薔薇の花園
□ほろ苦く、甘酸っぱい。
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「トシ、お前は明日休みだ!」
局長室に入った瞬間、近藤さんにこう言われた。
「はぁ!?いきなりなんなんだよ、近藤さん!」
いきなり呼び出されたたかと思えば、これまたいきなり休みを言い渡された俺。
「いやぁ、トシは正月もほとんど働き詰めだったからなぁ…それに、お前は俺から言わないと休み取らないだろ?」
「近藤さん…」
言い方はぶっきらぼうだったがそれは近藤さんなりの気遣い。
明日一日をゴリラストーカー―もとい局長の近藤さんに任せておくのはいささか不安だったが、俺はそのまま明日一日の休みをもらうことにした。
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局長室を出ると、縁側で総悟が座っていた。
「おい総悟…ここで何してんだ。」
「あ、土方さん。…ちょいと休憩でさァ。ところで、近藤さんとは何を話してたんですかィ?」
休憩って…たしか総悟は今日、道場で稽古つけんじゃなかったか?
そんなことを考えつつ、俺は総悟の質問に答えた。
「さっき近藤さんから明日一日オフ、っつわれた。」
瞬間、総悟がニヤリとしたのは…俺の気のせいではないだろう。
「奇遇ですねィ…オレも明日一日オフでさァ。」
「そうなのか…」
―一応、俺と総悟は恋人だ。だが、警察という職業柄、二人揃っての休みなんか数える程しか取れたことがない。
第一、俺は副長で総悟は一番隊隊長。幹部が二人揃って休むなんて俺が怖い。なにが起きるか分からねぇ、ってのに…
「土方さん、」
俺が考え事をしていると、総悟が話しかけてきた。
「なんだ?」
「…よかったら、明日一日一緒に過ごしやせんか?」
「それ、俺が先に言おうとしたんだが…」
「土方さん、明日が何の日か分かってないですよねィ?」
「……」
…図星だ。
「はぁー、明日、何日か分かりやすかィ?」
「えー…2月14日?」
「そうでさァ。」
「「……」」
2月14日。その日が何の日か…
答えは簡単だ。
「もしかして明日って…
バ、バレンタインデーか?」
「やっぱり忘れてたんですねィ…」
バレンタインデー。甘い物が苦手な俺にとってそれは厄日でしかない。今でも多数の女からチョコが送られてくる。だが、手作りチョコでも、市販の高級チョコでも、貰っても大抵自分では食べない。甘過ぎて自分では食べきれないんだ。
去年は―たしか、総悟と恋人になってから初めてのバレンタインデーだったから…
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「ほら、土方さん。あーん。」
総悟が甘い物を俺に差し出す。
「だから俺は甘い物は苦手だって…」
瞬間、総悟の瞳がキラリと光る。
マズい。
「自分で食べられないんだったら…」
とたん、総悟が俺に近付いてくる。
「!!や、やめろ!そうっ……
…んっ……はっ……」
―――
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駄目だ。あれを思い出したらまた目眩がしてきた。
「…じかた…土方さん。」
急に呼ばれて軽く驚いたが、そう言えば今は総悟と話をしている最中だった。
「はっ…あ、あぁすまねぇ。」
「土方さん、オレ今年のバレンタインは…
土方さんと一緒に、チョコ作りたい。」
………
「…は?」
「土方さんは甘いモン苦手でしょう?だから二人で作ればビターチョコ作れるし…ビターチョコだったらきっと土方さんも食べられるはずでさァ…///」
最後の方は照れからか声が小さくてあまり聞き取れなかったが、総悟が俺を気遣ってくれているのは分かった。
ちくしょう、嬉しい。
「…わ、わかったよ///」
「本当ですかィ!?明日が楽しみでィ、土方さん!!」
俺がOKを出したことが余程嬉しかったのか、目をキラキラさせながら総悟がそう言った。
…実は俺の方が明日を楽しみにしている。とか言ったら総悟は怒るだろうか。
どうだろう。
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