剣と華

□涙のカケラ
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ガレーラが用意してくれた小屋を出て、ブラブラ歩く。普段、オレがひとりで出掛けようとすると全力で止める一味が全員いなかったから今のうちだ。
別に欲しいもんがあるわけじゃねぇが、市民に追われ、アクアラグナに襲われ、すぐエニエスロビーに出発したから、ゆっくり街を見る機会がなかった。街は災害前とは違う様だろうが、美しい水の都と言われるここをゆっくり歩いてみようとふと思い立った。ついでに酒屋があったら調達しよう、

人が言うほど方向音痴じゃねぇと思うが、何度も同じ公園の前を通りかかる。酒屋も見かけない。何時間かさまよい歩き、いい加減諦めて公園のベンチに腰をおろした。誰かに偶然会うといいのだが。

ふぅと一息ついて目を閉じると、途端に睡魔が襲ってきた。このまま少し眠るとするか。
だが視覚が奪われると、聴覚と嗅覚が研ぎ澄まされる。
コツコツとヒールの音がする。そしてフワッと香る匂いは花。毎日嗅いでいる匂いだ。
仲間だ。ちょうどいいところに会えた。

クルーの中では一番の新入り。
敵として出会ったから、しばらく警戒していたが、今は違う。
少しずつでも距離を縮めていければ。

おい、と声をかけたいところだが、眠気がオレの体を支配する。
おいロビン。帰るのか。その前に酒屋行きてえんだが知らねえか。

頭の中で呼び止めると、思いが通じたのか、ヒールの音が一瞬止まり、こちらに向かってくるのが分かった。香りがだんだん近づいてくる。この香りは嫌いじゃねぇ。いや、むしろ好みと言うか。

ヒールの音はオレの前でピタリと止まった。
香りが鼻腔を優しく刺激する。

「剣士さん…?起きてる…?」

ああ、起きてる。

…だめだ。口に出そうとも眠くて体が動かん。

「剣士さん…。」

香りが動く。隣に座る気配がする。

「聞こえてないかもしれないけど聞いてくれる?」

ああ、聞いてる。
オレも聞いてほしいことがあるんだが。

「あなたが助けに来てくれて嬉しかった。私の為に戦ってくれるなんて…。」

…。そうだよな。ずっと警戒してたからな。
今となっちゃ少しすまねぇと思ってる。

「ずっと本音を見せなかったのに。あなた達を暗殺犯にしようとしたのに。」

たった一人で生き抜いてきたんだろう。
一味を守る為の政府との取引だったんだろう。
分かってる。

「私にも仲間と呼べる人ができた。でも、仲間と思ってたのは私だけかもしれないって。こんな…。私に…。あなた達を…。裏切ったのに…。死にたいなんて言っておいて、本当は死ぬのが怖かった…。」

誰もお前が裏切ったなんて思っちゃいねぇ。
誰が命を狙ってたとしても、お前を死なせてたまるかってんだ。

女の香りが強くなった。
体温を感じた。
羽毛のような軽さと柔らかさに触れた。
女がオレの肩にもたれている。

いや、違う。
オレが女を抱き寄せた。
女がビクッと動き、はっと息を飲むのが分かった。体がすこし強張っている。

そういや、女を抱き止めるのは二回目だ。
空島で触れたとき、驚くほどこいつは『女』だと思った。細えくせに柔けえ。
オレはもう一度触れたかったのだろうか。

「オレ達のそばにいる限り、お前は死なねぇ。安心しろ。二度と離れるんじゃねぇぞ。」

頭の中の声じゃねえ。
女にも聞こえる声が出た。
女の体に入っていた力が緩んだ。

「もう、大丈夫だ」

ぽんぽんと頭を叩く。
そしてゆっくり撫でてやる。
髪はさらさらとして気持ちいい手触りだ。
オレの肩で、女がうんうんと何度も頷く。

空いてる手で女の頬に触れる。
ゆっくり目を開けて、オレの目と女の目を合わせる。

女の目からははらはらと涙が零れている。
熱くて痺れる何かが、オレの体に迸った。
女の目尻にそっと唇を寄せる。
零れている雫にも。
女から流れるもの全てを吸い取ってしまいたい。

再び目を合わせる。
女は恥ずかしそうに優しく微笑んだ。
それでいい。そんな笑顔でいてくれれば。
オレも笑い返す。

「ロビン」

「なあに?」

「おかえり」

「ありがとう!ただいま!」





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エピローグ



「そういや、チョッパーがずっとついてなかったか?」

「ええ、さっきまで一緒だったのだけど、航海士さんとコックさんに会って、買い出しの荷物持ちに駆り出されたわ。」

「お前は?」

「私も行くと言ったのだけど、疲れてるだろうから帰って寝てなさい!って航海士さんに。」

「そうか」

「剣士さんは?」

「ああ、…まあ、…散歩だ」

「…。うふふ。近くに酒屋さんがあったわ。何本かご馳走するけど一緒に行ってみない?」

「ほんとか?じゃあ、今回オレが倒した敵の数の分だけ奢ってもらうとするか」

「…。お店ごと買い取るのは無理よ…。」



END

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