武神と巫女
□十五,最後まで気を付けましょう(略)
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後日。
ベン ベン
「そうかい。伊東が死んで、真選組が生き残ったか。」
屋形船の中、二人の男が三味線を弾いていた。
「存外まだまだ幕府も丈夫じゃねーか。いや 伊東がもろかったのか。」
男は妖しく笑いながら言う。
「それとも万斉、お前が弱かったのか。」
二人の男は鬼兵隊の中核──高杉と万斉であった。
「元々 今回の仕事は真選組の目を幕府中央から引き離すのが目的。“春雨”が無事密航し中央との密約が成ったとなれば戦闘の必要もなし。
牽制の意は果たしたでござる。」
万斉は平然と言う。
「俺ァ、真選組を潰すつもりでいけといったはずだ。」
ムッとしたように高杉が返す。
「何事にも重要なのはノリとリズムでござる。これを欠けば何事もうまくいかぬ。ノれぬとあらば即座に引くが拙者のやり方。」
「万斉」
ベン、と三味線の静かな音が響く。
「俺の歌にはノれねーか。」
「………白夜叉が俺の護るものは今も昔も何一つ変わらん…と。晋助…何かわかるか」
「…………」
「最後まで聞きたくなってしまったでござるよ。奴らの歌に聞きほれた拙者の負けでござる」
「……そうか」
再び、三味線の音だけになる。
「…もう一つ、目的があったはずだが、それは果たしてきたか?」
「してきたでござる。はっきりとは確認出来なかったが…一人だけ隊服が違う、髪の長い奴がいたでござる。」
そこで万斉は立ち上がった。
「ただ…此方の者達が何人も、其奴一人に負傷させられたのは確か。」
「へぇ…じゃあお前はそいつが、」
「“藍眼の黒龍”だと思われる。」
ククク、と高杉は笑う。
それを見届けて万斉は部屋から出ていった。
「─……だ、そうだと。居るんだろ。」
そこで入ってきたのは琴を携えた一人の女。
「高杉様、お気付きになるのが早いですこと。」
「気配にゃ鋭いモンでね。お前はどう思う、さっきの話。」
「……特徴だけを聞いていれば間違いなくそうですわ。あの子です。
──やっと、やっと見つけたわ。」
琴と三味線の音が響く。
「まだ確証はねェ。それにお前にはまだ乗せてやってる分働いてもらってねェからな。」
「分かっていますわ。
……この黒巫女、約束は違えませんわ。」
女は妖しく笑った。
「そうか。ククク、この先楽しみだなァ。」
それに対して高杉も、妖しく笑い返すのだった。
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