剣と華

□自惚れと自信
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「「「じゃーんけーんぽん!!」」」
みんなで輪になって、買い出し当番を決めるじゃんけんをする。
食糧の調達は、コックであるサンジと、一味の財布であるナミが毎回担当しているが、日用品の買い出しは、ナミからいくらか資金をもらった私が担当。それと荷物を運ぶ係の相棒はじゃんけんで決めている。
「いよっしゃーー!勝ったぞーー!おれは探検に行ってくる!」
「オレも行くぞルフィ!ブルックも行こう!」
「ハイ!お供させていただきます!」
「よし、オレはたまってたアイテムの整理でもするか」
「そういえば、風呂の排水の調子が悪ぃんだよな。ちょっくら見てくるか」
「おいマリモ!てめぇロビンちゃんのお手をわずらわすんじゃねえぞコラ!」
「はっ!てめぇじゃあるめぇし」
「んだとーーー!!」

じゃんけんに負けたのはゾロだった。
見事な一人負け。
今日は涼しくて気持ちいい天気だから、鍛練がはかどるところだっただろうに。
でも、ゾロには悪いけど私は嬉しかった。
ゾロと二人で歩くことが今の私のささやかな楽しみ。
笑顔で会話を交わし、同じペースで歩き、あと少しで手が触れそうになるくらいに近づく。
ゾロに気付かれないくらいに、さりげなく見るその横顔は、凛々しくてとても綺麗。
その横顔が突然くるっと振り向き、鋭いながらも吸い込まれそうな目を見てしまうと、どうしようもないくらいに鼓動が早くなる。
デートと呼べるような甘い雰囲気ではないけど…それでも少なくとも私にとっては楽しい時間だった。

「おいロビン。そろそろ行くか」
いつの間にかサンジとのケンカが終わっていたゾロに声をかけられる。
「ええ。それじゃナミ、行ってくるわね」
「うん!よろしくね!」
バイバイと手を振って船を降りる。
ゾロは先に降りて、私が降りて来るのをこちらを見て待っててくれていた。
それだけでもなんだか嬉しい。

「ごめんなさい、お待たせ」
「おう。今日は何買うんだ?」
「ええと…」
私はナミとさっき船内を回ってとったメモを広げた。
するとゾロが横からぐっとのぞきこんできた。
思わず足を止めてしまう。
顔が近くなり、呼吸が聞こえる。
フワッとゾロの香りがする。

少し前まで、共に買い出しに行くようなことがあっても、お互いのテリトリーがあるような感じで一定の距離を保ち、余計な言葉は交わさなかった。
目を合わすなんてもってのほか。
でも今はテリトリーなんてすっかりなくなってしまっていて、思いがけず接近したり、たまに触れることもある。
いちいち私が緊張したり浮かれたりするのを分かってやってるのではないかと錯覚してしまう。
近づいてきた彼の顔に、その頬に、思わず唇を寄せてしまいそうになるが理性で堪えた。

「相変わらずすげぇな。どこから攻めるか?」
顔は近いままで、ニヤッと笑って私の顔をのぞきこむ。
もう、本当にやめてほしいわ。
心臓に悪い。
「ええと…まずは洋服屋さんにいって、ルフィのシャツね」
「ったく、ガキだな、ほんと」
「ふふふ。さあ行きましょう」
私が歩き始めると、ゾロはすっと私の横に並ぶ。
ああ、また。鼓動が跳ねる。
些細なこと。でもそれが積み重なると大きな喜びとなり、いつ爆発してしまうのか、自分でも少し恐い。

船のこと。一味のこと。敵のこと。お互いのこと。
会話は尽きることがない。
みんなでいる時は、あまり進んで話さないけど、二人でいる時は、お互い結構話す。
ゾロがこんなに話す人だと思わなかったけど、私も自分で自分がこんなに話せる人間だったんだ、と驚いた。

