剣と華

□素直になるって難しい
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天気は快晴。風もちょうどいい。船は順調に航海を続けている。

一味はそれぞれ思い思いの場所で、思い思いに過ごしている。平和ないい時間だ。

オレは朝飯を食べた後、工場に籠って発明に取り組んでいた。新世界に入り、敵も強くなった。オレも2年の間に少しは逞しくなったと思うが、一味のパワーアップを目の当たりにして、まだまだ進化しなけりゃな、と思ったんだ。

攻撃を強化するのはもちろんだが、防御も何か考えないと。とにかくルフィの、一味の力になりたい。

しばらく細かい作業を続けていると、目が疲れてきた。狙撃手のオレが近眼なんて話にならないからな。疲れを感じたらすぐ休むようにしている。今回も手を一旦止めて、甲板に出た。

緑の芝生と青い空、青い海は目に優しい。心まで落ち着く。
うーんと伸びをすると、疲労が体から抜けて、風に流れて飛んでいきそうなくらい気持ちがいいな。

すると、キィッとラウンジの扉が開いて、ロビンが出てきた。よう、と声をかけると、あら、と笑って近づいてくる。

「何してたんだ?」

「裁縫よ」

「裁縫?」

思わず聞き返してしまったが、オレは知ってる。
ロビンは、服に無頓着な男連中の、ほつれた裾ややぶけたポケット、取れかかったボタンを黙って直してくれている。

「そうか。いつもサンキューな。」

「いいえ。どういたしまして。ウソップも発明に取りかかってるのでしょう?お疲れさま。」

「ああ、まあな。いつまでもお荷物でいたくねぇしな。武器はどんどん強化していかねぇと。」

「あら、あなた随分逞しくなったじゃない。ゾロが感心していたわ」

「ゾロが?!」

「ええ。体つきが男らしくなったって。私もそう思うわよ」

意外だな。ゾロに誉められるなんて。あいつは他人に結構厳しい。ひねくれてるわけじゃなくて、ハッパをかけてるんだ。分かってるから、厳しくされても嫌な気はしない。それに、何よりも自分に対して一番厳しいからな。
でも誉められるのは若干照れ臭い。

「そうか。ありがとな。裁縫は終わったのか?」

「まだあと少しあるのだけど、ちょっと休憩。目を酷使するし、肩が凝るから」

そう言って、無意識のうちにだろう、肩を揉む仕草をした。

「ロビン、そこ座れよ。肩揉んでやるよ」

「あら、いいの?」

「おう。いつも服を直してくれてるお礼だ」

「うふふ。ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」

ロビンはそう言うと、芝生にぺたんと座り、長い髪を一つにまとめて体の前に流す。後ろからは、ロビンのきれいなうなじが丸見えだ。だからと言って、ドキッとしたりはしない。きれいだとは思うが、あいつが、つまりゾロが、ロビンに惚れてるからだろう、女性として見るのは憚られた。

いや、完全に女なんだけどな。オレはロビンのことは「優しくて意外と面白くて、頭いいくせにツッコミがいのあるヤツ」としてみてる。
肩を揉むのもさっき言ったようにただのお礼。
ゾロが見たらどんな顔すんのかな。見てみてぇな。

ロビンの肩に手を置き、親指にぐっと力を入れる。
固ぇな。毎日本をたくさん読んでいるのもあるだろう。そして、あらゆる分野の、たくさんの知識を吸収し、オレ達の旅の知恵袋となってくれているんだ。

「まあ、とっても上手ね。本当に気持ちがいいわ」

「だろ?手先が器用なのが取り柄だからな」

肩甲骨や、背骨の横もぐいぐいと押していく。力を入れて押すだけではなく、たまにさするように揉みほぐしたりと強弱をつけながら。
ロビンはリラックスしているのだろうか、体は完全に力を抜いており、時折はぁ〜と息を吐いているのが分かる。

しばらく談笑しながら肩揉みを続けていると、ふと背後に何やら殺気を感じた。きたきた、ゾロだな。分かってても、あえて止めない。さて、どんな顔して、何て言ってくんのかな。

オレは小声でロビンに話かける。

「なあ、後ろにゾロがいるのは分かってるな?」

「ええ…。」

「お前ら、まだ何の言葉もないんだろ?言葉っつーのはつまり、二人の仲を進展させるもんだ」

「…そうなの。分かる?あの人は私をどう思ってるのかしら…」

…。いや、この殺気で分かりそうなもんだけどな。やっぱちょっと抜けてるんだ、ロビンは。

「ゾロの気持ちを知るいい機会かもな。このまま続けるぞ」

コソコソ話してるのが気になったのか、殺気がどんどん近づいてくる。

「おい、ウソップ」

やっときたぞ。笑いをこらえながら、なんだ?とゾロの顔を見る。

こっ、怖ぇーー!顔がヒクヒクしてるぜ!斬られそうな勢いだ!
おまけにすげぇ汗だな。まあ、展望台で鍛錬中に、ふと外を見たらオレ達が見えたんで、汗も拭かずに飛んできたってとこだろうな。
おいおい、そんなに睨むなよ…。
だが、不安そうな顔で見上げるロビンをチラッと見ると、みるみる顔が赤くなっていく。可愛いとこあるじゃねぇか。さて、何て言うのかな。

「…俺にもやってくれ…」

…は?こいつ何言ってんだ…?
たぶん、いやきっと本音としては「俺と代われ」なんだろうな。でもそれが言えなかったと。とんだヘタレだな。

「お、おう…いいぞ…」

「あっ…どうぞ、ゾロ。私はお水とタオル持ってくるわね」

「ああ…サンキュ…」

「ウソップありがとう」

「おう、またいつでもしてやるぜ!」

ロビンはにっこり笑ってラウンジに入っていった。
…また殺気を感じる。

「お前な、あの言葉はなんだよ…。何でオレがお前に…」

「うるせえ!分かってるよ!俺だって何でお前なんかに…」

「ロビンはお前の言葉を待ってるぞ」

「…。」

「はあ〜、1億2千万の男が、惚れた女に思いを告げられないなんて情けねぇなぁ〜」

ゾロはガクッと頭をうなだれる。ショックうけてやがんのか。

「こうなったら、オレがいかにして肩揉みまでなだれこめるか伝授してもいいが。もちろん、肩揉みのコツもだ。まあ、ゾロ君にやる気があればの話だが…」

ビクッとしたゾロは急にガバッと土下座をした。
緑の芝生に緑の頭。そこだけ芝が長いみてぇだ。

「頼む!」

おー潔いじゃねぇか。これが武士道なのか?
ここまでされたら断れねぇからな。
まあまあ、頭をあげたまえ、と言おうとすると、再び扉が開いた。土下座のゾロが丸見えだろう。

「お待たせ、ゾロ…あら、どうしたの…?」

「!!」

…とんだ恥ずかしいとこ見られちまったな。ははは…。


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エピローグ


「だから、ここをぐっと押してだな…」

「ここか?ぐっと…」

「ウギャーーーーッ!殺す気か!」

「す、すまん…」

「お前は力があるからちょっと加減しろ!ここだ、ここをだな…」

「…ここか?」

「おわっ!もっと弱く…押す場所はいいぞ…もうちょっと優しく…」

「…こんなもんか?」

「ああ、いいぞ…やればできるじゃねぇか…うん、気持ちいいぞ…」

「そ、そうか…」

ナミ「あんた達何やってんのよ!気持ち悪い声出さないでよ!」

「「!!」」



END

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