剣と華

□はじまりの日
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今更誕生日にうきうきする年でもねぇが。
ひとつ年を取り、あいつが誕生日を迎えるまでの数ヶ月。
少しだけ、俺はあいつに近づくことができる。

年上の、大人の女。
色気があるくせに、少女のようなあどけなさも持つ。
幼い頃から自分を狙う大人たちから逃げ続ける、過酷な人生を歩んできた。
閉ざされた心の扉を開けたのは、麦わらの一味であり、俺もその一人だと自負している。

目が合うとにっこり笑いかけてくれるし、寝坊した俺の分の食事を取っておいてくれている。
ナミと街に出かければ、船番の俺に服だの酒だの土産を買ってきてくれることもあれば、見張りの俺に夜中会いに来ることもある。
どうみても、俺に気があるとしか思えん。
早とちりでも勘違いでもないだろう。

フランキーに言われたことがある。
「ニコ・ロビンはてめぇの女か?」
ロビンが聞いたらどんな顔をしただろうか。
まぁ、今の段階では全くの誤解なので否定する。
「なんだ。オレぁてっきりそうなんだとばかり思ってたぜ。エニエスロビーからよ」
あん?!そんな昔からかよ。
あん時はまだ全然打ち解けてなんてなかったのにな。
奪還に燃える俺がそんなに必死に見えたか。
まぁそれは事実なんで否定しないが。

そう、仲間として打ち解けて始めて迎える俺の誕生日だ。
ロビンの想いが聞けるかもしれない。
そんな期待があるからこそ、意味のある誕生日になるはずなんだ。

連中には前もって、誕生日会やるから、と言われていた。
あんたにサプライズなんて勿体ないわよ、とナミに言われるが、こっちだってそんなもん別に欲しくねぇ。
ロビンがどんなアクションを起こすのかという期待しかねぇよ。
お前にやるプレゼントは悩まなくていいから楽だな、とウソップに言われるが、特に待ってるわけじゃねぇ。
ロビンからもらえるものにしか興味がねぇからな。

ロビンからは、特に誕生日会の事で何か言われることもなく、淡々と接していた。
頭の中じゃ色々考えてくれてるんだろ?と勝手に期待し、とにかく当日を待ちわびた。

そして今日だ。
サニーは少し前にちょうど島に上陸したばかり。
出航まで時間がかかりそうだ、とナミが言うので、誕生日会は岸に停泊したままサニーで行うこととなった。
もしかして一緒にプレゼントを買いに行こうと誘われるかもしれない、とその言葉を待ったが、それもなく、ロビンは調べ物があるから、と一人でそそくさと船を降りていった。
こんな時に調べ物?誕生日会には間に合うんだろうな…?
モヤモヤとした思いが俺を襲う。
飾り付けや準備の邪魔だとラウンジを追い出されたので、展望台にあがり、トレーニングをして鬱憤を晴らそうと思った。

…駄目だ。身が入らん。
こんな事で気が散るようじゃ、俺もまだまだだ。
…こんな事?!いや、違う。
俺にとっては大事な事。
ロビンの俺への思いを確かめられる日と期待した。
まさか、本当に俺の勘違いだったのか?
ロビンにとって、俺はただの仲間なのか?
じゃあ、あの思わせぶりな態度は…?
俺以外の一味にまで、あいつは同じ態度をとってただろうか?
バーベルをドスンと落とし、頭を掻きむしる。
俺はそこまでロビンに惚れてたのか。
身が入らないトレーニングをしてもしょうがない。
もうトレーニングは止めだ。
シャワーを浴びて汗を流し、再び展望台に上がって横になると、目を閉じた。

バタンと扉を開ける音で目を覚ます。いつの間にか眠ってたみたいだ。
「ゾロー!始めるぞー!」
トコトコと近づいてくるのはチョッパー。
俺の体の上にぴょんと飛び乗ってくる。
「おう…。分かった」
頭を撫でてやると嬉しそうに笑って、すぐ来いよー!と叫んでまたトコトコと走っていく。
…ロビンは帰って来ただろうか。
バッと起き上がると俺も少し急ぎ足で甲板に向かった。

「お!主役が来たぞーー!」
「寝坊助早くこい!」
一味に笑顔で迎えられるが、その中にロビンの姿はなかった。
あの野郎…。マジで興味がないってことか…。
いや、あいつが悪いわけじゃない。
勝手に期待してた俺が馬鹿だっただけのことだ。
連中にはそんな思いがばれないようにしないとな。
少し肩を落として輪の中に加わる。

「さて諸君。今日は船長ルフィ君の右腕と言っても過言ではない、剣士ゾロ君の誕生日である。我々は、それを心から祝福しようではないか!

