リンラン小説

□蝶々結
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よく晴れた昼下がり。

気を張っていなければいけないのが私の役目だから、そんなことにはもう慣れた。

1つ、慣れないのが蝶々結び。

リボン結び・とも言うらしいのだが
私は断然、蝶々結びの呼び名のほうが好きだった。


それが、どうしても上手くいかない。


「よし…。」


結びなおすのは6回目。
しかしその全てにおいて、リボンは縦を向いているのだった。


と、若が窓から顔をのぞかせて、屋根の上で警護する私を見上げる。


「ランファン、少し休んだらどうだ?日も高くなってきたし、疲れているだろう?」


「いえ。若こそお休みになってください。昨日は歩きっぱなしでしたし、それに…」


私の言葉も言い終えぬうちに、若は何かに気づいたようで、軽々と私のいる屋根の上まで上がってきてしまう。


「ランファン、まだリボン結びできないの?」


リボンが縦になってるよ・と言って、若はしゃがみこみ、解けた私の腰紐に手をかける。

数秒間をおいて、私は若に対して無礼な行動をしていることに気づく。

「若っ、これくらい自分でできますからっ…。」

「はい、できた!」


ハッとして身をよじった時には、すでに綺麗な蝶々結びが出来ていた。



(なんて器用なー…)


よいしょ・と言って
若は立ち上がり
ぐぐっと伸びると
私のほうを向いて
春の日差しのような笑顔をくれる。


「うん。似合っているよ、ランファン。」


「あっ,ありがとうございます…。」


似合っている・という若の言葉に
何も深い意味はないと分かっているのに
私の心は容易に甘く、切なく、苦しくなる。


この気持ちに気づかれぬうちに、早く若から離れなければ。


そんなことを思っていたとき。


「ランファン。」


空を仰ぎながら、若が呼びかける。


「なんでしょう、若。」


「暫くはリボン結び、できるようになるなよ。」


「え?」

思いがけない言葉に、つい聞き返してしまう。



「…何か口実がないとさ、フーがおっかなくって。『いくら皇子と言えども、大切な孫娘に手を出したら許さない』って。」



バクバクと鼓動が高まりだした。
それはもう誤魔化せない程に。


そんな私を知ってか知らずか、
若はもう一度、
私のすぐ耳元で囁いたのだった。




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