童話小説
□桃太郎
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桃太郎はある小さな村の老夫婦の家で生まれ育った。
なんでも川で洗濯をしていたお婆さんが、ドンブラコ、ドンブラコと流れてきた大きな桃を見つけ、それを食べようと思って切ったところ、その桃の中から一人の赤ん坊が出てきたらしい。
そんな不思議な出来事が普通あるわけないのだが、事実なのだから仕方ない。
そんなわけで桃から生まれた赤ん坊は、桃太郎というとんでもなくダイレクトな名前を付けられ、老夫婦の家の子として育てられることになった。
そこまではまだ良い。
否、本人としてはもっとカッコイイ名前が良かったのだがしかし、問題はその後だった。
すくすくと大きく育った桃太郎に、ある日なんの前触れもなくお爺さんは言ったのだ。
「都の方で鬼が悪さをするらしい。ちょっと行って退治してきてくれぃ」
このとき、彼は自分の耳を疑った。
「え……ちょ、なんだよ急に! なんだよそのムチャ振りは!?」
「お前は桃から生まれた不思議な子供だ、きっと不思議な力を持っているに違いない」
「桃太郎や、その不思議な力で鬼をなんとかしておくれ」
このとき、彼は老夫婦の思考回路を疑った。
そんなこんなで鬼退治の旅なんぞに出るハメになった桃太郎。
はっきし言って都は遠く離れている。
すぐ近所で起こっている事件ならともかく、わざわざそんな所で起こっているゴタゴタを解決しに行かなければならないとは。
――だってコレ、俺達に直接害がある訳じゃないしなぁ。
そう思いつつもしぶしぶ旅に出てしまったのは、自分を育ててくれた二人の気持ちを裏切りたくはなかったからだ。
とはいえ。
「あぁ面倒臭い。やっぱやめときゃよかった」
彼は少なからず後悔していた。
「くそ……っ。ほんとだったら今頃ジャンプ読みながらせんべいかじってるハズだったのに」
世界観をまったく無視した文句をぶつぶつ呟くが、ツッコミを入れる者は誰もいない。
あーあ、とボヤキながら、彼は青い空を仰いだ。