黒バス

□わたしには内緒にしてね
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「最近真面目にモデルやってるね。どうしたの?」


何気なく気になって訊いてみたその質問に、涼太は驚くほど目を見開いた。
明らかに動揺している涼太を横目で観察しながら、返答を待った。

「え?…いやーたまにはオレだって真面目に仕事くらいするって事っスよ!」

なんとまあ、分かりやすい嘘な事か。


涼太は時々嘘を吐く。

大体はとても綺麗でまるでそれが本当のことのような嘘。
そしてその嘘は、誰かを守るための優しい嘘だったりする。

今回はまれに見る、何か知られたくないことがあって誤魔化すタイプの嘘だ。

「…ふーん?もしかしたら雨でも降るんじゃない?」
「それどういう意味っスかー!」

子供のように怒ったフリをする涼太は、きっと今頃心の中でホッとしているのだろう。
そう思うとなんだか彼の運命を自分が握っているような気がして嬉しくなると同時に、少し寂しくなる。
そういえば、隠し事されてるんだっけ。


「じゃあオレはここで」
「ん、またね」

いつもの様に駅前で別れてからぼうっと突っ立てみる。
なんだか突然不安と焦燥感に駆られて、泣きそうになった。

「(…浮気でもされたかな)」

そう心の中で呟いてみると思わず目頭が熱くなってしまって、
気分転換でもして落ち着こうと、近くの雑貨屋さんへと踵を返した。


「(……あれ)」


女の子らしい装飾のその店に、不釣合いなほど大きく、一際綺麗に輝く人。
その背格好を誰かだなんて見間違える筈もなく、ばれないようにそっと覗いた。

ちらちらと目移りしながら可愛らしい雑貨を手に取る彼は、
しきりに店員さんにこれはどうだあれはどうだと訊ねている。
迷惑な客なんだろうなあ、と思うけれど、彼の見た目のせいか店員さんも満更ではなさそうだ。

「これだったら彼女喜んでくれるっスかね!店員さん!」
「そうですね、きっとお客様が差し上げたものならなんでも喜んでくださると思いますよ」
「えー…でも記念日なんだからちゃんとしたものあげたいっス…」


「…あ」

思わずぱっと店から離れる。
…駄目だ。これ以上此処に居ちゃいけない。

再び家路へと急ぐと、なんだか今度は急ににやけてきて、
幸せになってきて、思わずもう一度振り返る。
店から出てきた彼はとても幸せそうな顔をして、いつものように仕事先へと走っていった。

楽しそうに、誰かの為に頑張って笑っているその理由。

わたしには、内緒にしてね。










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