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□化け猫と少女
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「もしも彼女にバレてしまったら…?」
『隠し通せないのなら、全部失ってもいいよ。』
そう言って“彼”は笑った。
これは、こんな契りを交わして人と恋に落ちた、化け猫の話―。
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僕がずっとここ最近ずっと気にかけてる女の子。
その彼女の恋人が、消えたらしい。
なんでも、彼は死病を患っていたらしい。
で、自分の見苦しい最期を見せたくない、とかで失踪したんだとか。
「大丈夫だよ。」
心配そうにすり寄る僕を見て、彼女はこんなことを言う。
でも、恋人を無くした彼女の顔は暗くなってた。
彼女によるとなんでも彼とは随分長いこと一緒にいたらしいから、心に傷を負うのも当たり前だ。
けれど僕は、彼女の笑顔を取り戻したかった。
だから誓ったんだよ、満月に。
「僕は、彼に化けて生きる。」と。
彼に化けた僕を見て、泣き崩れる君。
そんな君を僕は強く抱き締めた。
「もう、君を一人になんかしないよ。」
そんな確定はないのに言った言葉は、残酷だ。
―ああ神様、僕は残酷だ…。
記憶喪失を演じて、君を騙した。
でも君のその笑顔のためなら、どんな嘘も罪も許される。
そんな気さえしていたんだ…。
けど、ある晩ついに君は切り出した。
「ねぇ…貴方の瞳はね…総司とは違ってるの。だけどそれでも構わない。どうか、私の傍にいて。」
ついに気付かれてしまった。
そのことで震えだした僕を抱き締めて君は泣いた。
「お願い、もう一人にしないで。」
―ああ神様、これが罰なんですね。
僕は契りを破った。
だからもう、君の隣にいる資格はない。
段々と猫に戻っていく僕の体。
化けの皮が剥がれて、契りを破った代償で人の言葉も失って。
そうして逃げる僕の背中に、確かに君は言ったんだ、
…『ありがとう。』と。
―ああ、僕はなんて罪深い。
だから君よ、
どうか憎んでおくれ…。
〜終〜.