剣と華

□僕が伝えたいコト
1ページ/1ページ

水の都ウォーターセブンで僕は生を受けた。
一流の船大工達が結束して、夜通し僕の体を創り、魂を吹き込んでくれたんだ。
ルフィ達麦わらの一味をラフテルへ。
そして、もっともっと先まで。
そんな願いを託された。

僕は麦わらの一味が大好きだ。
何故なら、みんなも僕を大好きだって言ってくれるから。
でも僕は、その気持ちをみんなに伝えることができない。
動物の言葉が分かるチョッパーも、さすがに船の言葉は分からないみたいだ。
ちょっと残念だけど、いつかきっと伝えられると信じてる。

ここだけの話。夜の僕の船首は、ちょっとした悩み相談所みたいな感じになる。
見張りのクルーが、フラフラときては、僕に話しかけてきてくれるんだ。

「ちょっと聞いてくれる?サニー…」
少しだけ落ち込んでる様子のナミ。どうしたの?
「私、また今日もあいつらに怒鳴り散らしちゃったのよ。そんなに怒るようなことでもなかったのに…。ロビンみたいに穏やかで落ち着いた素敵な女性になりたいわ…」
うん、もちろん聞こえてたよ。ナミの声はどこにいても聞こえる。
怒鳴り声じゃなくて、笑い声もね。
僕は、元気で明るい太陽みたいなナミが好き。
ロビンにはロビンの、ナミにはナミの良さがある。
怒鳴ったっていいよ。それがナミの役割。
だから、元気出してね、ナミ!

「なぁ、サニー。オレって成長してんのかな…」
元気ないね、ウソップ。
「勇敢な海の戦士になるって夢があんのによ、未だに敵を前にするとブルッちまうんだ。ルフィとかゾロとかサンジとかすげぇよな。どんな相手でも物怖じしねぇし。女のロビンですら堂々と戦うのによ…」
え?僕もみんなも、ウソップに助けられてるよ?
ウソップは心が優しすぎるんだ。
平和な村で育ったっていうのもあるんじゃないかな。
でも、仲間を思う気持ちはとっても深くて熱いよね。
僕は、きっと勇敢な海の戦士になったウソップを乗せることができると信じてるよ。

「ライオンちゃん、私の話を聞いて下さいますか?」
うん、もちろん!
「私にはずっと会いたかった仲間がいました。病でクルーを離脱したヨーキ船長です。あれから何十年も経ちました。もうとっくに亡くなってるでしょう…。私の話を目の前で次々に亡くなった仲間達の為に、ヨーキ船長の為に、私はどうしてもラブーンに会わなければ…」
一番の新入り、ブルック。
初めて見たときはビックリしたよ。
普段はすごくノリが良くって、何十才と離れている他のみんなと騒いでる。
淋しさが紛れるんだろうね。僕には話していいからね。
ブルックの弾くバイオリンの音を聞きながら、夜の海を静かに進む時間がとっても好き。
バイオリンと、ヨホホーっていう笑い声、ずっと聞かせてね。

「サニーよぉ、おめぇ知ってるか?…知らねぇよな…」
僕を設計して、造ってくれたフランキー。僕のお父さんだ。
「あいつら…元気でやってんのか…?アイスバーグは、ウォーターセブンを船にするっつってたし。ザンバイや妹達は今頃どうしてんだ?ココロのババー、酒飲み過ぎで死んでねぇだろうな…」
口は悪いけど、心は優しいフランキー。
いつも、僕の体を考えてくれて、新しいアイテムとか設備を次々に作ってくれている。
本当にありがとう。
大丈夫だよ、きっとみんな元気だよ。
フランキーとまた会えるのを待ってるさ。
だからフランキーも自分のメンテナンスをちゃんとしてね。

「なぁ、サニー。オレはどうすればいいんだろうな」
あれ、センチメンタルサンジだ。
「ナミさんに対する気持ちはマジなのによ、言葉にするとすげぇ軽いもんになっちまうんだ。真面目に伝えたいんだけどな」
朝は一番早く起きて、夜は一番遅くまで起きてるサンジ。コックって大変だね。
お腹いっぱいにさせるだけじゃなくて、味でも満足させるんだ。みんなサンジに感謝してるよ。仲が悪いゾロもね。
僕は、サンジのナミへの気持ちはちゃんと伝わってると思うよ。戦闘中も、自分に向かってくる敵と闘いながらナミを守ってるし、自分よりナミを大事にしてるのは、言葉より行動ではっきり分かる。
ナミは素直になれないだけ。サンジのこと、ナミもきっと好きだよ。

