日雛小説

□曖昧な距離
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『僕は君を愛しているんだ、帰ってきてくれ、マリア…!!!』

『本当に…?信じていいの?マイケル…!』

『マリア!!』

『マイケル…!!』


夏休みの午後。

中2にもなって、私とシロちゃんはお家でダラダラと、ドロドロした昼ドラをみている。



「桃、アイス。」


「えー?ここ、シロちゃんの家じゃん。自分でとってきてよー。あ、私、バニラがいい!」



シロちゃんは幼馴染みで、家が隣同士。

2歳のとき、お隣さんに引っ越してきたのがシロちゃんだった。

親同士の職場が同じということもあってか、私たちはすぐに仲良くなった。


お誕生日も
クリスマスも
お正月だって、
ほとんどのイベントごとはシロちゃんと一緒。


アルバムにも、シロちゃんと二人で写っている写真がたくさんある。



「ほら、桃。バニラ。」


「わーい、ありがとう!」


そういって私は早速アイスの袋を剥ぎ、パクリと口にくわえる。

ひんやりとした甘さが夏の暑さを和らげてくれるようで、美味しい。


「は!!ほうひえはっ!!」


口に、アイスを突っ込んだまま、ふと思い出した。


「何だよ、桃。ほら、アイス出せって。」


そういってシロちゃんが、私のアイスを奪い取る。


ごくん、と溶けたアイスを飲み込んで、私は話し出す。


「友達が浮気されてて大変だったんだって!このドラマみてたら思い出しちゃった。」


ちょうどこのドラマみたいに、浮気をした男を信じて。

そしてまた、浮気をされたらしいのだ。


「なんだ、そんなことかよ。」

「!そんなことって何よ!!」


「それより、早くしないとこのアイス、とけるぞ?」


「あっ、たべるたべるっっ!」


シロちゃんの持つアイスにぱくっとかぶり付く様子を見て、シロちゃんが笑う。


「桃はまだ、色気より食い気だな。」

その、余裕ぶった口調にカチン、として。

「そんなことないもん!私だって好きな人くらいいるし、キスだってしたことあるんだからっ!!」

そういった直後…。

『ダメよ、マイケルッ…ん…ちゅ…はぁっ』


『いいだろ?マリア…ちゅ…』


テレビから聞こえてきた大胆な音に、2人して硬直する。

いや、もしかしたら私だけが固まってしまっていたのかもしれない。

「…へぇ。あーゆーの、したことあるんだ…?」

シロちゃんが、テレビを指差しながら問う。

本当はキスしたことある・だなんて、嘘だった。

それをわかっててきっと、
シロちゃんは、イジワルしてる。

「やり方、俺にも教えてよ。」


「ふぇ…?」


辛うじて棒に捕まっていた
溶けかけのアイスの最後のひとかけらがゆかに落ちて、白い水溜まりをつくる。



「何、言ってんの、シロちゃん、」


顔があつい。

絶対真っ赤になってる。


「俺、あーゆーのしたことないんだよね。なぁ、教えてよ、桃。」



「ぁ…う…ん…」


本当はキスなんてしたことないよ。
一体どうしたらいいの?

って、

そんな気持ちの裏側に
キスってどんなだろう…?
私もしてみたい…。

そんな好奇心がみえ隠れする。


「シロちゃん、目ぇ、瞑ってて、」


ソファーに座っているシロちゃんの上にまたがるようにして、顔を近づける。



シロちゃんは、かっこいいと思う。


だけど、
『好き』なのかは
わからない。


でも、ファーストキスがシロちゃんならいいかなっ・て、思うんだ。






そっと、唇に触れる。



パッと、シロちゃんの目が開いた。



「!!!」


見間違いなのか、シロちゃんの口元がニヤリと笑った気がした。


「もっと、こうだろ?」


そうすると、ぐいっと顔を引き寄せられて
口の中に
シロちゃんが、入り込む。


「ん!!」


何これ…!?


これが、キスなの…!?


「ッ…」

唇を離すと、シロちゃんが不敵に笑う。

これは、見間違いじゃない。


「シ、シロちゃん、何か慣れてるっ…。キスしたこと無いなんて嘘でしょ…?」

「桃こそ、キスしたこと無かったんだろ?」


それから数秒、今までとは違う不思議な空気が二人を包む。


そっとソファーから足を下ろすと、ひんやりと指先が濡れた。





「あーッ!!!アイス!落ちちゃってる!」

「桃!お前のバニラだろ!早く拭いとけよ、怒られんだろ。」


「ごめんなさーい、シロちゃん。」


…こうして
私のはじめてのキスは、ふわふわと浮かんでいった。


まるで何もなかったみたいに
それからもシロちゃんとは普通で、仲良しで。


だけどあのときの感触は
嘘みたいにはっきり覚えてる。



心臓が、まだ熟れてないイチゴを食べたみたいに
酸っぱくて、甘くなる。



恋人でもないのに、キスってできちゃうんだ。




あのドラマの2人は、あれからどうなったんだろう?




そんなことを考えながら
今日も私は
シロちゃんに会いに行く。


End→あとがき





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