まずは大きい洋服店へ。
ルフィは着るものには無頓着だけど、私的にイメージカラーの赤は外せない。
赤いシャツやタンクトップを探し、大量に買い込む。
すると、ふと黒のジャケットが目に留まる。
シンプルで、ゾロに似合いそう。
「ねぇ、これあなたに似合うんじゃない?」
「あ?…なんかアホコックみてぇだな…」
苦笑いをするゾロ。
「あなたは顔立ちも体格もいいから、おしゃれをしても似合うと思うわ」
「このやろ!悪かったな、ダサくてよ!」
笑いながらペシッとおでこを叩かれた。
「いやね。ダサいなんて言ってないわ。イメチェンしたあなたも見たいのよ」
「はん。じゃあそういうことにしといてやる」
今度は頭をポンポンと叩かれる。

今日のゾロはどうしたんだろう。
なんだかごきけんだ。
でもゾロが笑顔だから、私も笑顔になる。

…ああ、どうやら私には、本当にゾロが必要みたい。そう、きっとゾロが好きなんだ。
想いを自覚して、フッと笑いがこぼれる。
ごめんなさい、みんな。
みんなも大事だけど、私の一番大事な人は…。

ルフィのシャツを買い、続いてトイレットペーパーや歯ブラシなどの日用品を大量に買う。
何軒か店を回り、安いところを探しながらだから、結構骨が折れる。
ナミの躾の賜物か、誰も文句を言わないところがすごい。もちろんゾロも。

両手に持ちきれないくらいの買い物を済ませ、店を出たところで、私たちを呼ぶ声がした。
「おーいゾロー!ロビーン!」
見ると、探検に出掛けたはずのルフィとチョッパーとブルック。
3人とも、ちぎれんばかりにブンブンと手を振ってピョンピョンと跳ねている。
その様子に、私もゾロも思わず笑ってしまう。
よく見ると、ルフィはリヤカーを引いていた。
荷台には、てんこもりの野菜やいも。
「すごいわね…。どうしたの?」
「おっちゃんとおばちゃんの畑仕事を手伝ったら、お礼にってくれたんだ!サンジに料理してもらうぞ!」
「そう。食費が浮くってナミが泣いて喜びそうね」
そうだな、と笑うみんな。
「ロビンもすげえ荷物だなー。ついでだからおれが船までこれで運んでやるよ」
「…お前の口からそんな台詞が出てくるとはな。じゃ、頼むぜ」
ドサドサとリヤカーに荷物を積むゾロに、おいバカにしてんのか?!とつっかかるルフィ。
文句を言いながらも積込を手伝ってくれているところは成長したみたいね。

「お二人の買い物は終わったのですか?」
ブルックに尋ねられて、ええと…と考える。
「あとは文房具屋さんと本屋さんね」
「そっか。まだあんのか。大変だな〜。あ、本屋行ったらどんな本があるか見てきてくれるか?明日行ってみたいな」
チョッパーから頼まれ、分かったわと頷く。
「じゃみんな、荷物お願いね。あ、ルフィ、あなたの新しいシャツは、その青い袋にあるわよ」
「おう!サンキュー!じゃあ先行ってるぞ!」
「お気を付けてー!」
「ロビン本屋の件よろしくなー!」
またブンブンと手を振る三人を見送る。

すっかり身軽になり、少しだけ感じる解放感。
さて、とゾロを見る。
「おい。腹空かねぇか?」
そうくると思った。
実はさっきから、少し離れたところにあるワゴンのサンドイッチ屋さんからいい匂いが漂ってきていて、そろそろ何か食べたいと思っていたところだった。
「ねぇ、あそこの…」
私が指を差すと、ゾロは盛大に笑った。
「お前も気になってたか?おし、まずは腹ごしらえからだな」

何にすっかなー、と言いながら軽い足取りで歩くゾロと肩を並べて歩く。
ワゴンの前のメニュー表を見て、私はナミから預かったお金じゃなく、自分の財布を出した。
「いい。お前は出さなくていい」
え?っと思ってゾロを見ると、ゾロはポケットからお金を出して握りしめていた。
「あ、でも…」
「いや、本当にいい。俺に払わせろ」
そう言って、財布を持ってた私の手を軽く叩く。
財布をしまえ、ということだと理解し、ありがとう、と言って財布をしまう。
こんなこと、出会って初めてだ。
いつもは何も言わず、私が払うのが当たり前になってたのに。

注文をして、サンドイッチとジュースを受け取る。近くに噴水のある公園があったので、そこのベンチに腰掛けてランチタイム。
「ほらよ。お前の分」
「ゾロ、ありがとう。いただきます」
「おう。食え食え」
ゾロの一口は大きくて豪快だ。
一味のみんなもそうだけど、男の人が美味しそうに口いっぱいに頬張る姿は見ていて楽しい。

