夢小説1

□魔女
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 ガチャッと部屋の扉が開く。

 待ってました。

 部屋の扉の前に立っていた私はにんまりした。

 人に向けてはいけないクラッカーを天井に向けて……と。

 扉を開けた人物がニヤリとして口を開く。

「依理愛、トリッ……」

 ……パーンッ!

 驚いて硬直するウォルターに私は満面の笑みを向けて言う。

「トリックオアトリート、ウォルター!!」

 魔女のとんがり帽子を被った頭を少し傾け、黒いフードつきのワンピースをひらりと揺らしてクスクスと笑い、腕にかけたカゴ……中にオレンジ色の布を敷いた……の中にクラッカーをしまい、かわりにパンプキンパイを取り出す。

「お菓子くれなきゃ顔面にパイ投げだよー?」

「……」

 目を見開いてぽかんと大きく口を開けて『信じられない』というふうに私を凝視するウォルター。

 ……あれ? 驚かしすぎちゃったかな?

 ちょっと心配になっちゃうぞ。

 立ったまま死んでない?

「えっ、ちょっ……ウォルター? 大丈夫!?」

「……」

 無言でヘタヘタとその場に座り込むウォルター。

 ええーっ、ちょっとぉーっ。

 愕然とした様子でつぶやく。

「それ……俺がやろうと思ってたのに……今……」

 わかってるよー。

 『トリックオアトリート』って言おうとしたんでしょ。

 だから準備して待ってたの。

 驚かそうと思って。

 わざわざ魔女のカッコまでして。

「普通家を訪れたヤツが言うもんだろ、トリックオアトリートって。ハロウィンって家々を回るんじゃなかったっけ? 待ち構えてるのってアリなの?」

 ぼんやりと上を見て嘆く。

 そんなこと知りません。

 いーじゃん、やりたかったんだもん。

「細かいこと言わないの! ほら、お菓子は? 持ってきてるのかなぁ、ウォルターは〜?」

 ちょっと意地悪く目を細めて声を低めておそろしげに言う。

 なにしろ自分が『トリックオアトリート』をやろうと思っていた彼氏様のこと。

 お菓子をもらうかいたずらをするかは考えていても、自分がその立場になるとは思っていなかったに違いない。

「……」

 3度目の沈黙を返すと、ウォルターはへたりこんだまま、やけに大きなスポーツバッグを開けて、中身を改め始めた。

「……カラーペン、スプレー、クラッカー、トカゲのおもちゃ、クモのおもちゃ、おもちゃのピストル、木炭、魔女の衣装、卵……」

 おいおいおい、ちょっと待て、ウォルター君。

「イタズラする気満々だったんだね……」

「当たり前だろ、依理愛。俺のためにあるようなイベントだ」

「それは違うと思う……ってか、私だってお菓子くらい用意してるし。……ところで、その『卵』って何?」

 無駄にキリッとしたイイ顔をしてウォルターがキラリと目を輝かせて得意げに言う。

「投げつけようと思って!」

「別れる」

 キッパリ。

 そんなことしたら即サヨナラ。

 見る見るウォルターが情けない顔つきになる。

「……本当にはしないって、依理愛……。するわけないだろ。ただ俺はちょっと脅かしたくて……」

「ねえ、ウォルター。一体どれだけイタズラする気だったの?」

「……ん、うーん、むー……」

 あごに手を当て天井をにらんで何か考えこんでいたウォルターは、ビラッと魔女の黒いドレスを引っ張り上げた。

「依理愛、おまえに魔女のカッコしてもらって、写真撮りたくてさ……。かっ、可愛いから」

 最後にはちょっと赤くなってぽつりと言う彼氏様。

「もう着てますが」

 黒いワンピースってカンジだけど、一応帽子も被ってるし、ちゃんとした魔女の衣装グッズだし。

 どっちかというとウォルターの持ってる高そうなドレスより魔女っぽい。

 下からじっと上目遣いに私を見たウォルターが真面目な顔でうなずく。

「うん。似合ってる。さすが依理愛、可愛い」

「ありがと」

 うーん、照れるなー。

 もうっ。

 熱くなった頬に手を置いて、ピンと思いついた。

「あ、ウォルター、お菓子持ってないんだよね? じゃあ、それ着て写真撮ろうよ。ね、それが私のイタズラ」

「うわっ」

 ウォルターが口を手のひらで覆って、まじまじと私を見る。

 悲しそうに眉を寄せて。

 売られていく小牛のような目で。

 ……そんな顔してもダーメ。

 おそるおそると卵を持ち上げて私に掲げて見せる。

「……なぁ、コレじゃダメ? お菓子」

「ダーメッ!」

 確かにクッキーやケーキの材料にはなるけれど……。

 逃がすもんか。

 私だっていたずらは好きなのだ。

「そのかわり、後でパンプキンパイあげるね。手作りなんだよ。けっこう美味しくできたと思うな。その卵でも何か作ってあげる。だから、ね? ……観念してそのドレスを着ること!」

「うん……」

 しょんぼりとしてうなずくウォルター。

 今年は私の勝ち。

 ……でも、ま、何かさせてあげてもいいな。

 持ってきたバッグの中身を使わなければ。

 つまり、その……。



 ウォルター自身が、することだったら、ね。





(おしまい)

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