小説(1)

□座談会もどき
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*座談会もどき。



「……『俺の許可なしに、俺に触るな』って……言ったよな、バジル?」
 首を傾げてウォルターが訊ねる。
 目の前のバジルをじっと見据えて。
 バジルが『ハッ』と唾を吐き出すようにして笑う。
「……それがどうかしたのか?」
 あからさまに『くだらないことを』というように、垂れ眉の根を寄せて、大きな目をすがめて、わずかにあごを上向け、呆れたような顔をして見せる。
 憐れむようでも、蔑むようでもある。
 だが、ウォルターはそれにも構わず、ごく真剣に、『ああ』とうなずいた。
 真面目に、意気込んで、『ああ!!』と。
 バジルの寄せられた眉がさらにきつく寄せられ、鼻の頭にしわができる。
 思いっきり不審げだ。
「……なんだよ?」
「『俺の許可なしに、俺に触るな』ってことは、許可があったら触ってもいいってことだよな?」
 ウォルターが真顔でずいとバジルに迫る。
「おまえに触ってもいいか? 許可をくれ」
「……馬鹿か? てめぇ」
 本格的に呆れた様子でバジルがため息を吐く。
 『やれやれ』と腰に手を当てて。
 疲れた様子で首を横に振る。
「いいわけねぇだろ。てめぇに触られるのなんかご免だ」
 ひょこっとアンディがウォルターの後ろから顔を出す。
「じゃあ、なんで『俺の許可なしに』なんて言ったのさ、バジル」
 突然のアンディの出現にビクッとしていたバジルは、出された言葉に顔をしかめる。
「それは……」
 ウォルターもこぞとばかりに責めたてる。
「そうだぜ、触っちゃいけないんなら、『俺の許可なしに』なんてつける必要ないじゃん。許可を得れば触ってもいいってことだろ。自分の発言には責任持てよ」
 並んでじっとバジルを期待の目で見つめるふたりに、バジルは表情を消して、じっとふたりを見つめ返す。
「……」
 やがて、顔を背け、またやれやれとため息を吐き、肩をすくめ、ぼそっと言った。
「……いいだろう。ただし、俺は『汚い手で触るな』と言ったんだ。触るならおまえらまず手を洗ってキレイにしてこい」
「「はーい」」
 ふたりの良いお返事が重なった。
 ウォルターとアンディは手を洗いに行く。
 そして、先に戻ってきたウォルターが、バジルの正面に立つ。
「洗ってきたぞ。触ってもいいんだよな。それじゃあ……」
 ……ゴッ!!
 殴りかかろうとした手はバジルの手によって止められる。
 バジルが目をつり上げて怒鳴る。
「なにっ……考えてんだ、てめぇはぁっ……! いきなり殴りかかるとか正気か!? そんな流れだったか!? 違うだろーがっ!!」
 対してウォルターも同様に目をつり上げて怒鳴り返す。
「俺がしたかったのはこれなんだよ! 触っていいんだろーが!! 1発殴らせろ!!」
「上等だ、てめぇ、コラ!! こっちからも触ってやる!! そのキモい顔こぶしで整形してやるわ!!」
「こっちこそ!! てめぇのキモい性格を外側から叩き直してくれるわ!!」
 少し離れたところで手を洗って戻ったアンディが呆然として眺めている。
「ふたりとも何言ってんのかわかんない……」
 ぽつりとつぶやき、バジルに向かって『ねえ、手ぇ洗ってきたよ、ボクも』と声を投げる。
 バジルの視線がアンディに移る。
「触っていーい?」
「……ああ、まあ……」
 微妙に警戒しながら、それでも今さらNOとは言えない。
 すると、アンディはさっと地面にしゃがみこみ、そのまま横に倒れてごろごろと地面を転がった。
 手は汚れないように上げたまま。
 そして、ある程度ごろごろすると、バッと立ち上がった。
 地面は土。
 当然ながら髪の毛まで泥と砂まみれである。
 呆気にとられてその行動を見守っていたバジルとウォルターの内心の声が重なる。
((手以外の全身が汚ねぇっ……!!))
 泥と砂まみれのアンディが無表情のままでトタトタとバジルに向かって駆けてくる。
「バジルー」
 バジルは戦慄してわめいた。
「来るんじゃねぇ、アンディ! よせっ、やめろ!!」
 ジリッと後退して、バッと背中を向けて駆け出す。
 それをアンディが追いかける。
 しかも足が速い。
「バジル! バジルー!!」
「止まれ、ついてくんな、アンディ! てめぇぇぇえっ……!!」
 悲鳴のような声が上がる。
 ひとり残されたウォルターはぽつりとつぶやく。
「……捨て身の嫌がらせ……」





(おわり)

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