「サニー、体の調子はどうだ?」
一味のお医者さん。心優しくて、一味の癒し系。
「情けねぇけど、オレ、心配なんだ。敵は強くなるし、航海も厳しくなる。怪我が絶えない連中だ。オレ、みんなの万能薬になれるかな…」
みんなを思うからこその不安と心配。
クルーの体を守るのはサンジと一緒で大変だろうな。
でもね、チョッパー。チョッパーの優しい心って、お医者さんにとって、すごく大事だと思うんだ。技術や知識だけじゃいいお医者さんになれない。
チョッパーは大丈夫!誰より優しい心を持ってるからね。ドクターって人も、きっと見ててくれてるよ。

「サニー!ようお疲れ!」
ルフィだ。いっつも元気だな。僕も元気になるよ。
「ついに来たな、新世界!どんな冒険が待ってんだろうなー!敵も強くなるし、おれもしっかりしねぇと!これ以上仲間を失わないように。おれが守らねぇと。全員揃ってみんなでラフテルに行くんだ!だからサニー、これからもよろしくな!」
いててて!バンバン叩くなよー!
僕の前の船と別れて、そのあとルフィはお兄ちゃんとも別れちゃったんだよな。
一度、声をあげて泣いてるのを見たし。
淋しかっただろうな。
大丈夫。みんながルフィを信じてるよ。そして、みんなもルフィをきっと守ってくれる。側で支えてくれる。
この一味の結束はとっても強いさ。
僕もきっとみんなをラフテルまで連れてくよ!


こうして、みんなは僕の前でだけ、本音で話してくれることもあるんだ。
僕のとっても嬉しくて、大好きな時間。

でも、僕がみんなの話を聞く中で、どうしても歯痒くて、じれったくて、どうにしてあげたい!って思う一味が二人いるんだ。
お互いが、お互いを想っているのに、伝えられなくって、切ない顔してるんだ。こんなに好きあってるのに。

「サニー。オレは仲間に惚れちまったみてぇだ…」

「仲間を好きになってしまうなんて…いけないことよね…」

「俺はロビンを離したくねぇんだ」

「私、ずっとゾロの側にいたい…」

「なぁサニー、お前ロビンの気持ち知らねぇか?」

「ねぇサニー、あなたゾロの気持ち知ってる?」


ゾロはじーっと月を見上げてるし、ロビンはポロポロ涙を流す。
知ってるよーー!
ゾロ!ロビン!お互い想い合ってるよ!
だから、そんな悲しい顔で笑わないで!

昼間は笑顔で仲良く話しているゾロとロビン。
その時はただの仲間として話しているんだね。
でも、離れるとため息ついたり、チラチラ盗み見したり。
お互い切ない片想いだって思っちゃってる。
どっちかが動けばいいんだけどな。

「あいつがずっと欲しかったのは仲間だ。俺と笑って話してるのも、仲間だからだろう…」

「あの人は、一心不乱に夢を追い続けてる。私の想いは、ゾロにとって邪魔になるだけ…」

「本当は伝えてぇんだ…」

「本当は伝えたいのに…」

考えてることも一緒。
相手を思うからこそ、自分の気持ちが言えない。
僕が代わりに伝えてあげたいくらいだ…。

今日の見張りはゾロだ。
トレーニングも兼ねて展望台にいたけど、今は船首でお酒を飲んでる。
フゥ…なんてため息ついて、空を見上げる。
こんな顔してる時は、大抵ロビンの事を考えてるんだ。

…あれ。女部屋の扉が開いた。ロビンだ。
ラウンジに向かってるってことは、喉でも渇いたのかな。
あ〜〜!いいタイミングなんだけどな〜!
二人きりになれるいいチャンスなんだけど、ゾロとロビンは気付かない。
戻ってきたロビンが、展望台を見上げる。
ゾロがいると思ってるんだ。
じーっと見上げたまま動かない。切なすぎるよ…。

すると、僕の体にちょっとした違和感。
ん?なんだ?
あ、甲板のランタンが切れそうだ…。
ジジ、ジジ…プツン。
少し暗くなった船上。
ん?どうしたのか?って感じでゾロが振り向く。
あら?どうしたのかしら?ってロビンも振り向く。

あ、目が合った。
あれ?こんなところに…って顔。
二人とも動かない。
「あ…お疲れさま」
やっとロビンが口を開いた。
「おぅ、どうした。寝れねぇのか」
「喉が渇いちゃって、お水を…。こんなところにいたのね」
「ああ。たまにここで月を見てる時もあってな…」
そして沈黙。
お前も一緒にどうだ。
私も一緒にいい?
そんな言葉がどうしても出てこない。
どっちでもいい!どっちか、勇気を出して!頑張れ!

