剣と華

□証人
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今日の見張りはロビン。
昼間、ついうとうとと眠ってしまったこともあり、なかなか寝付けない私は、ロビンに会いに行こうと思い立つ。
そうだ!こないだ立ち寄った島で買ったワインも持って行こうっと。
あとは、チーズと生ハム。男どもには内緒で、二人で飲むときだけの必須アイテム。

私とロビンは、たまに女部屋で夜通し語り明かすこともある。船のことはもちろん、洋服のこと、美容のこと、お互いの過去のこと、恋愛のこと。
ロビンはみんなといるときは、比較的おとなしめかもしれないけど、実は結構おしゃべり。美人でナイスバディ。頭も良い。戦闘も強い。怖いこと言うわりには、いっつも笑顔。
結構普通の女の子なのよね〜。


ロビンが仲間に加わってすぐ。いきなり敵船に襲撃されたことがあった。ロビンに対しての疑惑が溶けないままだった私は、お手並み拝見といこうじゃないの、とロビンをチラチラ盗み見。
すごいわ!一瞬の迷いも見せず、あっという間に敵を倒していく。戦い慣れてる感じ。
「へぇ、さすがお姉さまだ!こんなに美しく戦うなんて!」
サンジ君も気になってたのかしら。私を庇いながら呟く。
そうなのよ。優雅というか、華麗というか。
敵の関節はあらぬ方向に曲がってはいるけれど、ロビンは汗をかくことなく、ただ美しく佇む。
集中力は必要かもしれない。
思うところに手を咲かせ、動きを手に指示する。
ちょっとの油断や迷いは禁物。
「やるじゃねぇか。貴重な戦力だ!」
ウソップもほっとしてるようだ。
「ナミ!!ウソップ!!」
「!!しまった!ナミさん!」
チョッパーとサンジ君の叫び声。
ふと私達の目前に黒い影が迫る。刀がキラリと光に反射する。
…まずい!逃げられない!
すると、敵の体から咲く無数の手が、体をボキボキと曲げていく。
「大丈夫?!」
「…ごめん!ありがとう!」
「すまん!助かった!」
戦闘中によそ見をしていた私達が悪い。集中しなきゃ。

しばらくすると、敵が退散していった。
「よし、野郎共、お疲れ!ロビン、お前やるなぁ!…あれ?お前…」
言葉を失うルフィ。一斉にロビンに目をやる一味。
「え…?あら」
ロビンの肩口から、じんわりと広がる血液の染み。
返り血…?いえ、違う。
ロビンの額からもじんわりと滲む汗。
「ごめんなさい、驚かせて。何でもないのよ、これは」
…何でもなくはないわ。ちょっとの傷とは違う。
「チョッパー!」
ルフィが叫ぶ。
「お…おう!…こっちだ。来てくれ」
ロビンはぐるっと私達を見回すと、うつむいてチョッパーについていく。
ロビンの背中を見てさらに息を飲む。
血の染みは背中の方がひどく、べったりと広がっていた。
無言になる一味。
「…どうせ、隙あらば俺達も…って油断してたんだろう」
ゾロが無言を打ち破る。すかさず反論したのはルフィだった。
「違う!あれはクロコダイルにつけられた傷だ!」
驚く私達。ゾロも目を丸くしている。あの二人仲間ではなかったの…?
「詳しくはわかんねぇ。でも、ロビンはクロコダイルに攻撃を仕掛けた。それをかわしたあいつに後ろから刺された。おれは見た。ロビンは死ぬのを覚悟していた。…分かったな、ゾロ」
「…ああ、すまねぇ」
ルフィが言うのなら間違いない。
何だろう、モヤモヤする。
私は、クロコダイルとロビンは仲間だと思ってた。
でも、本当に仲間だったの…?
仲間ってお互い助けて、助けられる関係じゃないの…?
さっきのロビンはまさしく仲間に対する行動だった。
何となく重くなる空気。誰もその場を動けない。
ゾロさえも。自分の軽率な発言を反省しているようにも見える。
治療を終えたチョッパーから、傷はルフィの言うとおり背中から傷つけられたもの、さらに自分で傷を縫合していたことを聞かせれ、さらに驚く私達。
今回の戦闘で、その傷口が開いたのだ。
能力者だけど、痛みに平気な訳がない。
ロビンはどんな思いで自分の傷を縫ったんだろう。

女部屋に行くと、ロビンは何事もなかったかのように、ベッドに座って本を読んでいた。
「ロビン…大丈夫?」
「大丈夫よ、航海士さん。びっくりしたでしょ?でも気にしないで」
これ以上詮索しないで。そう聞こえて何も聞けなかった。
ニコッと笑うロビン。
すごく儚く見えた。
私が思ってたより、ロビンって辛い思いを経験しているのかもしれない。
なんか、胸がキューっと締め付けられるような気がして、思わずロビンに抱きつく。
「ロビン…ロビン…」
「…航海士さん?どうしたの…?」
「…今日は守ってもらったけど、これからは私がロビンを守るわ」
ロビンの手が、優しく私の頭をなでた。
「ありがとう…」

