夢小説1

□恋心
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 真っ赤な髪の毛にお日様の光が当たってキラキラ輝いてる。

 片耳の十字架のピアスが揺れてる。

 長い前髪の間から覗く黄色っぽい目が今は細められていて。

 いつも眠そうだけど、今日はとくに眠たそう。

 とろんとしてる。

 家のテーブルで私のいれたミルク入りのコーヒーを少しずつ飲みながら。

 疲れてるのかな。

 ちょっと顔をふせて物思いにふけるみたいにして、私の話を聞きながら時々こっくりうなずいて、相槌を打って。

 その度に、窓の白いカーテンを通って入ってくる日の光に、赤い髪がキレイに輝いて。

 両手でマグカップを持ってるのがこどもっぽくて。

 ……なんか、飲みながら眠たそうって、かわいいな。

 そう思ったら、急に切なくなって。

 ふっと、頭に浮かんだことを、つい口に出した。

「もうねー……、ウォルターなんか、大嫌い」

「え」

 ビクッと顔を上げて、目を見開いて、口も大きく開けて、彼氏様が固まった。

 ああ……言っちゃった。

 私は口をとがらせたままで黙り込む。

 少しして、ウォルターが慌て出して、早口で言った。

「えっ!? 今俺のこと嫌いって言った? 嫌いって言ったの!? 依理愛、俺、何かした? 嫌われることしてたっ? 俺、何した!?」

 その必死な様子に『ぷっ』とふき出してしまう。

「うーそっ。ホントは大好き!」

 きっぱりと言うと、ウォルターは首を傾げて呆然とする。

「……わけわかんねぇ……」

 ……だってさー。

 私は自分のカップに目を落とす。

 自分の分はミルクいりの紅茶。

 彼氏様のより淡い色の茶色を見つめて思う。

 ……好きだよ。大好き。ヤバイくらい好き。

 だからね。

 自分がなくなっちゃいそうっていうか、ウォルターのことばっか考えてて、でもたぶん私だけなんだろうなとか、ウォルターにはウォルターの考えることがあって、私がウォルターを好きなだけで、ウォルターにはもっと他に大事なことが色々あって……。

 そういうことを考えると切なくなっちゃう。

 そんなにホレさせてくれちゃって、ちょっと悔しいよ。

 憎いなーとか。

 好きだから、大好きだからなんだけど。

「やっぱり、ちょっと嫌いかな」

 顔を上げ、首を傾げ、軽くにらみつけて言う。

「え? 何それ? どっち!?」

 彼氏様ぽかん。

 私はまた目を落とす。今度は膝に。

 だってわがまま言ったら私のこと嫌いになっちゃうかなとか、でも大好きだからもっと一緒にいたいなとか、だけどウザイ女って思われないかなとか。

 うまく言うことができなくて。

 自分を見せることができなくて。

 そんな思いばっかさせるから、たまに憎らしくなるの。

 こんなに好きにさせてくれちゃって、ホントどうしてくれるの?

 ぷんぷんっ。

 ……なーんて。

 切ないよぅ……。

 いつかウォルターが離れていったりして、私はそれでも、多分あなたのこと好きなんだろうな。

 ……なんて思うから。

 わざとツーンとそっぽを向いて、口をとがらせて言う。

「好きだけど、嫌いっ」

「はぁ?」

 ……あ、悲しそうな顔になった。

 怒ったみたいに口をへの字にして、でも眉をひそめて、しょんぼりしてるの。

「……なんだよ、それ……。全然わかんねぇ」

 ダメな彼氏様だなぁ。

 鈍いぞ、ちょっと。

 私はしょうがないから口に出した。

「だからね、好きだから、怖いの」

「依理愛……」

 またまたぽかんとして。

 もうっ。

 私は早口で言った。

「好きで好きでしょうがないから憎らしいの。嫌いって思いたいの!! だって怖いんだもん。なんかこの気持ちに飲み込まれちゃいそうだしっ、ウォルターが離れてっちゃったら、私っ……!!」

 カタンッ。

 カップがテーブルに叩きつけられる。

 え?

「依理愛!!」

 ガタンと椅子から立ち上がったウォルターが私の手を握ってる。

 ええ? えええ?

 カップを握る私の両手にウォルターの両手が。

 私の両手をやさしく包み込んで。

 きょとんとして目を上げると、ウォルターがやさしく微笑んでいて。

 そして、低くおだやかな、心が落ち着くような声で、静かに力強く言った。

「……怖いなら、俺が傍にいてやるよ」

 呆然と見つめると、二カッと笑う。

「ずっと一緒にいてやるよ、依理愛」

「やっ……やだな、ウォルターってばっ……ホントバカッ!」

 ……もうっ、恥ずかしいことばっか言って、でも……。

 ずっと一緒……。

 それなら……。

「……うん、それなら怖くないかな」

「だろ?」

 得意げに笑ってくれちゃって……。

 カッコイイよ、やっぱり。


 ……うん、やっぱ、悔しいな。





(おしまい)

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