Rainbow

□痛みはない。傷だけが残った。
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怪我をして入院した。
階段から落ちて、腕を折ってしまったのだ。
何故落ちたかというと、人にぶつかられたから。
その人は責任を感じているのか、ほぼ毎日お見舞いに来てくれる。
コンコン
また、今日も。
「どうぞ」
「よ」
「こんばんは、仁王くん」
「おう。調子はどうじゃ?」
「今日も調子はいいよ」
「ならよか」
彼、仁王くんは、当時同じ部活の人たちと少しふざけながら歩いていた。
私も考えことをしていたせいか上から降りてくる彼らに気付かず、ぶつかるとそのまま階段から転げ落ちてしまった。
そして、決して仁王くんだけが悪いわけではないのに、彼はこうしてほぼ毎日お見舞いに来てくれる。
彼自身も部活で疲れているだろうに。
「仁王くん、」
「ん?」
「あの、こんなに毎日来てくれなくてもいいんだよ?仁王くんだけが悪いわけじゃないんだし」
「俺はここに来たいから来てるだけじゃ。それとも、俺が来たら迷惑か?」
「そ、そうじゃないけど」
「ならええじゃろ」
「でも、仁王くんだって部活で疲れてるだろうし、」
「お前さんはそんなこと気にせんでええ。早く腕が治ることだけ考えんしゃい」
こうして仁王くんに上手く言いくるめられてしまった私は、退院するまでほぼ毎日仁王くんと顔を合わせた。

そして退院の日。
その日も、仁王くんは病院に来てくれた。
「おめでとさん」
「ありがとう。仁王くんが毎日来てくれたから早く治ったのかな」
「あほなこと言いなさんな。お前さんの努力の結果じゃ」
「ふふ、どうかな」
いつものように話をしていると、仁王くんの携帯が鳴り出した。
「すまん、電話じゃ」
「うん。いってらっしゃい」
仁王くんが背を向けるのを見送り、私はそっと息を吐いた。
退院したら、もうこうして気軽に話すこともできなるのかと思うと、少し胸が苦しかった。
「(あれ、なんだろう、この気持ち)」
胸の苦しみについて考えていると、仁王くんが戻ってきた。
「すまんの」
「もういいの?」
「ん。大した用じゃないぜよ」
「…彼女さん?」
あれ、私なんでこんなこと聞いてるんだろう。
聞きたくない筈なのに。
胸の鼓動が煩い中、私は仁王くんの答えを待った。
「おん」
そう答えた仁王くんの顔は、今までに見たことのないくらい優しい顔をしていた。
「…そっか」
それから少し話して、仁王くんと別れた。
私のまだ恋とは呼べない感情は、自覚する前に終わりを告げた。
それでも不思議と、


痛みはない。
(傷だけが残った。)



それはまだ、『傷痕』とは呼べないほどの真新しい痛み


title by 確かに恋だった 倉庫『痛みはない。傷だけが残った。』

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