夢小説1
□独占
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あー……ヤバいなぁ……。
……もう、完全に失敗した。
苦い気持ちで目の前の背中を見る。
おずおずと顔を上げてちらっと。
黒いシャツを着た大きな背中。
休日の繁華街の人混みの中、私をかばうようにして、前を歩いているウォルター。
その手と手はつながれていて。
はぐれないように、っていうのも、もちろんあるんだけど……。
私の目は自分の足元に落ちる。
今まで履いたこともないヒールの高い靴。
淡いピンク色で、ピカピカしてて、小さな花がついてて、とっても可愛くて気に入ってるんだけど……でもちょっとヒールが高め。
デートの日にわざとそんな靴を履いてきたのは、買ったばかりの新しい靴を見てもらいたかったこともあるし、歩きにくいことを理由に自然と腕を組めるかな、なんて思ったこともあったりして。
……それは……半分くらい、叶った。
残念ながら人混みがすごくて、並んで歩ける状況じゃないから、手をつないで……っていうか引っ張ってもらって……歩くことになって。
実は、それがすごく嬉しい。
そのほうが嬉しいくらい、なんだけど。
本当に自然な流れで手をつなげたし。
人混みがすごくて一緒に並んで歩けないのは悲しいし、つまらないけど、ウォルターの大きな背中を見て歩くのも悪くない。
っていうか、いい、すてき。
すっごく安心するし。
本当に助かってるし。
ただ、ただ問題は……歩いてるうちに、足が痛くなってきちゃったこと!
慣れない靴で……慣れないヒールで……情けないことに、ちょっと考えればこういうことになるのはわかってたんだけど、踵が痛い。
靴擦れ……かな……?
どうしよう。
ずんずんと前を歩くウォルターに、どんどんついていけなくなってしまう。
それでも手をつないでいるから、引っ張られるまま、必死に足を動かして。
気付かれたくない。
だって悪いよ。
せっかく楽しく遊びに来たのに、私のせいで、足が痛くなっちゃったー、なんて。
そんなわがまま言えない。
一生懸命痛みを堪えて歩いていたら、不意にウォルターが立ち止まって振り向いた。
「依理愛?」
不思議そうな顔をしてる。
「なんか遅くねぇ? どうした? さっきから……」
私は慌てて首を振る。
「うっ、ううん! なんでもないよっ」
にこっと笑って、開いてしまっていた距離を縮める。
いつのまにか、私のほうがウォルターの足を止めるくらい、手を引っ張ってしまってたみたいだ。
「平気、大丈夫っ!」
長い赤い前髪の間から覗く黄色っぽい目が、不審げに私の上から下までを眺める。
「ホントか? 俺、速かったか? 無理すんなよ……ってか、あれ、足?」
「え?」
「依理愛、おまえさ、足が……」
ウォルターの目が私の足元で止まり、その眉をひそめさせた。
なんだろう、どうしてだろう、もしかして足が痛いのバレた? でもなんで?
ぎょっとして固まる私を引っ張ってウォルターが道の端に連れていく。
『ちょっとこっち来い』とか言って。
私はズキズキする踵の痛みを堪えて歩く。
コンビニの前で、空いたスペースを陣取り、ウォルターは私の手を離した。
そして、困ったような、怒ったような、複雑な顔をして私に言う。
「依理愛、ちょっと靴脱いでみろよ。ほら、貸して」
「え、えっと……」
戸惑っているうちに、ウォルターが屈んで手を伸ばし、私の足に触った。
靴を脱がそうとしてるんだとわかって、私はウォルターの肩に手を置いて、おとなしくされるがままになる。
……ホントは、こんな街中で靴を脱ぐのは、ちょっと恥ずかしかったけど。
有無を言わさぬ調子に負けたっていうか。
ウォルターがなんで私の足に注意を向けたかも気になった。
バレないようにしてたつもりだったのにな。
どうして気付いたんだろう。
足が痛いことわかっちゃったんだよね、きっと。
どうして……?
私の靴を片方脱がせて立ち上がったウォルターが……ちなみに私の肩に乗せた手が外れないようにゆっくりと……私の足元を指差した。
「血が出てるぞ、足……」
「え……? あ」
見ると、白い靴下の踵のところが、真っ赤だった。
あー、靴でこすれて皮が剥けちゃったんだ……。
けっこう広い範囲で前の方まで血が。
……ううっ、この靴下お気に入りだったのに。
って、そんな場合じゃないっ!
(つづく)