童話小説

□人魚姫
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 空には日が昇っていて、太陽の光が目に痛い。

「大丈夫?」

 頭上から、誰かの声が聞こえた。
 うっすらとした視界の中で声の主を捜すと、一人の女の子がオレの顔を覗き込んでいた。

「――助けて、くれたの?」

 ひどくかすれた声が出たけれど彼女の耳には届いたらしく、頷きながらこちらに向かって笑みを浮かべた。

「よかった、気が付いたのね」

 徐々に意識が覚醒してきて、オレの目はその子の姿をはっきりととらえる。

 太陽の光の下で輝きを放つ長い金色の髪。
 まだあどけなさの残る繊細な顔立ち。

 にっこりと笑んだその少女の瞳は、海よりも青く澄んでいて綺麗だった。

「君は……」

 問いかけようとした時、少女はハッと顔を上げて周囲の様子をうかがった。
 なぜかはわからないけれど、彼女はなにかに対して警戒しているようだ。

 耳をすましてみると、波の音に混ざって砂の上を歩く足音が聞こえてくる。誰かが近付いてきているのだとわかった。

「――っ」

 名残惜しそうな目でこちらを一瞥した後、彼女はサッと身を翻して海の中に飛び込んだ。

「え……!?」

 突然の行動に驚いてオレは慌てて身を起こす。
 その時オレは、確かに見た。

 彼女の脚が人のものではなく、魚のような形をしていたことを。



 その後、探索に出ていた兵士達に助けられオレは城へ戻ってきた。
 あの出来事を周りの人間に話したけれど、信じてくれる人は誰もいなかった。夢でも見たのだろうと呆れられ、そこで終わった。

 それでも確かに、あれは夢でも幻でもなく現実にあった出来事だ。

 金色の髪と青い瞳をした人魚。
 かなうことならもう一度会いたい。
 
 周りからなんと言われようとこの想いは止められない。
 だってまだお礼もしていないから。

 まだ、名前も聞いていないから。
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