武神と巫女
□三,泣きたいだけ、泣けばいい。
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『すいません!通して下さいっ!!』
「俺は真選組の隊士でィ。早く通しなせェ!」
かなり焦っている様子の乙葉と少し苛立ちつつある沖田は、大勢の野次馬をかき分けて人混みの最前列まできた。
そこまでくると神社の周りの様子がはっきりと分かった。
『神社が!』
―神社は火に包まれていて、今から消火活動をおこなったとしてももう手遅れな状態だった。
そしてその周りの空き地で、
その瞬間、
誰かが、
十数人に囲まれて、
刺された。
『!!!!!
……お、お父様ぁぁ!!』
「!」
そう――刺されたのは、乙葉の父である、守村幸太郎だった。
『お父様っ!!』
「待ちなせェ!」
沖田の制止も聞かずにすぐに乙葉は父の元へと走っていった。
『大丈夫!?お父様!』
そばに駆けつけた乙葉がそう呼びかけるも、父・幸太郎は既に虫の息だった。
「乙葉…せめて…お前と“あの子”が会わずに…大人になるまでを…見守り…たかった…」
『いやっ!まるで今死ぬみたいなこと言わないでよ、お父様!!』
「乙葉、お前は…自分の役目を…忘れてはいけないよ。…きっとこの先一度は…必ず辛い出来事が…あるだろう。…でも前を向いて…父さんがいなくても…常に正しい道を…選べるようにしなさい。…お前は…
白巫女…なのだから。
あぁ……揚羽…乙葉…お前達を…見守ってやれない…父を…どう、か…許して…く、れ…」
その言葉を最期に、幸太郎は息を引き取った。
『いやぁぁぁぁ!!』
彼女の悲痛な叫び声だけが、神社に響いていた。
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