夢小説1

□独占
1ページ/5ページ






 あー……ヤバいなぁ……。

 ……もう、完全に失敗した。

 苦い気持ちで目の前の背中を見る。

 おずおずと顔を上げてちらっと。

 黒いシャツを着た大きな背中。

 休日の繁華街の人混みの中、私をかばうようにして、前を歩いているウォルター。

 その手と手はつながれていて。

 はぐれないように、っていうのも、もちろんあるんだけど……。

 私の目は自分の足元に落ちる。

 今まで履いたこともないヒールの高い靴。

 淡いピンク色で、ピカピカしてて、小さな花がついてて、とっても可愛くて気に入ってるんだけど……でもちょっとヒールが高め。

 デートの日にわざとそんな靴を履いてきたのは、買ったばかりの新しい靴を見てもらいたかったこともあるし、歩きにくいことを理由に自然と腕を組めるかな、なんて思ったこともあったりして。

 ……それは……半分くらい、叶った。

 残念ながら人混みがすごくて、並んで歩ける状況じゃないから、手をつないで……っていうか引っ張ってもらって……歩くことになって。

 実は、それがすごく嬉しい。

 そのほうが嬉しいくらい、なんだけど。

 本当に自然な流れで手をつなげたし。

 人混みがすごくて一緒に並んで歩けないのは悲しいし、つまらないけど、ウォルターの大きな背中を見て歩くのも悪くない。

 っていうか、いい、すてき。

 すっごく安心するし。

 本当に助かってるし。

 ただ、ただ問題は……歩いてるうちに、足が痛くなってきちゃったこと!

 慣れない靴で……慣れないヒールで……情けないことに、ちょっと考えればこういうことになるのはわかってたんだけど、踵が痛い。

 靴擦れ……かな……?

 どうしよう。

 ずんずんと前を歩くウォルターに、どんどんついていけなくなってしまう。

 それでも手をつないでいるから、引っ張られるまま、必死に足を動かして。

 気付かれたくない。

 だって悪いよ。

 せっかく楽しく遊びに来たのに、私のせいで、足が痛くなっちゃったー、なんて。

 そんなわがまま言えない。

 一生懸命痛みを堪えて歩いていたら、不意にウォルターが立ち止まって振り向いた。

「依理愛?」

 不思議そうな顔をしてる。

「なんか遅くねぇ? どうした? さっきから……」

 私は慌てて首を振る。

「うっ、ううん! なんでもないよっ」

 にこっと笑って、開いてしまっていた距離を縮める。

 いつのまにか、私のほうがウォルターの足を止めるくらい、手を引っ張ってしまってたみたいだ。

「平気、大丈夫っ!」

 長い赤い前髪の間から覗く黄色っぽい目が、不審げに私の上から下までを眺める。

「ホントか? 俺、速かったか? 無理すんなよ……ってか、あれ、足?」

「え?」

「依理愛、おまえさ、足が……」

 ウォルターの目が私の足元で止まり、その眉をひそめさせた。

 なんだろう、どうしてだろう、もしかして足が痛いのバレた? でもなんで?

 ぎょっとして固まる私を引っ張ってウォルターが道の端に連れていく。

 『ちょっとこっち来い』とか言って。

 私はズキズキする踵の痛みを堪えて歩く。

 コンビニの前で、空いたスペースを陣取り、ウォルターは私の手を離した。

 そして、困ったような、怒ったような、複雑な顔をして私に言う。

「依理愛、ちょっと靴脱いでみろよ。ほら、貸して」

「え、えっと……」

 戸惑っているうちに、ウォルターが屈んで手を伸ばし、私の足に触った。

 靴を脱がそうとしてるんだとわかって、私はウォルターの肩に手を置いて、おとなしくされるがままになる。

 ……ホントは、こんな街中で靴を脱ぐのは、ちょっと恥ずかしかったけど。

 有無を言わさぬ調子に負けたっていうか。

 ウォルターがなんで私の足に注意を向けたかも気になった。

 バレないようにしてたつもりだったのにな。

 どうして気付いたんだろう。

 足が痛いことわかっちゃったんだよね、きっと。

 どうして……?

 私の靴を片方脱がせて立ち上がったウォルターが……ちなみに私の肩に乗せた手が外れないようにゆっくりと……私の足元を指差した。

「血が出てるぞ、足……」

「え……? あ」

 見ると、白い靴下の踵のところが、真っ赤だった。

 あー、靴でこすれて皮が剥けちゃったんだ……。

 けっこう広い範囲で前の方まで血が。

 ……ううっ、この靴下お気に入りだったのに。

 って、そんな場合じゃないっ!





(つづく)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