ももゆめ
□ツイてる乙女と極悪ヒーロー
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何の前触れもなく目が覚めた。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた自分の部屋の天井。
身体を起こすと少しだけ頭が重いし、パジャマではなく制服のシャツとスカートと寝ていたらしい。
あれ、私……。
理由を考えるより早く、自分の身体から微かに香った線香の匂いに、寝起きでボンヤリしていた頭の中がハッキリした。
「そっか、そうだ……。私、次郎のお葬式に出て、それから……」
記憶は途中で途切れているけれど、覚えていることはハッキリと思い出すことが出来た。
次郎の訃報が届いたのは一昨日の夜。
寝る準備をしていた所に、真っ青な顔をしたお母さんが部屋に飛び込んで来て、「次郎くんが……」と言った。
まるで夢でも見ているようで、夢なら覚めてくれるはずだと思ったのに、何度ベッドに入っても眠ることは出来なかった。
もしかして、葬儀の最中に倒れたのは、単にただの寝不足だったとか?
気のせいか身体も軽いし、頭の中もやたらスッキリしている。
いやいや、さすがに私でもそれはない。
寝不足だからって、幼馴染みの葬式の最中にぶっ倒れてしまうとか、空気の読めないことするわけないじゃない、年中空気を読まない次郎じゃあるまいし。
自分の神経の図太さを疑ったけれど、ここは自分自身のために全力で否定しつつ、次郎がどこにも居ないことを改めて思い知る。
いつもいつも一緒にいた。
迷惑かけられっぱなしでウザイって思うこともあったけど、生まれて初めて男の子と意識した相手は次郎だった。
思い出すのは次郎の調子のいい笑い顔、ヘラヘラと笑いながら言い訳する顔。
小さい頃からの記憶が一気に膨れ上がり、頭の中は次郎の顔ばかりで埋め尽くされる。
最後に出て来たのは、ほんの数時間前に見た真っ白な花に囲まれて、澄まして眠っているような次郎の顔、どの記憶よりも鮮明なのに、どの次郎よりも次郎らしくない顔に、悔しさが込み上げた。
「なんで死んじゃったの」
ケンカをして死んじゃえって言ったこともあった、あんたの顔なんて一生見たくないなんて言ったこともあった。
すべて現実になるなんて考えたこともなかった。
たとえ冗談でも言って良いことと悪いことがある、後悔しても本当に居なくなってしまったらもう遅い。
今なら軽々しくそういう言葉を口にしてはいけないって分かる。
一昨日から枯れることを知らない涙が、再び目に薄い膜を張るように広がり、視界に映るものを滲ませていく。
「あーもう、泣かない! 泣いたって……」
自分に気合いを入れるために、両頬を手の平でパンパンッと軽く叩いた。
どれほど泣いても、次郎が戻ってくることはないし、悲しみが薄れることはない。
そうじゃなければ、次郎はとっくに棺の中で目を覚ましているはず、そう思いたくなるほど、この二日間で流した涙の量は半端ない。
「死んじゃうとか、ほんとにバカじゃないの?」
割り切ろうとしても割り切ることが出来ず、呟いた一言は悲しみを通り越して怒りを含んだ声になってしまう。
死んでしまったことは分かっていても、あまりにも突然すぎる死に、葬式に参列してもまだ実感が湧かなかった。。
窓を開けて呼べば、いつものように窓から顔を見せるんじゃないの?
「へへへー、生き返っちゃいましたー。とかってバカ面を出しそう」
想像しなくても、何度も見てきた次郎の顔が頭に浮かぶ。
少しだけ頬が緩ませながらカーテンを開けた。