黒バス

□繋いだ手と手に触れ合う空気
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 身震いさせるような風が、すうっと首筋を通った。
防寒具をつけてこなかったことを少し後悔する。
はあ、と吐いた溜め息が白く消えていって、冬の到来を感じた。

「しおりー」

駆ける足音とともに聞こえる男の声。
昔とは変わってしまって低く男らしくなったその声は、誰のものかなんて振り向くまでも無い。

「おはよう」
「はよー、今日も寒いなー」

そう言いのけた彼の首には、あったかそうなストールが巻かれていて、手にはこれまたあったかそうなミトン。
手作りのようにも見えるそれは市販なのかさえ疑うほど綺麗で、暖かそうだ。

「‥‥完全装備のおまえに寒いとか言われたくない」
「そんな拗ねんなよー!あ、そうだ。じゃあオレがあっためてやろっか?」
「全力で遠慮する」

早足でその場を去ろうとすると、現役運動部の彼に敵う筈もなく、あっという間に追いつかれる。
再び並んで歩くと、彼はまたニコニコと私に笑いかけるのだ。




学校なんてものは、始まる前は憂鬱なものだけれど、終わってみれば簡単なもので。
ぼおっと体育館裏で空を見上げてみると、星がやけに輝いて見えた。

ギイ、と扉が開く音が聞こえる。
すると驚いたような声が聞こえて、思わず彼の名を呼び振り返る。

「な、なにしてんのおまえ!さみーだろ!ジャージ持ってくるジャージ‥ってかなんでいんの!」
「いーじゃん別に‥補習の帰りだし‥暇だったし‥」

バカ、と吐き捨てて急いで帰る準備を整えてきた高尾。
再び朝と同じ帰路につくと、なぜか朝とは違い黙ったままの彼。
どうしたの、という前になあ、と呟かれた声。

「‥‥今日、さ。何の日か知ってる?」
「‥なんでそんなこときくの」
「いや‥‥憶えてないならいいんだけどさ」

溜め息混じりにそう呟く高尾に、思わずくすりと笑う。
不思議に此方を向く彼に足を止めて微笑みこう言えば、彼は驚くほど顔を真っ赤にして幸せそうに笑った。

「‥‥誕生日おめでと、高尾」
「‥‥‥ん、ありがとう。しおりだいすき」




繋いだ手と手に触れ合う空気

(空気さえも寒くて甘くて)






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