虎鹿話。
□無敵
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『ごめんっ!チャンミンっっ!!』
ドラマの撮影に忙殺される日々。でも今日は、いつもと比べたら上がりが早い予定だった。だから、約束していたんだ。
『チャンミンっっ?!』
予定よりも撮影がかなりおして、4時間近く遅れての帰宅。
(もう帰っちゃったか??)
2月3日。
俺達の元寮で会おうって約束をしていた。
『チャンミンっっっ!!』
リビングに入っても…チャンミンの姿は無かった。
『……そうだよな。連絡もなく4時間も遅刻。…帰るよな』
メールを送ったつもりだったけど、バタバタしていたせいかちゃんと送れてなかった。その事に気付いたのは、ついさっき…。
(折角、久々に2人きりで会えるチャンスだったのに……俺のバカ者!)
『ハァ…』
一気に身体が重くなる。
日付はもうすでに2月4日。
(チャンミン……ごめ…)
『イーーーーッ!!!』
突然、何かを踏んづけた。
『なっ、何だぁっ?!』
足に走った地味な痛みに耐えながら、足元を確認する。
部屋の電気を点けていなかったから気付かなかったけど、よく見ると床に小さな粒が大量に落ちていた。
『うぇ?!何だこれっ?!』
しゃがみ込んで、じっくり観察する………。
『…………………………豆??』
辺りを見回す。
『え………。これ……全部、豆???』
暗闇の床に転がる大量の粒は、全て豆のようだった。
『ははは……。こんなに散らかすなんて、チャンミン相当…怒ってるな…』
(電話して謝らないと。でもこんな時間だから、電話するのは朝になってからだな…。メールだけでも今すぐ送っとこう!)
そんな事を考えながら、豆を踏まないよう移動し部屋の電気を点けた。
『へ!!』
明るくなったリビングテーブルの上に、やけにデカイ太巻きが2本デンッと置かれていた。
『…えーと?』
(俺の晩御飯を用意してくれたのかな…?)
『チャンミン、俺のために……。フフッ!しかしデカイな〜、この太巻き…。ヤ〜、チャンミンらしい!ハハッ』
(怒ってるけど、ちゃんと俺の事を考えてくれてるんだよなぁ。)
その事実が、もの凄く嬉しかった。胸がジ〜ンとする。
『さっ、とりあえず部屋着に着替えるか!んで、チャンミンが用意してくれた晩御飯を食おうっ♪』
部屋着に着替えるため、自室に入って電気を点けた。
『っっ!!』
ベッドで。
俺の顔がプリントされた枕を抱きしめながら…横になっている奴がいた。
『……チャンミン!!』
静かに寝息を立てている。
俺の顔がプリントされている枕に抱き着いて寝ている姿は、あまりにも…可愛いかった。
(ウワァ、チャンミンめちゃくちゃ可愛い!!)
起こさないようそっと近付いて、顔を覗き込む。
昔から思っていたけど、チャンミンは本当にカッコイイ。そして、とっても可愛い。
(可愛いって言われるのは、あまり嬉しくないようだけど…。くぅ〜可愛い!)
『へっぷしッ!!』
鼻がムズムズして、くしゃみが出た。
「…んんぅ〜〜。……………。…………ヒョン…??」
『あ!ごめん!!起こしちゃったな』
「…遅くまでお疲れ様です……」
眠そうなチャンミンの瞼は、ほとんど開いていない。眠気と必死に戦いながら瞳を擦りつつ身体を起こすその姿は、とても可愛かった。
『チャンミン、約束してたのにごめんな!連絡もせずに、こんな時間になって…。本っ当にごめんっっ!!!』
「…ドラマ撮影が大変な事は、僕も知ってますから。」
フワッと微笑んだチャンミン。
(めっちゃ可愛い……)
『俺の帰りを待っててくれたんだな。ありがとうっ!!』
「!!…………別にっ…待ってなんかないですよ…っ」
(耳が赤い……チャンミン照れてるな!)
「さっ撮影はどうですか?」
『おー、大変だけど今のところ順調だぞ!』
「……スシーン…、ありましたね…」
『ん?何??何てった??』
「……………………何でもないです…」
『あ!それよりもチャンミン!!リビングにある豆、あれ何だ?!』
「え?豆??」
『大量に散らばってるぞ』
「あぁ〜、豆まきです」
『マメマキ??』
「2月3日は日本で"節分"って言って、豆をまいて邪気を追い払うんだそうです。ヒョンとやろうと思って持って来たんです。」
『へぇ〜〜☆』
「2月4日になっちゃうと思って、一人でやっちゃいました。ヒョンの分も邪気を追い払いましたよ」
『俺の分まで……ありがとチャンミン♪』
「……べっ…別に、ついでですからっっ!」
(またまた耳が赤いっ!くぅ〜!!)
『じゃあ、あの太巻きは何なんだ?あれもセツブン??』
「あぁ、あれは"恵方巻き"と言って、節分に食べると縁起が良いと言われているそうです。」
『へええ!エホウマキ…あんなにデカイんだな〜。ビックリした!』
「………………あれは僕が作りました」
『えっ!!チャンミンの手作り?!』
「……はい」
『通りでデカイ!!ハハハーーッ!!』
「…ヒョン、晩御飯は食べましたか??」
『いや、まだだから太巻き食べるっっ!』
「♪じゃあ一緒に食べましょう!」
『おう!』
「日本茶をいれますねっ」
ベッドから軽やかに下り、キッチンへと向かうチャンミン。
俺は部屋着に着替え、リビングで胡座をかいた。
(はぁ〜♪腹減った!)
具だくさんの太巻きである事が分かるボリューム!
(んんっ!早く食べたい!!)
チャンミンはまだキッチンで、何やらお茶の他にも準備してくれているようだった。
(こっそり一口だけ…先に食べても良いかな??)
ぱくっ!
『ゔぉ゙ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!』
「っヒョンっっ??!!」
チャンミンがキッチンから、慌てた様子で走り出て来た。
「一本は僕用だからっ、デスソースが大量に入ってますっ!!って……もう遅いですね、すみません……っっ」
涙を滲ませつつ急いで洗面所に行き、自分に異変がないかをチェックした。
俺の唇は……、
見事なタラコになっていた。
『どうしよコレ!!』
明日も撮影はある……。
なのに、この立派なタラコぉ……
『どうしよコレぇーーーーーーーーっ!!!』
チャンミンが心配そうにこちらを見ている姿が鏡に映った。
目が合う……。
翌日の撮影は、何事もなく無事に終わった。
タラコは、すぐに治った。
(チャンミンがしてくれたキスが効いたかな〜っ!!)
そう、洗面所でタラコに嘆いていたあの後、なかなかないチャンミンからのキスがあったのだ……。
シャイなチャンミンからのキスは、本当に滅多にないっ!!
タラコも治すチャンミンのキスは、無敵のキスだーーっっ!!
「ヒョン…撮影上手くいってるかなぁ??…………////」
ふと洗面所でしたキスを思い出し、俯くチャンミン。
いつも恥ずかしくて、自分からキスをするなんて事は出来ない。
そんな自分が自然とキスをしてしまうくらい、涙目でタラコのユノの姿は堪らなく可愛かった。
(ヒョンのギャップって、本当に凄い威力だよなぁ…。)
(あれは……無敵だっ!!)
お互いに、無敵な2人…☆
♪おわり♪