リンラン小説

□淡紅藤
1ページ/2ページ




最近、従者のランファンに、度々見合いの話が来るようになった。

そしてこれは、最近発覚したことだが、
なんとランファンは、自分より2つも年上の21歳だというではないか。

よくよく考えてみると、昔からランファンはやたら物覚えが良かったり、体術ではかなわなかったり、思い当たる節がないこともない。

彼女が自分より年上だと知った途端、急に大人っぽく見えるのだから、これには困ったものだ。

……まぁ、大人なのだが。

とにかく。

彼女の年齢を知ってからというもの、妙に彼女を意識してしまう自分が恥ずかしかった。

当のランファンはというと、もちろん何も変わりはない。

どうして俺だけがこんなに動揺しているのか。
それは、俺がランファンのことを好きだから、に他ならなかった。



「リン様、失礼いたします。」


コンコン・と控えめなノックの後に聞こえたのは、現在、俺の思考の大半を占める彼女、ランファンの声。


「ああ、どうかしたか?」


重々しい扉を開けて入ってきた彼女を見て、俺は数秒固まっていた。


「どうしたんだ、ランファン…」


いつもの黒装束ではない、女の格好をして、(しかもただの女の格好ではなく、いかにもよそゆきの恰好である)顔には丁寧に化粧まで施してある。
俺の‘どうしたんだ”という問いに、桃色の彼女の頬は、殊更淡く色づいた。


「実は本日、祖母の勧めでお見合いに行くことになりまして、お昼から留守にするというご報告に参りました。」


「え…?見合い…に…?」


彼女に度々、見合いの話が来るようになったことは聞いていた。
でも、それらの話は見合いをする前に、どれも彼女が断っていたらしいのだ。
なのに、どうして今回は―…



「あの、リン様…?」


「駄目だ。」


「えー…?」


‘駄目だ”と。


そんな言葉が不意をついて出ていた。
このまま彼女がほかの男のもとへ行くのならいっそのこと―…。

カツカツと歩を進めて、彼女のところへ辿りつく。


張り詰めた雰囲気の中、困惑した面持ちの彼女が唇を開いた。


「リン様…?」


その言葉はまるで鈴の音のように震えて、静かな部屋に溶けてゆく。

再び訪れる静寂。

聞こえるのは、胸の鼓動と、揺れる小さな息遣い。

彼女の前に腰を下ろすと、彼女はあわてて頭を垂れた。

俺は、素早く彼女の顎に手をかけて、ぐいっと頭を上げさせる。
と、ほぼ同時。

「…!」

ほんの一瞬、唇と唇が触れた。



「行くな、ランファン。俺と、一緒になってくれないか―…」


そういってぐっ・と彼女に詰め寄る。
後ろに退こうとバランスを崩した彼女の体はそのまま倒れ、身に着けていた装飾品がシャラ…と繊細な音を立てた。


「御冗談を…。お気は確かですか?リン様。」


「冗談だと思うか?ランファン。」


仰向けの彼女の上にまたがって、また、唇を重ねると、
覆いかぶさる俺を退けようと、下から小さな圧力がかかる。

昔はあんなに強く思えていた彼女が今は、俺の下で、身動きすら取れない。

体術ならまだ彼女の方が上かもしれないけれど、力だけなら、もう俺の方が強くなっていた。

重ねた唇をゆっくり離す。

ランファンの目が涙で潤んでいるのがわかった。


「なりません。」


震える、愛しい声がきっぱりと告げ、
苦いような、今にも泣きだしてしまいそうな顔で、彼女が俺を見つめる。


それはまるで、己を律しているようで―…


―…そして、俺は気づく。

これまでランファンが見合いを断ってきたその理由に。
彼女の本当の心に。


「駄目だ、ランファン。」


俺は彼女をしっかり見据えて、言った。






「お前は俺の妻になれ。」



その言葉に頼りなく頷いた彼女の目から、涙があふれ出す。


そんな彼女が愛しくて。


俺は、彼女を、ぎゅ・っと。

ぎゅー・っと抱きしめた。



End→あとがき






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