立ち寄る島では一緒に買い物に行った。
一緒にお風呂に入り、背中を流した。
伸びた髪をお互い切った。
同じ布団で眠った。
ロビンは笑顔だった。
でも名前では呼んでくれない。
時おり、遠くをぼぅっと見ているが、理由を聞けない。

それからロビンは一味を守るために政府に捕まった。私達も命をかけて戦い、ロビンを奪還した。
一味を名前で呼ぶようになって、吹っ切れたような笑顔が見れるようになった。
ロビンの本当の笑顔は、花が咲くように綺麗だった。

離れてた二年間、ロビンが側にいないことが寂しかった。姉のようで、妹のようで、母のようで、友人のようで、先生のようで。とにかくロビンに会いたかった。
あっという間に二年が過ぎ、再会したロビンはさらに綺麗になっていた。
「ナミ、あなたに会えなくて寂しかったわ」
「私も会いたかった!ロビン!」
再会してからは、語り合う時間がもっと増えた。


昔のことを思いだしながら、ウキウキしてロビンを探す。
…?誰だろう。ロビン以外に誰かいるのかしら?ぼそぼそ声がする。
花壇の前に座っているのはロビンとゾロだった。
最初こそギクシャクしていたみたいだけど、いつからだろう、笑って語り合う二人を見るようになった。

「まだ若いからかしら。みんな大人っぽくなったわ」
「お前はもう三十路か。まぁ、見えねぇけどな」
「もう…年のことは言わないで」
ハハッと笑うゾロ。

「離れてる時に相手の顔を思い出すことこそ、仲間の証だと、改めて分かったわ。あのバロックワークスのメンバーなんて、一度たりとも思い出さない」
「…クロコダイルとは仲間割れ以前の問題だったようだしな」
「そうね。始めから仲間っていう意識がなかったんだわ。ただポーネグリフという目的が一緒だっただけ」
…ああ。あの時の答えが何となく分かった。
利用し、利用されていただけの、そんな薄い関係。
ゾロは、以前にもロビンから聞かされていたかのような話しぶり。
ロビンったら、いつゾロに…ってか、なんでゾロに?
私は音を立てないようにそっとその場に座り込む。

「…二年間、お前はどれだけ俺を思い出した?」
「…ゾロ?」
な、何言い出したのかしらあのマリモ。
なんか、話が思わぬ展開になりそうだわ。
「俺は毎日だ。厳しい修行の中でも、毎日お前を思い出した。…でも仲間だからってわけじゃねぇ」
「え…?」

「お前に惚れてるからだ」

う…うそ!ゾロが?!
声を出しそうになって、慌てて手で口を塞ぐ。
そう言えば空島で、あいつエネルの攻撃を受けて倒れるロビンを支えてた。女だぞ、なんて言っちゃって。
青キジとの戦闘では、青キジとロビンの間に立って、剣を受け止めてた。
エニエスロビーでは、気持ち悪いくらい張り切ってたわ。
そうなのね。あー!なんで私気づかなかったのかしら!
それで、ロビンはどうなのよ!

「…好き、…私…好き、…私…ゾロが好き…」

ロビン!あんたも!まさか!
水くさいわロビン!どうして話してくれなかったのよ!
ていうか、ロビンの告白、なんかかわいい!

「そうか、サンキュ」
「ふふ、恥ずかしいわ」

驚いたけれど、ゾロの、一生守る、の一言に安心する。
ロビンが幸せなら、笑顔でいてくれるなら、それでいい。
うまくやんなさいよ!ロビンの身になにかあったら承知しないから!

二人は声もたてず、ただ衣擦れの音だけが聞こえる。な…何してんのよ…。
そこではっと気づく。
…ますます動きにくくなったわ。
聞いてたいのもあるけど、聞いてたのがばれるのもまずい。
事が始まっちゃったりしたら…!
誰か、助けてーーー!
嵐よ、来ーーーい!



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エピローグ

「嬉しいわ、夢みたい…」

「夢じゃねぇさ。な、ナミ!」

「!!!……いつから気づいてたのよ…」

「てめぇが来たときからだ」

「…分かっててあんな話したわけ?」

「ああ。ロビンは俺のもんだっつー証人だ」

「ロビンは…?気づいてたの…?」

「ええ。とっくに。さっき目を咲かせたらあなたがオロオロしてたから、助けてあげようと思ってゾロと…ね?」

「そう言うことだ。おい、そのワイン寄越せ。祝杯だ」

「ナミも一緒に飲みましょう」

「おら座れよ。…で?お前は結局ルフィに落ち着いたのか?それともアホコックの押しに負けたか?」

「わ…私の話は今いいの!」

「よくないわよ。さあ、話して」

「話せよ、ほれ」

「……ちょっと!聞いてくれる二人とも!あいつらったら…」

「…もっとワインが必要そうね…」

END

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