童話小説
□人魚姫
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――さて、ここで唐突に時間はひと月前にさかのぼる。
その日はオレの誕生日で、満月の灯りの下で船上パーティをおこなっていた。
「王子様、お誕生日おめでとうございます。王子の健康と国の平和がいつまでも続くことを……」
とかなんとか、うんたらかんたらと祝いの言葉が続いていた。
目の前にはオレの為に用意されたごちそうがあるというのに、長々と続く前置きのせいでそれらを口に入れることができない。
どうでもいいから、早くそれを食べようよ。
何度その言葉を口に出そうと思ったことか。
テーブルの上に並べられたうまそうな食事が、オレに食べられる瞬間を待っているというのに。
――いや、正確に言うとオレがごちそうを食べられる瞬間を待っていたのだけれど。
そんなオレの様子を見かねたのか、王様……つまりオレの父さんが威厳のある声で言った。
「うむ、祝いの言葉はもうよい。今日は無礼講だ。飲んで踊って存分に楽しむがよい」
「よし!」
その言葉を合図にオレはごちそうにがっついた。
「ああ、はしたない」
という母さんの嘆く声が聞こえた気がするけれど、それは無視した。
けれど待て、ここは海の上だ。もう少しロマンチックに振る舞ってみるのもいいかもしれない。
口の中の物を飲み下し、ぶどうジュースの入ったグラスを掲げ、囁いてみる。
「ハッピーバースディ・トゥ・オレ」
言った瞬間に、痛い視線と誰かが鼻で笑う気配を感じた。
だけど言わなきゃ良かったと後悔するのも癪だったので、オレは自棄になってジュースを一気に飲み干す。
いきなり滑ったのはちょっと恥ずかしいけれど、そんなことは飲んで忘れた。
出された食事はおいしかったし、芸人達のショーは楽しい。たまにはこういう誕生日会も悪くないものだ。