武神と巫女

□十五,最後まで気を付けましょう(略)
1ページ/3ページ




後日。



ベン ベン


「そうかい。伊東が死んで、真選組が生き残ったか。」


屋形船の中、二人の男が三味線を弾いていた。


「存外まだまだ幕府も丈夫じゃねーか。いや 伊東がもろかったのか。」


男は妖しく笑いながら言う。


「それとも万斉、お前が弱かったのか。」


二人の男は鬼兵隊の中核──高杉と万斉であった。


「元々 今回の仕事は真選組の目を幕府中央から引き離すのが目的。“春雨”が無事密航し中央との密約が成ったとなれば戦闘の必要もなし。
牽制の意は果たしたでござる。」


万斉は平然と言う。


「俺ァ、真選組を潰すつもりでいけといったはずだ。」


ムッとしたように高杉が返す。


「何事にも重要なのはノリとリズムでござる。これを欠けば何事もうまくいかぬ。ノれぬとあらば即座に引くが拙者のやり方。」

「万斉」


ベン、と三味線の静かな音が響く。


「俺の歌にはノれねーか。」

「………白夜叉が俺の護るものは今も昔も何一つ変わらん…と。晋助…何かわかるか」

「…………」

「最後まで聞きたくなってしまったでござるよ。奴らの歌に聞きほれた拙者の負けでござる」

「……そうか」




再び、三味線の音だけになる。




「…もう一つ、目的があったはずだが、それは果たしてきたか?」

「してきたでござる。はっきりとは確認出来なかったが…一人だけ隊服が違う、髪の長い奴がいたでござる。」


そこで万斉は立ち上がった。


「ただ…此方の者達が何人も、其奴一人に負傷させられたのは確か。」

「へぇ…じゃあお前はそいつが、」

「“藍眼の黒龍”だと思われる。」


ククク、と高杉は笑う。
それを見届けて万斉は部屋から出ていった。



「─……だ、そうだと。居るんだろ。」



そこで入ってきたのは琴を携えた一人の女。


「高杉様、お気付きになるのが早いですこと。」

「気配にゃ鋭いモンでね。お前はどう思う、さっきの話。」

「……特徴だけを聞いていれば間違いなくそうですわ。あの子です。

──やっと、やっと見つけたわ。」


琴と三味線の音が響く。


「まだ確証はねェ。それにお前にはまだ乗せてやってる分働いてもらってねェからな。」

「分かっていますわ。
……この黒巫女、約束は違えませんわ。」


女は妖しく笑った。


「そうか。ククク、この先楽しみだなァ。」


それに対して高杉も、妖しく笑い返すのだった。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