princessrooms

□オレンジ。
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お鍋のなかにたくさん余ったスープをみて、ウインリィは、寂しさ混じりのため息を溢した。

「エドとアル、元気にしてるかな…。」


ピナコおばあちゃんがいつもたくさんのご飯を作るのは、
エドとアルがいつ帰ってきても良いようにだってことに
ウィンリイは気づいている。

毎日毎日、写真を見てることだって知っている。

そんなおばあちゃんに、

「あいつらならきっと大丈夫だよ。」

と、ウィンリイは
呆れたように笑う。



でも。


(本当はあたしだって。)

ウィンリイもまた、

心配で
寂しくて
逢いたくて。


「いつになったら帰ってくるのよ…。」


最後に彼らが帰ってきたのはもう1年も前のことだ。

「私のこと、忘れちゃったのかな…?」

目をつむって思い浮かべる。

一番に浮かぶのはいつも、
小さくて
勇敢で
大好きな
彼の姿。


見ないうちに

筋肉もついて

手もごつごつになって

表情も、昔とは違っていって


彼は、どんどん大人になっていく。



そうして彼がいつの日か
離れていくような気がしてならない。

もうここには帰ってこないんじゃないか・と。



「…そんなこと、ないよね…。」


そう呟く声は、今にも消えてしまいそうだ。


スープをかき混ぜながら、溢れだした涙を拭う。



「…エドとアルが命がけで頑張ってるのも知ってるし、応援しなきゃってわかってるけど…
あたしだって、さみしいよ。」


そう
涙混じりに呟いたとき。



カタン・と、後ろで音がした。


慌てて涙を止めようと上を向くけど、
涙は止まらない。


「あ、お、おばあちゃん?あのね、今、目に、ごみが入って…それでっ…わっ…!?」

ぎゅっ・と後ろから抱き締められる。

腕と、機械鎧の感触。

「エ…ド…?」



「…ごめん。」


間違えるはずもない、その声。


「な、なに謝ってんのっ。てゆうか、また連絡もいれずに帰ってきて!ほら、ちょうどスープ温めたから座っといてよ。」



動揺して、ウインリィの口から
早口に言葉が零れる。


きゅ。


彼の腕にまた少し、力がこもる。



「なっ…あっ…、アルは?一緒なんでしょ?ねぇエド、返事くらいしなさいよ。」



きっと、ウインリィがずっと涙声なのに
彼は気づいているのだろう。


「エド、痛いよ…。」



「っ…、悪い。」

ウインリィの体から
パッと手が離れた。



何があっても、彼らの前では泣かないと
決めていたのに。


振り返ると
また少したくましくなった彼。



「…ごめん。」


もう一度、彼が言う。




どうして謝るの。


ウインリィは思う。


謝られたら、また寂しさが深くなるのに。



「俺、まだまだお前を寂しくさせるかもしれないけど、絶対また帰ってくるから。」


そういう彼を見て、ウインリィは少し頬を膨らます。


「そんなの、あたりまえでしょっ…!」


彼がにっこりと笑う。

つられてウインリィも笑う。





お鍋の中のスープがコポコポと音をたて始めた。



きっとやって来る幸せな日々を夢見れば、

待ち続けるこの日々も

寂しすぎる毎日も



キラキラのオレンジに輝けるんだ。





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