童話小説
□人魚姫
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船員さん達が騒ぎ出したのは、それから二時間ほど経った頃だった。
踊りを見たりデザートのバナナを食べてまったりしていたところへ、彼らは声を張り上げて叫んだのだ。
「みなさん大変です、嵐がきます!」
――船員さん、君はなにを言っているんだい?
唐突に聞こえてきた言葉にオレは固まってしまう。
「なんだろう、今幻聴が聞こえたよ。やだなぁ」
お酒を飲んでいた父さんにそう話し掛けると、父さんはどこか機械的な調子で答えた。
「ふむ気が合うな実はワシもなんだ」
船員さんの言葉に父さんも固まっていた。
傾いたグラスから中身がこぼれていることにも気付いていないようだ。
これをもったいないと思うオレは王子のくせに貧乏性なのだろう。
「みなさん、船の中へ! 嵐がきます!!」
きっと気のせいだろうと解釈して片付けたかったのに、船員さんは慌てながらみんなを促した。
幻聴じゃない、本当に聞こえた。
嵐がくる……と。
船上が一気にどよめきだす。
「……やだなぁ」
オレの短い呟きを最後まで聞かない内にみんなは逃げ出していた。
さて、突然の嵐に襲われたオレ達がどうなったかというと、なぜかオレだけが運悪く海に落ちた。
バナナの皮を踏んで足を滑らせたような気がするのは、きっと気のせいだ。
小柄だけれど運動神経は悪くない方だと思っていた。
けれど考えてみればというか考えるまでもなく、さすがに荒波の中を泳ぐことは不可能で……オレはそのまま暗い水の中に飲み込まれた。
うねる波に闇の中へ引きずられ、もがけばもがくほど身体は沈んでいく。
恐怖と苦しさに負けて、オレは意識を手放した。
それからどれだけの時間が経過したのかはわからない。
ただ、聞き慣れた潮騒が意識の奥へ届いてきた。
「……うっ」
目を覚ましたオレは、地面の柔らかい感触とすぐそばから聞こえる波の音から、自分のいる場所が砂の上だということが認識できた。