隔離部屋
□外見詐欺
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きしきしと廊下の板張りが軋む音がする。最近は色々な生活音に紛れて気がつかない音だ。
最初に俺がやってきたときにはよく聞いた音だった。その頃はまだ6本もいなくて、本丸が嫌に広く感じたもんだった。それも、もうだいぶ前の話だが。
審神者の部屋の前で襖ごしに声をかける前だった。薬研がそれに気がついたのは。
「ん、ふ……ぅ」
びたりと真冬に水でもひっかけられたように薬研の体が固まる。
女の声だ。いつもよく聞く大将の声。だがまったくもって違った。まるで違う人間だと勘違いするほどに。
それほどまでにその声が内包する色が違ったのだ。
しん、とした本丸に女の声がする。耳をすませると粘着質な水音が聞こえてくるような気さえした。
ごくりと薬研の喉が鳴る。声が、段々高く、大きくなっていく。高みに昇っているのだろうと安易に想像できた。
本当ならばここで何も聞かなかったふりをしてしばらく自室で時間を潰してからまた来るべきなのだろう。しかしそこで薬研の中で悪戯心が少しばかり頭を上げてしまったのだ。
「ん、んん!」
「大将、入るぞー」
押さえきれないとでも言いたげな声が最高潮に達しようとしたその時、薬研は襖越しに声をかけ、止める間もないほど勢いよく襖を開けた。