そんな思いが通じたのか、切れたランタンが再びパッと点いた。
また少し明るくなった船上に、二人とももう一度目をやる。
プププ…。
うふふ…。
二人とも笑いだした。

ゾロが動いた。ロビンに向かってちょいちょいと手招き。
ロビンは一瞬ビックリして、でも嬉しそうに船首に向かって歩いてくる。

「ここって落ち着くわよね」
「ああ。ここで月を見ながら酒を飲むのが格別なんだ。お、お前も飲め」
「あら。ありがとう」

ゾロがロビンにグラスを渡して手酌する。
ゾロは酒瓶のまま、ロビンのグラスと乾杯してグビッと煽る。

「ここでな…こうして酒を飲みながら、サニーと話すことがある」
首を傾けて、ゾロの話を聞こうとするロビン。
「まぁ、俺が一方的に話してるだけだけどな…サニーは味方になってくれてるような気がすんだ」
「あら。私もよ。サニーにしか話せないこととか…」

はっとロビンが口をつぐむ。
「……俺には話せねぇことか?」
「…いいえ。そうではないけれど…。あなたがサニーと話してることっていうのはなあに?私には言えないこと?」
今度はゾロが少し黙る。
僕はただ黙って二人の会話を聞くだけ。

「お前のことだ」

ゾロがロビンをじっと見つめている。
「お前に惚れてる。だが仲間だから伝えられねぇ。どうしたもんかとサニーに話を聞いてもらってた」

ロビンがおっきい目をもっとおっきくさせて驚いてる。
「ゾロ…私もよ」
ロビンが勇気をふりしぼって話し始める。頑張れ!
「夢を追うあなたの姿をいつの間にか好きになってた。でも、だからこそ、私の想いはあなたの夢への妨げになると思って…サニーに話を…」

そこまで言ったロビンの頭を、ゾロが優しく抱き寄せる。
「…サニーだけは、俺達の気持ちを知ってたみてぇだな」
「ええ。…さっきのランタン。あれ、サニーが私たちにきっかけを与えてくれたのかしら…」
「ああ、そうだろうな。俺達の想いを知ってたんだ。きっとじれったかっただろうな」
「そうね、きっと」
クスクス笑う二人。
ああ、本当によかった。やっと通じあえたんだね。
二人が勇気を出したからだよ!

「ほれ、お前…ここに、こっち来いよ」
壁に寄りかかって胡座をかいているゾロ。
ゾロが、自分の膝の上をポンポンと叩く。
ロビンはにこっと笑って、膝の上に座り、ゾロの体に寄りかかる。
そして、そのロビンを後ろから抱き締めるゾロ。

「離さねぇぞ」
「離れないわ」

明日から、ノロケを聞かされそうだな。
でもいいんだ!切ない話よりずっといい!
おめでとう、ゾロ!ロビン!

ほら見て!あんなにいっぱい流れ星が!
きっと二人を祝福してるんだよ!
嬉しそうな二人の笑い声が聞こえてきて、僕もすっごい幸せな夜になった。


●●●●●●●●●●●●●●●

エピローグ

「ねぇ、あなたも私もサニーに話を聞いてもらってたってことは…」

「他の連中も色々話してるだろうな」

「何を話してるのかしらね…」

「全員単純だからな。想像はつく。アホコックなんてどうせ『んナミさん〜!』だろ?!」

「フフフフ!今のサンジの真似、もう一回聞かせて!」

「言えるか、アホ!」

「ねぇ、サニーが私達に話したいことがあるとすれば何かしら…」

「そうだな…もっと大事に扱えとか、うるせぇ!とか、汚したら拭け!とかか?!」

「…サニーの悩みはずっと続きそうね…」

「ああ…解決できる日は来なそうだな…」


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