剣と華

□闇が照らした真実
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たまたま立ち寄った島に上陸し、たまたま出先で仲間の女と会った。
…仲間?いや、俺はまだそう呼べない。
空島への指針を教示し、路頭に迷うところだった俺達を救ったこと、共に強力な敵と戦ったことは事実であるが。

船への帰り道を完全に見失い、日も暮れかけ、そろそろヤバイと思ってた頃に森の中で見かけた長身の女。
バッと目の前に現れたとき、いい女だな、と思った俺は、別に目も頭もおかしいわけではないだろう。
だがそれがニコ・ロビンと分かって出てきた俺の言葉に、女は顔をしかめる。

「なんだ、てめぇか…」
「なんだとはずいぶんな言葉ね。まぁ、いいけど」

女はずんずんと俺に歩み寄ってくる。
「みんなが探してたわ。私は目を咲かせられるからあなたがここにいるって分かったの」
「はん。便利な能力だな」
「…どうも。とにかく船に戻りましょう」

そう言うと女の目が大きく開く。
俺の肩越しに何かを見つけたようだ。
俺も女の肩越しにわらわらと柄の悪い連中が茂みから湧いて出てくるのを見つける。
お互い自分の後ろをチラリと伺う。
同じような連中だ。
挟み撃ちってわけか。

「…ったく、面倒だな。てめぇの仲間か?」
「バカ言わないで。私に仲間なんていないわ」

その言葉に苛ついた。
「てめぇ…俺達も仲間じゃねぇと言うつもりか?」
自分の言葉に違和感を覚える。
俺がこいつを仲間と認めてねぇのに?!
「…私はそう思ってても、受け入れてもらえてないのならそうとは呼べないわ」
俺に対する嫌みか。まぁ、自分の立場を分かってての発言であることは間違いない。

小声でやり取りしていると、
「海賊狩りのゾロだな?」
とリーダー格の男だろうか、会話に割って入られる。賞金稼ぎか。
「いい女じゃねぇか。てめぇの首と一緒にその女も頂くとしようか」
ゲラゲラと胸糞悪い笑い声がする。
数は多いが、まあ大したことないだろう。
「腹が減った。さっさと帰るぞ」
「分かったわ」

お互い向いていた方向の敵と睨み合う。
「そっちは任せた」
「了解」
こいつは敵を前にしても堂々としているし、見事な戦いっぷりは何度か見ていたので、この程度の奴等なら手分けをすればすぐ片がつくだろう。
向かってくる敵を刀を抜いて迎え撃つ。
あっと言う間に地面に倒れこむ男ども。
案の定だ。手応えねぇな。

後ろでは、ボキボキ骨を折る音が響いている。
勇ましいな。
「この女!能力者だ!」
「こんな女、麦わらの一味にいたか?!」
ああ、知らねぇだろうな
最近入ったばかりだ。
ただ、まだ本当の意味で『一味』ではねぇぞ。

「くそ!おい!アレだ!」
リーダー格の男が手下に何やら指示を出している。
ん?なんだ、アレって。
男は両手を挙げて、俺に近づいてくる。
カチャリと刀を握り直す。
「降参だ!金をやるから命は取らないでくれ!」
は?呆れて思わず刀を下げると。
不敵に笑った男が何かを取り出す。
急に目に激痛が走った。目が焼けるように熱い。
「ぐわーーーーー!」
思わず雄叫びをあげ、両膝をついてしまった。

俺の叫び声に気付いたのか、女の「剣士さん!」と俺を呼ぶ声が聞こえる。
あほか!油断すんじゃねぇ!と叫ぼうとすると、今度はきゃあ!っと言う悲鳴が聞こえる。
何だ、何があったんだ?
何とかして状況を捉えようとすると、顔を蹴りあげられる。
グッと呻き声を洩らすと、再び剣士さん!と呼ぶ声がした。
「あーあー、可愛そうに。海楼石の成分入りの網に捕らわれちゃあ、能力も出せないよなぁ?!」
「念のため持っててよかったぜ!」
ご丁寧に解説してくれたお陰で状況は分かった。
刀を落としてしまったので、手探りで探そうとするも、逆に手を踏みつけられる。
「おいおい、そんな睨むなよネェチャン」
「オレは気の強い女は好きだ。だがな、そんな女が恐怖に震えるサマを見るのがもっと好きなんだ。分かるか?」
下衆な言葉の後に、ドカッとかバキッとか響く音が続く。
女の悲鳴は聞こえない。
耐えているのか、男の言うように恐怖で声をあげられないのか。
「この女、しぶといな。なかなか倒れねぇ!」
いつの間にか怒りに震えていた。

女は確かに強い。
能力もあるが、戦闘には必要な冷静さと瞬時の判断力に優れているからこそ、能力を活かす事ができる。戦闘慣れしているようだし、今の一味の戦力としては確かに貴重だ。
だが、能力を使えないとなるとただの女。
俺がこの状況を打開しねぇと。
こいつを助けねぇと。

