隔離部屋

□肉体を持ってしまった故に
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「あ、たぬきじゃーん。おつかれー。どう? 一杯やってく?」


「次郎……まーた真昼間から呑んでんのかよ」


「いーじゃんいーじゃん! 内番はちゃぁーんとやったからさぁ」



ようやく出陣から帰ってきた同田貫に次郎が声をかける。開きっぱなしにされた部屋の入り口から内部を覗くと、けたけた笑う次郎がいた。


労働の後の一杯はまた格別だねぇ。そう言いつつまた一杯。彼、もしくは彼女の周りにはたくさんのからになった徳利があった。普段濁酒が入っているような壺を持ち歩く次郎だ。徳利では到底量が足りないのだろう。


酒精の香りが充満する部屋に辟易した同田貫がため息をついた。



「俺ぁ、いい」


「アタシの酒が呑めないっていうのぉ……?」



同田貫が断りをいれる。次郎がふてくされたように言いつつ、にじり寄った。


ゆらゆらとしつつも手に持っている徳利の中身がこぼれないようにしているのは流石酒飲みとしか言いようがない。



「いや、そうじゃねえけど。今はまださっきまでの戦の昂ぶりがよぉ……」



普段だったら少しくらいは付き合う同田貫は渋い顔をしつつがりがりと頭を掻いていた。戦から帰った直後は血の臭いに酔っているように気が高ぶりやすくなる。要はタガが外れやすくなっているから飲めないということだった。



「ごちゃごちゃ言ってないで、呑め!」


「なっ、ングッ」



酔っ払いとは思えないような俊敏な動きで がっ、と同田貫の首を拘束し、持っていた徳利の中身を押し込んだ。もとより太刀と大太刀。一度拘束されてしまえばどんなに暴れても逃れることはできなかった。バタバタと鳥のように両腕を振り回してもがいても全く拘束は緩まなかった。



がぼがぼとまるで溺れるような音が同田貫から出ていようが、呑みこみ切れなかった酒が口から溢れようがお構いなし。ぐんぐん徳利を傾けられ、最後の方には喉を鳴らして飲み込んでいた。そうでなければ息ができないからだ。


徳利の中身がなくなり、次郎の拘束が緩むと同田貫は大いに噎せた。そのまま噎せながらふらふら歩き出す。これ以上飲まされないように距離をとろうとしている。その足取りはかつてないほどおぼつかなかった。




「あれ? 次郎もうその酒飲み切っちゃったの? かなり強いお酒だからいくら飲兵衛な君でももうしばらく大丈夫だと思ってたのに」


「ん〜? そういえばこれ、さっきまでのお酒と入れ物が違うような……」


「どうだった? 結構辛口だったでしょ?」



ひょこっ、と部屋の奥の襖から出てきたのは燭台切だ。手には何も乗っていないおぼんを持っている。次郎が強い酒をちびちびやっている間に空いた徳利を回収しようとしたのだ。


じ、と手に持っている徳利に描かれている模様を眺める次郎に燭台切が感想を求めた。なので次郎はさっきやってきた同田貫に(無理矢理)全部飲ませたと言った。燭台切がぎょっと目を剥く。
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