グリラン小説

□イチゴアイス
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好きだなんて、いえない。

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あのときどうして嘘をついてしまったんだろう。

今さらそんなことを思ったって遅いのに。


ーーーー10分前ーーーーー


「ランファン!」


聞き覚えのある幼馴染みの元気な声に、呼び止められて、私は顔をあげた。


後ろを見ると 相変わらずなにこにこ笑顔の幼馴染み、リン様が駆けてくるのがみえる。

「様」をつけているのは、彼が紛れもない御曹司だから。

幼馴染みといえども節度ある距離を保たねばならないと 幼い頃から祖父に教わっている。


「カサ、二本持ってない?」


その言葉に、私は開きかけのカサを見て。

差し出す。


「どうぞ、お使いください。」


「え?ランファン、カサあるの?」


「はい。教室に置いているので大丈夫です。遠慮なくお使いください。」


「…そっか。ランファンはしっかり者だね!じゃぁ、ありがとう。また明日。」


そうしてカサをさしてかえって行く彼の姿を見つめながら私は考えていた。


カサ…どうしよう・と。


だってほんとは置き傘なんて無いのだ。

そんなふうに考えているうちに時間はたち、さっきよりも雨が激しくなってきた。


家に帰るには電車に乗らないといけないから、さすがにびしょ濡れでは帰りたくない…。


駅までなら走って5分くらいだろうか。



電車を使わないとなると、家につくまでに二時間はかかってしまう。



でも仕方ない。

歩いて家まで帰ろう。


10分の後、わたしはそう決意して雨のなかに繰り出した。


梅雨の雨は生ぬるくて好きじゃない。

雨に濡れた制服が肌に張り付く感覚も嫌いだ。


雨のなか、歩を進める。

行き交う人からの視線が容赦なく私に刺さる。


わたしは少し下を向いて、それでも足は止まらずに一直線に家を目指した。


とんっ…

「あっ…ごめんなさい…」


したばかり向いていたせいで、誰かの体とぶつかって、私は慌てて顔をあげる。


「あ…」


見覚えのある、幼馴染みに良く似た顔の彼が真っ黒なカサをさして目の前にたっていた。


「おまえ…びしょびしょだな。ちょっとウチ寄ってけよ。」


「え?」

彼はそういって、強引に私の手を引く。

「これ、羽織っとけ。」


と、彼に渡されたのは大きなジャージ。


「え…でも、私、…濡れてる、から」



「…だから着とけっていってんだろ。」


「え、私は、…私が着るとその服が、濡れてしまうから、」




「…目のやり場に困んだろ。」


言い訳する私に、彼はまた強引にジャージを押し付けて目を反らす。


「え?」


ふと、自分を見てみる。

髪も体も何もかもずぶ濡れだ。

制服に黒い…染み?
墨汁でもこぼしたっけ?

夏服の清々しいほど白い制服の胸のあたりが、少し黒くなっていた。

不意にさっきのグリードの言葉が頭のなかで再生された。

『目のやり場に困る』

…!!


ちがう。
墨汁なんかじゃない…
下着が透けているのだ。

それに気づいたとたん、雨が蒸発してしまうんじゃないかってくらい、身体中があつくなった。



差し出されたジャージを受け取ってそれを羽織る。


「…着たか?」


「…うん。…ありがとう…」


ぱちっと、彼と目が合うと、
慌ててそれを反らすのは私。




「ウチ、すぐそこだから。」


「ううん、いい。あたし…帰る」

このまま彼といたら、恥ずかしさで死んでしまいそう。

どうして彼はこんなにも普通でいられるのだろう?

「風邪引くだろ。いいからこい。」


そういっているうちに、あっという間に彼の家までたどり着く。


そこは小さなシェアハウスのようだった。


「タオル持ってくるから、ちょっとそこで待ってろ。」


「うん。」


玄関で待っていると、住人らしき女の人がチラッとこちらをうかがって。

「グリード、あんたが女連れ込むなんて珍しいわね。」

その人の声に、また何人かの人が私のことをまじまじと見にやって来る。

その度に

「べっぴんさんじゃねーか。やるなぁ、グリード」

とか

「あんたにはもったいないわねぇ」

とか、しまいには

「ヤるときはしっかりドア閉めとけよ」


なんて言うものだから恥ずかしくて仕方なかった。


「うるせぇ、そんなんじゃねーよ。」


グリードが、タオルを抱えて戻ってきた。

「悪いな、ランファン。なかのやつらが煩くて。とりあえずそれで拭いて。シャワーあるし、着替えは俺の貸すから。」


「…うん。」
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