童話小説
□人魚姫
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海の中には海の生き物達の楽園がある。
昔読んだ絵本にはそう書かれていた。
そこには人の姿をした、けれど魚のような脚を持つ種族……人魚が暮らしているという。
あの頃は、そんなのただのおとぎ話だと思っていた。
小さい頃から海を見て育ってきたけれど、そんなもの一度も見たことはなかったから。
幼い子供に聞かせる為の夢物語り。
絵本の中にだけ生きる空想の生き物。
ただそれだけの存在だとずっと思っていた。
けれど今になって、オレはその夢物語りを信じるようになっていた。
だって、オレは人魚に命を救われたのだから。
太陽の光が水面に反射してキラキラと輝いている。
波にかき混ぜられた光のきらめきが目に痛いくらい眩しい。
オレは城のバルコニーに立ち、手すりに肘をついてそれを眺めていた。すぐ下は海になっていて、潮騒が耳によく届く。
海を一望できるここは城内でも奥まった場所にあるから立ち入る人は少ない。
おかげでゆっくりと物思いに耽ることができる、オレのお気に入りの場所だ。
海辺に建つこの城の王子として生まれ、毎日のようにこの海を見て育ってきた。
こうやって波の音を聞きながら海を見ていると不思議と心が癒される。
けれど最近はそれとは別の理由でこの場所へくるようになった。
どうしても見つけたい相手がいて、わずかな期待を込めて海を見渡す。
目当ての人物は今日も見つからない。
絶対にいるはずなのに。
金色の髪をした、青い目の人魚が。