「イエーイ!!」
ウソップの始めの挨拶と、連中の掛け声に、思わずフッと笑いがこぼれる。
心の底から笑えねぇのが残念だ。
「…ではルフィ君。どうぞひとつ」
つつつ…とウソップがさがると、続いてルフィがオホン!と言いながら前に立つ。
「よし、ウソップ君、ご苦労。」
こいつらは一体何ごっこをやっているんだ?
連中はクスクス笑ってる。
ロビンがいたら、きっと花のような笑顔を見せていたことだろう。

「ゾロ!お前は一番最初におれの仲間になった。こんなおれについてきてくれて、一味をまとめてくれてありがとな!」
少しだけじんとした。
一味がまとまっているのは俺のおかげでもなんでもねぇ。ルフィの人望だろうに。
「今日はゾロが主役だ!野郎共!精一杯ゾロをもてなせ!いいな!」
「イエーイ!!」
だからそれはなんの真似だっつうの。
こいつらの考えてることはよく分からん。

とにかく宴が始まった。
早速ルフィが自分で買ったという酒を注ぎに来る。
気づけば『主役席』と書かれた俺の席の前にはグラスが8つ。
一味がそれぞれ酒を買って酌をしてくれると言うことか。肝心なヤツが一人いねぇがな。

「ゾロ!おめでとな!頼むぜ〜これからも!」
バシバシ背中を叩くルフィ。注がれたのはテキーラだ。
俺は高かろうが、安かろうが、飲めればなんでもいい。それにルフィらしいな。
「てめぇが言うな!船長だろ!」
俺もルフィの頭を叩き返す。
「ま、楽しい誕生会にしようぜ!いや、きっとなると思うけどな!」
そう言って、ルフィはご馳走にかぶりつき始めた。

「いや〜楽しい夜ですね!」
ブルックが持ってきたブランデーをトクトクと注いでくれた。
「お、サンキュ」
うめぇな、と唇を舐める。
「ゾロさんはいいですね。充分お強いのに、まだこれからも強くなることができる」
「おめぇもやりゃできんだろ」
「ゾロさんのように筋肉を鍛えられないですからね。私はスピードと急所を突く正確性。これに磨きをかけようと思います、ハイ」
「そうだな。スピードは俺もついてけねぇからな。ま、お互い精進しようぜ」

続いてやって来たのはウソップだ。
「よ。飲んでるか?」
「ああ。司会ご苦労だったな」
ワインをたっぷりと注がれ、肩を組まれる。
「オレはこういう場でしか活躍できねぇしよ。ま、みんなが笑ってくれりゃ、いいんだ」
「アホか。何言ってる」
「ってなわけでゾロ君。君の後ろというベストポジションは、常にオレだということは忘れんなよ」
ハッハッハと笑って去っていく後ろ姿を、俺も笑って見送る。

「おっすゾロ。まぁ飲めや」
ウイスキーを持ってきたのはフランキーだ。
「ああ。サンキュ」
「しっかしおめぇ酔わねぇな。どんな内臓してんだ

「…腹が冷蔵庫のおめぇに言われたくねぇな」
「まぁよ、それぞれがおめぇの為に考えて開いた誕生会だ。せいぜい楽しめや」
そのブランデー上手そうだな、と瓶ごとかっさらおうとしたフランキーを叩き、何とか奪い返した。

「ゾロ!おめでとう!」
チョッパーはシャンパンを持ってきた。
「ああ。ありがとな」
「オレはゾロみたいな男になるんだ!ゾロはどんどん強くなるからなかなか追い付けねぇけど…ゾロにも認めてもらえるように頑張るぞ!」
「お、言ったからには頑張るしかなくなったな」
俺に憧れてるなんてかわいいところがあるから、俺もたまに甘やかしてしまう。
なんて考えているうちに、少し違和感を感じる。
何だろうな。何かはよく分からんが…。

続いてナミが来た。
「お、太っ腹だな。いい焼酎じゃねぇか」
「バーカ!私も飲むに決まってんでしょ!」
俺の誕生会じゃねぇのかよ。
ま、いい。てめぇも飲めと酌を返そうとすると。
「おんどりゃー!クソマリモ!てめぇがナミさんと酌をするなど百年早いわ!」
来やがった。うるせぇアホコック。
ただ手にはしっかり酒瓶があった。
「てめぇはこのウォッカでも飲んでくたばってろ!」
と無理矢理飲ませられる。
ぐいぐいと飲み干すと、化け物か!と叩かれる。
「ねぇ。こんな時くらい、眉間にシワ寄せるの止めれば?」
ナミに呆れられる。やっぱり顔に出てたのだろうか。さっき感じた違和感が分かった。
この際聞いてもいいよな。
「おい、お前…」
言いかけたところで、甲板のドアが開く音がした。
振り返るとロビンの姿。


つづく
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