リンラン小説
□淡紅藤
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最近、従者のランファンに、度々見合いの話が来るようになった。
そしてこれは、最近発覚したことだが、
なんとランファンは、自分より2つも年上の21歳だというではないか。
よくよく考えてみると、昔からランファンはやたら物覚えが良かったり、体術ではかなわなかったり、思い当たる節がないこともない。
彼女が自分より年上だと知った途端、急に大人っぽく見えるのだから、これには困ったものだ。
……まぁ、大人なのだが。
とにかく。
彼女の年齢を知ってからというもの、妙に彼女を意識してしまう自分が恥ずかしかった。
当のランファンはというと、もちろん何も変わりはない。
どうして俺だけがこんなに動揺しているのか。
それは、俺がランファンのことを好きだから、に他ならなかった。
「リン様、失礼いたします。」
コンコン・と控えめなノックの後に聞こえたのは、現在、俺の思考の大半を占める彼女、ランファンの声。
「ああ、どうかしたか?」
重々しい扉を開けて入ってきた彼女を見て、俺は数秒固まっていた。
「どうしたんだ、ランファン…」
いつもの黒装束ではない、女の格好をして、(しかもただの女の格好ではなく、いかにもよそゆきの恰好である)顔には丁寧に化粧まで施してある。
俺の‘どうしたんだ”という問いに、桃色の彼女の頬は、殊更淡く色づいた。
「実は本日、祖母の勧めでお見合いに行くことになりまして、お昼から留守にするというご報告に参りました。」
「え…?見合い…に…?」
彼女に度々、見合いの話が来るようになったことは聞いていた。
でも、それらの話は見合いをする前に、どれも彼女が断っていたらしいのだ。
なのに、どうして今回は―…
「あの、リン様…?」
「駄目だ。」
「えー…?」
‘駄目だ”と。
そんな言葉が不意をついて出ていた。
このまま彼女がほかの男のもとへ行くのならいっそのこと―…。
カツカツと歩を進めて、彼女のところへ辿りつく。
張り詰めた雰囲気の中、困惑した面持ちの彼女が唇を開いた。
「リン様…?」
その言葉はまるで鈴の音のように震えて、静かな部屋に溶けてゆく。
再び訪れる静寂。
聞こえるのは、胸の鼓動と、揺れる小さな息遣い。
彼女の前に腰を下ろすと、彼女はあわてて頭を垂れた。
俺は、素早く彼女の顎に手をかけて、ぐいっと頭を上げさせる。
と、ほぼ同時。
「…!」
ほんの一瞬、唇と唇が触れた。
「行くな、ランファン。俺と、一緒になってくれないか―…」
そういってぐっ・と彼女に詰め寄る。
後ろに退こうとバランスを崩した彼女の体はそのまま倒れ、身に着けていた装飾品がシャラ…と繊細な音を立てた。
「御冗談を…。お気は確かですか?リン様。」
「冗談だと思うか?ランファン。」
仰向けの彼女の上にまたがって、また、唇を重ねると、
覆いかぶさる俺を退けようと、下から小さな圧力がかかる。
昔はあんなに強く思えていた彼女が今は、俺の下で、身動きすら取れない。
体術ならまだ彼女の方が上かもしれないけれど、力だけなら、もう俺の方が強くなっていた。
重ねた唇をゆっくり離す。
ランファンの目が涙で潤んでいるのがわかった。
「なりません。」
震える、愛しい声がきっぱりと告げ、
苦いような、今にも泣きだしてしまいそうな顔で、彼女が俺を見つめる。
それはまるで、己を律しているようで―…
―…そして、俺は気づく。
これまでランファンが見合いを断ってきたその理由に。
彼女の本当の心に。
「駄目だ、ランファン。」
俺は彼女をしっかり見据えて、言った。
「お前は俺の妻になれ。」
その言葉に頼りなく頷いた彼女の目から、涙があふれ出す。
そんな彼女が愛しくて。
俺は、彼女を、ぎゅ・っと。
ぎゅー・っと抱きしめた。
End→あとがき