Novel
□Anniversary
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一日
また一日
過ぎてゆく時の中で
またあの日がやって来る。
Anniversary
「おはよー!さ、起きて起きて!」
私はそう言いながら、彼の包まった布団を引っぺがす作業に入った。
だけど彼も小柄ではないので、布団の端を思いっきり引っ張ってもあまり動かない。
私が悪戦苦闘している内に、彼は低く呻きながらもぞもぞと動き出した。
『んー・・・あと5分・・・って、お前なんで俺ん家に居るんだよ!』
「ジャーン!合い鍵マジックなのでした☆」
『いや、マジックでも何でもねぇし・・・』
彼はそんな軽いツッコミをかましながら、頭をくしゃくしゃと掻いて大あくび。
私はその隣にちょこんと座って、意味も無く彼の寝癖をつついていた。
『おい、寝癖つつくなよ』
「だって・・・ペンギンみたい(笑)」
『ぺ・・・』
「あはは、これ超ペンギン!王様ペンギン!ちょっ、写メ写メ」
『・・・・・・』
シャッター音の後、二人で画面を覗いて大爆笑。
その画像を保存するしないでモメて、私の携帯は彼に奪い取られた。
「ちょっとー、返してよー」
手をいっぱいに伸ばしても、彼の肘くらいにしか届かない。15cmの身長差はやっぱり偉大だった。
仕方無く、私は彼の頭をぺしぺしと叩いてウサを晴らす。
「もー、返してよー!」
『これ消したらな!えーっと、どうやるんだ?』
「いやー!消しちゃダメ、待受にするんだから!ばか!あほ!S!」
『Sって言うな!・・・あれ、メール来た』
携帯の画面が明るくなり、ライトが点滅してメールの受信を知らせる。
部屋に響いた着うたは、私たち二人が大好きなアーティストのものだった。
そう言えば、と懐かしく思い出すのは、過去の二人。
「・・・私たち、この人通じて出逢ったんだよね」
『んー、そうだったな』
「今日が何の日か、覚えてるよね?」
『当たり前。付き合って2周年の記念日だろ』
覚えてた!
ぱぁっと輝く私の顔。
『画像は消したけどな』
途端にショボーンとする私の顔。
携帯をポンと膝の上に返されたけど、メールを開く気にもなれない。
「ペンギン・・・」
『・・・そんな落ち込むことか?』
「・・・・・・」
『・・・仕方ねぇなぁ、俺が元気にしてやるよ』
そう言って、ニッコリ。
不審げな顔をする私に一歩近づき、軽く口づけた。
「・・・・・・」
『元気出た?』
「・・・ケッ」
『女の子が「ケッ」とか言うんじゃありません!』
その時、私の携帯に二度目のメール受信。
再び流れた短い歌声に、二人で耳を傾けた。
『・・・この曲、確かこの歌手のお姉さんが結婚した時に贈った曲・・・って言ってたっけ』
「うん・・・素敵だよね」
『・・・あのさ』
「何?」
『あのさ、お前、俺と・・・けっ・・・』
「?」
『俺と、けっ・・・けっ・・・・・・ケーキでも、食べに行かないか?』
「行くー!」
『・・・・・・はぁ(溜息)』
手を繋いで二人でケーキ屋さんまで歩いている途中、そういえばメールが届いてたなーと思って携帯を取り出した。
折りたたみ式の携帯を開いた途端、
「・・・・・・!!」
私は手を繋いだまま、隣の彼に抱き着いた。
私の携帯の待受画面は、いつの間にか彼のペンギン姿に設定されていたから。
私が笑い、彼が笑う。
彼が笑い、私が笑う。
繋いだ手は、同じ温度。
こんなありふれた日常を繰り返して、一日、また一日と時は過ぎる。
そして何度でもこの日を迎えよう。
君と一緒に。
End.