負けた気がするから、
だから、あなたから伝えてもらう。
必ず私だけのものにしてみせる、
まだ、先は長いのだから
口元に柔らかな笑みを浮かべる。
両腕の中に、愛しい人がいる、
今はこれだけでいい。
だけど、いつか必ず―――――…。
end