夢小説1

□愛情
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 一緒に遊んでた友達がちょっと用事ができたからって、私は公園で待つことになって。

 友達が戻るまでに少し時間がかかるから、ベンチにでも座ってようかと思ったら、ベンチはひとつしかなくて、先客がいて。

 でも疲れてたし、3人くらい座れるベンチで、その人は端っこに座ってたから、わたしも一人分の間を空けて、そのベンチに座った。

 自然と隣に目が行く。

 うわー……キレイな髪だなぁ……。

 公園に入った時から目に入ってたんだけど、真っ赤な髪の毛で、さらさらしてて、つやつやしてて。

 片耳だけに十字架のピアスして、だるそうに両腕をベンチにかけて、顔を上に向けて『あー』って口を開けてて。

 長い前髪で目は見えなかったけど、形の良い鼻は高くて、唇もキレイな形をしてて。

 かなりかっこよかった。

 ……ちょっと怖そうだったけど。

「……」

 私が座った時も反応はなし。

 このまま黙ってるのもなぁ。

 ……なんて思ってたら、ボソッと、思わず漏れたというように、隣から『ダリぃ……』っていうつぶやきが聞こえて。

 当たり前だけど、しゃべるんだなぁ、なんて思って。

 なんとなくホッとして話しかけた。

「キレイな髪の毛ですね」

「……あ?」

 初めて私に気付いたというように、はじかれたように上向けていた顔をこちらに向けたその人の、前髪のすきまから覗く目は嫌そうに細められていて、話しかけたのは失敗だったか……と私はちょっと怯んで、それでも言葉を続けた。

「そこまでの色にするの、大変でしょう? でもちっとも傷んでないみたいだから……」

「……あー、コレ、地毛だから」

「えっ、すごい」

 つい言っちゃうと、ギロリとにらまれて。

「……すごい?」

「ハ、ハイ……」

 私は様子をうかがいながら……ここでやめるとかえって失礼になるから……言った。

「すごい、キレイだから」

「……」

 その人が目を伏せて……目の下のくまのせいか暗い顔に見えた……前髪を指でいじり出して。

 肩を落として、唇を噛んで、黙り込んでしまったから。

 私はあえて明るい口調で言った。

「あっ、でも、かくれんぼの時にすぐ見つかっちゃいますね! 目立つから」

 ゆっくりと髪をいじる手を下ろし、その人は小さな笑みに口元をゆるめた。

「……いや、帽子かぶれば案外……っていうか、もうそんな年齢(とし)でもないから」

 あっ。

 私は自分がこどもっぽいことを言ったことに気付いて真っ赤になった。

 そうだよ、なに言ってんの、このトシでかくれんぼなんて。

 うわぁ〜……。

「ごっ、ごめんなさい!!」

 恥ずかしくて謝ると、その人は初めてしっかりと私の方を見た。

 二カッとこどものような笑みを見せて。

「なんで謝んの? 変なヤツ」

 それがすごくステキな笑顔で。

 私はさらに顔が熱くなるのを感じた。

 そして、自分でも自分が変なヤツだと思って笑った。

 ……ホントに、急に声かけて、変なこと言って、今日の私は変なヤツだな……って。

「この辺に住んでんの?」

 人見知りっぽく見えたんだけど、急に打ち解けた様子で、興味津々といったように身を乗り出して訊ねてくる。

 私もその人懐っこい笑みに誘われて笑顔で話す。

「はい。近くでもないんだけど、この街です。今日は友達と一緒に遊びに来たの」

「じゃ、また会えるかもな。敬語やめていいぜ。なんかくすぐったい。……ところでさ、遊びにって、まさか『かくれんぼ』じゃねぇよな?」

「やだっ、違うー!」

 この人、おかしい。面白い。

 それに話しやすい。

 ふたりして笑って。

 話してるうちにだんだん距離は縮まって。

 ベンチでくっついて座ってふたりして馬鹿みたいな話して盛り上がって。

 しばらくして。

「おまえ、名前は? 下の名前」

「依理愛」

「依理愛……ね。俺はウォルター」

「ウォルター……?」

「ウォルターでいいぜ」

 前髪をかき上げながらフッとかっこつけて笑ってみせるから私はまた笑って。

 そうしたら公園の入り口の方から私を呼ぶ友達の声がして。

「……呼んでるぞ?」

 親指で入り口の方を指差してウォルターが言って。

 でも私は動く気になれなくて。

 だって……。

「……ねぇ、ひとりで置いてかれるのって、淋しくない?」

 大丈夫?

 嫌じゃない?

 悲しくならないかな?

 すると、ウォルターはちょっと驚いたように目を見開いて、私を見つめて、それからふっとうつむいて、小さく笑ったんだ。

 それはとても淋しげで、悲しげで、切なくて。

「あ……」

 何か言おうと思ったけど、何も言えなくて。

「……」

 ふたりの間に流れる沈黙。

 それを押し流すような友達の私を呼ぶ大きな声。

 行かなきゃ。

 行かなきゃいけないのに、私、何を言ったんだろう。

 どうせ置いていくのに。

 ……でも、なんか……。

 どうしてもその時は、行きたくなかった。

 その場を離れたくなかった。

「行けよ」

 友達とウォルターを交互に見ておろおろする私に、顔を上げたウォルターがニッと笑って言う。

「俺も友達待ってるから、大丈夫。依理愛。気にしないで行っていいぜ」

「……う、うん! じゃあね!!」

 パシッ。

 立ち上がって走り出そうとした私の手首をつかむ手。

 見ると、ウォルターがベンチから立って、私の手首をとらえている。

「あー……」

 なんだか照れ臭そうにして、顔を赤くしてなにやらうめいた後、ウォルターはまるで怒るみたいにして言った。

「あの、メルアド!! なら、メルアド置いてけ!! 住所とか訊かねぇから!! なっ、いいだろ、依理愛? それくらいなら」

 再度『メルアド』と言ってケータイをごそごそとポケットから取り出す。

 私も慌ててケータイを取り出した。

 急かされて番号まで交換して、『気をつけろよ』と親みたいに注意されて、その日は別れた。


 あー……あれが始まりだったなぁ……。





(つづく)
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