「お、このローストビーフうめぇな。ほら、お前も食ってみろ」
「え?」
目の前にゾロが食べていたローストビーフサンドを出される。
当たり前だけど、ゾロのかじった痕が残っている。
思わずじぃっと見てしまった。
「…お前、何て顔してんだ」
ブブッとゾロが笑う。どんな顔してたんだろうか。
恥ずかしくなって、パクッとサンドイッチにかぶりつく。
「ん!ん〜!ん〜!」
すると、噛みきれなかったローストビーフがずるずると出てきてしまい、一気に半分ほどのローストビーフが私の口の中に収まった。
「うお!てめぇコラ!メインの具が!」
もぐもぐさせながら、あら本当に美味しい、と笑うと、まあいいけどな、と優しい目で私を見る。
そうだ、お返しに。
と、私のサンドイッチの生ハムを何枚かつまんで、はいどうぞ、と差し出すと、サンキュと言ってパクッと食いついた。
「ああ、うめぇなぁ。ワイン飲みたくなる」
ゾロらしい言葉に、思わず笑みがこぼれてしまった。
何だろう、今日はすごくいい雰囲気だ。
まるで、デートを楽しんでいる恋人たちのよう。
なんて言ったら自惚れすぎるだろうか。
でもきっと、ゾロも私とのこの時間を楽しんでくれているはず、という自信はあった。
だって、こんなに笑ってるし、こんなに温かい眼差し。
うきうきする自分が止まらない。

「あと、本屋と文房具屋に行くんだよな」
「そうね。あと少しだから」
すると、ゾロがぼそっとつぶやいた。

「…帰りたくねぇなぁ」

私の解釈が間違ってなければ、ゾロは船には帰らず、このままでいたい、と言った。
ここはその言葉を流さず、私もちゃんと自分の思いを伝えるべきだ。
「そうね。私も帰りたくない…」
すると、ゾロは私の太ももを枕にして、ゴロンと横になった。
真下から、ゾロの視線を感じる。
私もゾロを見下ろす。
こんなに近くで、初めてのアングルで見るゾロの顔にクラクラする。
私の手は、無意識のうちにゾロの頭を撫でていた。

「お前はどの角度から見ても美人だな」
突然のとびっきりの甘い台詞。
顔がかぁっと赤くなるのが分かる。
もう、からかわないで、と目を反らすと、顔に触れられて目を合わせられる。
そして頭を撫でていた私の手を取ると、軽く指先に唇を寄せられた。
私の目をじっと見ながらの甘い行動に、身体中の熱が上昇する。
もう、本当に自惚れていいのよね。
ここまでされて、その気にならない方がどうかしてる。

再びゾロの頭を撫で始めると。
「やべ。お前の太ももが気持ちよすぎて眠たくなってきた」
トロンとした目は本当に眠たそう。ちょっと可愛い。
そう言えば昼寝まだだしね。
「いいわよ。このまま少し眠ったら?」
と言うと、そうする、と言って目を閉じた。
あっという間に聞こえる寝息。
頭を撫で続けながら、空いてるもう片方の手でゾロの手を握る。
反射なのか、きゅっと握り返された。

ゾロのあどけない寝顔を見ながら、今日のゾロの言動を思い返す。
船を降りてから今まで、ゾロは笑顔を絶やさなかった。そして、さっきの甘い言動に今のこの状況。
ゾロへの愛しさがどんどん溢れてくる。
私の顔は少しずつ、ゾロの顔へ近づく。
このまま起きないで。
もうゾロの唇しか見えない。
ついにそっと触れてしまった。そしてすぐ離れるつもりだったのに。

ゾロの大きな手が私の頭を押さえつけるから、触れた唇の感触が気持ちよすぎたから、離れられなくなってしまったわ。


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「ふぅ…お前うめぇな」

「え?それは味が?それとも…」

「ブブッ!あほか!」

「だって…うまいなんてどっちの意味か分からないじゃない…」

「初めてのキスだぞ。舞い上がってるから感触しか覚えてねぇな」

「…じゃあもう一回してもいい?」

「おう。何度でもしてくれ…」


END

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