「海賊狩りは何もできやしねぇ。まずは能力者のこの女だ!」
倒れている俺を次々に踏みつけ、俺の回りにいた男共が女の方へ歩いていく気配がする。今のうちだ。
集中して鬼徹の妖気を探る。
何とか探しあてると、他の2本の刀も手探りで見つける。
俺と刀を放っておくなんて、こいつらもアホな連中だぜ。ナメられたもんだ。
刀を握り、口にくわえ、立ち上がる。
目は全く開かない。
だがここは覚悟を決めるしかねぇ。
戦闘時に見せる女の勘を信じる。

「ロビン!」
「お、おい!海賊狩りが!」
「しまった!」
「いくぞ、避けろよ!」
ゆっくり攻撃体制をとる。
俺の構えで技を悟ってくれ、太刀筋を見極めてくれることを願いながらも、斬撃を飛ばす。

頼む!避けてくれ!

気づけば必死で願っていた。
男たちのギャーッと叫ぶ声が聞こえる。
ロビンはうまく斬撃を避け、男の手から逃れられたのだろうか。
「…おい!」
俺の声に応えるかのように、再びボキボキという音がこだました。
斬撃を喰らったあとにこれでは、哀れな奴等だ。
卑怯な手を使うからだ。ざまあみろ。
女の無事を確認し、思わずふぅっと安堵の溜め息が漏れた。

「大丈夫?剣士さん!歩ける?」
女が俺の腕に手を回す。
「劇物かしら…。近くに川があるから目を洗いましょう」
「ああ、すまん…」
ここは素直に女の言う通りにしておこう。
女に手を引かれ、暫く無言で歩く。
やがて水の流れる音が聞こえてきた。
「ここよ、ここに座って…そう、いいわ」
初めてと言っていいだろう、優しい女の声。
「大丈夫?帰ったら船医さんに診てもらいましょうね…」
俺の目や顔を洗うしなやかな女の手つきと、母性を感じる穏やかな声色に、俺のわだかまりは解けつつある。

だが言わないでおこう。
目を洗いつづけると、少しずつ視界がはっきりしてくる。
辺りはすっかり暗くなっており、月の光だけが俺達の姿を照らしている。
「すまん。もう大丈夫だ」
まだちょっとピリピリする痛みはあるが、目は何とか見える。
「はい、これ…」
ハンカチを差し出され、遠慮なく受け取って顔を拭く。
「サンキュ」
ハンカチを返して女を見ると驚いた。
顔はあざだらけで腫れており、服もビリビリに破けていた。
よく見ると、足も、破けた服の隙間から見える身体もあざだらけだった。
そんな様相なのに、心配そうに俺の顔をのぞきこみやがるから。
思わず抱き寄せそうになってピクリとするが、何とか思いとどまる。
「本当に大丈夫なの?」
「…お前な。人のこと心配してる場合じゃねぇだろ」
俺はハンカチを奪い返すと、川に浸して濡らし、きつく絞ると女の顔にあてる。
「…ごめんなさい。迷惑かけて」
「いや、どちらかと言うと俺の方だ。すまなかった。痛むだろ?」
俺にしては優しい声が出たのに自分でも驚く。
「平気よ。この程度の痛みは慣れてるわ」

…待て。慣れてるというのは…。
こいつは今までどんな人生を歩んできたんだ。
バロックワークスの副社長だった女。
他人の甘い蜜を吸って、のうのうと優雅に暮らしてたんじゃねぇのか。
この位の怪我には慣れてるって、こんな拷問と言ってもいいくらいの酷い仕打ちを、この女は耐えて、生き抜いてきたって言うのか。

「お前はそのまま顔冷やしてろ」
俺は女を抱えあげた。
「え?ちょっと…」
焦った女の顔。
こうして見ると、なかなか可愛いじゃねぇか。
「帰るぞ。道案内頼む」
「…分かったわ」
困ったように笑う女の顔を見て、俺もつられてつい笑ってしまった。
元敵だからと、撥ね付けるのは止めよう。
こいつをもっと知る必要がありそうだ。
もし、女が話すというなら受け入れてやってもいい。

「…おい。お前のこと、もっと聞かせろ」


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エピローグ

「ねえ、さっきのことだけど…」

「あん?」

「避けろって言って攻撃したのは、私を信じてくれたのよね?」

「さあな」

「あと、名前で呼んでくれたわね」

「ま、まぁ…状況が状況だろ」

「…ねぇ」

「何だよ」

「重くない?」

「こんなもん、重いうちに入んねぇな」

「私、あなたに抱かれたの、空島の時とこれで2回目ね。短期間で2回…何かが起こりそう…」

「ばっ…!起こるか!それにその…、抱かれるっつう言い方は止めろ!下ろすぞ!」

「…ごめんなさい。冗談よ。…あら、耳まで赤いわ」

「…!うるせぇ!」

END

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