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□水落ちる
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――ピピッ

「37度3分……熱が上がってる」

それは、悪い偶然が重なったものだったのだった。

何時ものように織沢さんが持っていたものを冴木さんにぶちまけたそんな光景になると悪いと思うけど思っていた。

しかし、冴木さんは何時もと違いそれを避けたのだ。避けてもそれを被っている所は流石というか。

避けた冴木さんの後ろに私がいたのが私にとって不幸だった。

織沢さんが持っていた水羊羹を作るための水をもろに被ってしまったのが一昨日の事だ。

「わわっごめんなさい、アヤちゃん大丈夫?」

「大丈夫です」

「早く着替えないと風邪をひいちゃうわ」

「僕の心配はないのかい?」

「レイ様だもんね」

「それは、どういう意味だい?場合によっては怒るよ?」

「もう、怒ってるじゃん」

「すいません、着替えに戻りたいのですが」

確かそんな感じの会話をした気がする。それで、濡れた服が気持ち悪いから部屋に戻った筈だ。その時、着替えてる途中で寝てしまったのだ。

濡れてた服は時間により乾いていたが冷えた体はなかなか温まらず。そこで、妙な気だるさを感じて体温を計ったら昨日は36度7分だったからまだ平気だと思いいつも通り動いていたら上がってしまったようだ。

「……ハァ情けない」

ここは、どこに存在するかも怪しい館の中なのだ。風邪を拗らせて肺炎になったりした場合、最悪死んでしまうだろう。医者なんていないのだから。その事の恐怖を分かっていても分かっていなかったのだ。

かといい濡れた原因である織沢さんや冴木さんを責めるのはまた違うのだろう。ちゃんとあの時に着替えなかった私が悪いのだ。

幸いというか、まだ微熱といえる範囲だし咳も出ていない。下手に動かずにしていれば熱は下がるだろう。

……ごはんは諦めよう。寝過ごして朝ごはんは逃してしまったけど夜までに下げたい。

とりあえず着替えて寝起きでぐしゃぐしゃな髪も整える。いや、いっそおろしてしまうか……もう1度寝るにしても変に目覚めてしまったせいで無理だ。しかし、何かするにもダルくて動きたくないと布団の上でゴロゴロしてみる。19時までに下がればいいんだけどもと考えていたらノックの音が聞こえてきた。

コンコン

「アヤちゃん、起きてっる?」

どこか、軽薄なその声はタクトさんだろう。

「起きてますよ」

「ありゃ、反応なしかーでも何時もならもう起きてると思うんだけどなー開けちゃっていい?」

「ちょ、困ります」

扉の向こうには私の声が届かないという事を忘れて慌てて扉を開けたらにかっと笑ったタクトさんがやはり立っていた。

「おはようアヤちゃん」

「……おはようございます」

「立ち話も何なんだから入ってもいい?」

出来れば立ち去って貰いたいのだが、廊下で話すのも確かにアレだし、仕方なく入って貰うことにした。

「それで、何の用ですか?」

これで、くだらない話しならさっさと帰って貰おう。

「アヤちゃん、昨日から微妙に調子悪そうに見えて今日1度も姿を見ていないし昼になっても出てこないは流石に心配でね」

いつの間にか針は1時半になろうとしていた。

「寝過ごしてしまっただけですよ。……これから、食べに行こうと思っていましたし」

……嘘ですが。

「無理はしちゃダメだよアヤちゃん、体調悪いんでしょ?」

「大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃないから言ってるんでしょ?顔赤いし熱あるんじゃないの?」

どうやら、熱があるのもバレてしまったようだ。

「んー、やっぱり少し熱いねぇ何度位あるのか計った?」

「……7度3分でした」

「様子見かな?……食欲はあるかい?」

「い、一応は」

「わかった。お兄さんに任せなさい」

額に手を置かれた所が熱い。藍川さんは、どこかに行かれたようだ。これで、皆さんに迷惑がかかるのは申し訳ないんだけどな。

「お待たせ」

数分して語尾にハートマークが飛んでいそうな軽やかさで戻ってきたタクトさんの手にはサンドイッチとお粥とフルーツが乗っていた。……わざわざ持ってきてくれたのだろうか?

「あのっありがとうご「はい、アーン」へっ!?」

目の前には卵粥が入ったスプーンがある。それを、持っているのはタクトさんで……つまり、これは所謂アーンというものじゃないだろうか。

「……自分で持てますから」

「そう?残念だなー」

二ヘラと笑いスプーンを渡されるが、こうもみつめられると食べにくい。

「……なんですか?」

……可愛くない。折角運んでくれたのに少し位乗っても……無理だ。これが藤崎さんとかなら可愛く乗るのだろう。

「んにゃ、アヤちゃんが無事で良かったなって。鍵閉まってなかったみたいだけどもし閉まっている状態で倒れていたらと思ったらゾッとしたよ」

「それは……すいません」

「責めてるわけじゃないよ。でも、体調悪い事を誰かに伝えては欲しかったな」

「……善処します」

まるで、いい子だというように頭に手を置かれた時持っていたお粥をこぼしてしまった。

これは、断じて動揺したからではない。……断じてだ。

それを見たニヤニヤと笑っているタクトさんにスプーンを取られてしまい

「ほら、アヤちゃんやっぱりアーンが必要だね」

なんて言われて残りのお粥を全てアーンさせられたなんて……。フルーツ類は何とか自分で食べたけどもし次があるのならば、お引き取り願いたい。

その為には少し癪だけど皆さんに報告しようと思ってしまうのが手のひらで転がされてる感じがして悔しい。
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