剣と華

□守られる理由
1ページ/1ページ

読書をしていると、たいていみんなそっとしておいてくれるけど、たまに話しかけられることもある。
嫌ではなく、むしろみんなと会話をするには楽しいので、本を閉じて会話を楽しむこともある。

ランチの後のアクアリウムバーでのひととき。
今日のお客さんは、
「お、いたいた!ロビン!このコート直してくれ!」
バン!と勢いよく扉を開けて入ってきたルフィ。
見ると、羽毛が飛び出たり、フードが取れかかっていたり、ボタンが取れていたり、とちっとも暖かそうじゃない赤いダウンコートを持っていた。
「次は冬島なんだってよ。だからコート用意しとけってナミに言われたんだ。これが一番あったけぇんだ」
私もナミから聞いて、さっき用意したところだ。
このコートを直すのはなかなか大変そうだけど…。
パタンと本を閉じる。
「早速取りかかるわね。少し時間かかるかもしれないから、終わったら持っていくわ。チョッパー達と遊んできたら?」
「いーよ。ここで待ってる」
ルフィはそう言うと、私の隣に座り、ポケットから知恵の輪を取り出した。
「ウソップにもらったんだけど、難しいんだ」
苦笑いを浮かべてカチャカチャと音を立て、真剣に取り組みはじめた。
「分かったわ。ちょっと待ってね」
手を女部屋に咲かせて、裁縫道具と要らなくなった自分のダウンコートを持ってくる。
目を閉じて集中し、バーの扉の前に着いたところで目を開けると、ルフィがその様子をじっと見ていた。
「なぁに?」
「いや、ロビンの能力ってほんとおもしれーよなー!」
「うふふ。そう?」
おもしろいかどうかは分からないけど、能力があって良かったと思ったことは何度もある。
分身の手が運んできたコートを自分の手で受けとる。
ルフィがその分身の手に向かって、お疲れ!と言って手を振っていたので、振り返してあげた。
分身は花びらを散らしてスッと消える。

「今は全身咲かせられるんだもんな」
「そうよ」
ルフィの反対隣にパッと分身を咲かせる。
「おお!すっげぇー!そっくりだ!」
「…それは、分身だから、まぁ、そうね…」
私はコートの修繕を始め、ルフィは面白そうに分身を眺めている。
じゃーんけーん…と声が聞こえたので、ぽい!でグーを出す。
指相撲を挑まれたので、相手になる。
こうして別々のことをするのも今はお安い御用だ。
ルフィはいちいちすげぇー!と喜ぶ。
そして分身の膝を枕にして、ゴロンと横になった。
温もりが本体である私にも伝わる。
そしてそのまま再び知恵の輪を始めた。

「なぁ、何で自分のコートまで持ってきたんだ?」
「え?ああ、あなたのコート、羽毛が抜けてぺしゃんこでしょ?私のもう着ないコートの中身をあげるわ」
「そうか。ロビンは優しいな!ありがとう!」
「ふふ。どういたしまして」

知恵の輪を持つ手を動かしたまま、顔だけ私の、本体の方に向けて話しかけられる。
私は羽毛をルフィのコートに詰める作業を始めた。

「ロビンはいつ能力者になったんだ?」
「それが、覚えてないのよね。物心ついたときにはもう能力が使えてたの。ルフィは?」
「おれは覚えてるぞ。シャンクス達が持ってたのを悪魔の実だって知らなくて、黙って食ったんだ。カナヅチになるって焦ったし、すっげぇ怒られたな」

そう言えば、ルフィの麦わら帽子は赤髪から預かっていると聞いた。
四皇と言われている赤髪。
ルフィとは知り合いみたいだけど、再会したときは味方なのか、敵なのか。
戦うことがないといいのだけど。

「でもよ、ハナハナの能力者がロビンでよかったよな」
「あら、どうして?」
「ロビンは手も足も全身も綺麗だからな。いっぱい咲いてても気持ち悪くねぇじゃん」
ルフィがお世辞を言うとは思えない。
ということは本心なんだろうか。
少しこそばゆい。
「でも男の人の方が力もあるし、分身があればあるほど便利なんじゃない?」
「そうか?本数関係なく増やせるんなら綺麗な方がいいに決まってるだろ。フランキーの腕がいっぱい増えたら気持ち悪ぃじゃん」
想像してつい笑ってしまった。
「確かにそうね」

取れかかってブラブラのフードを縫い合わせる。
横からはまだカチャカチャと音がする。
「ロビン」
「なぁに?」
「おれたちって、一生能力者のままなんだよな」
「…そう言われてるわね」
「能力者でよかったか?」
「そうね…。泳げないのは残念だけど、よかったとは思うわ」
「なんでだ?」
「あなた達と会えたからよ」

能力的に、戦闘向きなのかは分からないけど、使い方によっては相手が戦闘不能になるくらいのダメージを与えることができる。
幼い頃は、自分の身を守るのに精一杯だった能力の使い道を、徐々に攻撃に応用できるように考えた。
サウロに言われた。きっと仲間ができると。
仲間を助けたいと思ったとき、攻撃も出来たほうがいい。
いつか来るだろう、その時の為に。

「そうだな!おれもそうだ!」
「でもまだまだ敵は強くなるでしょう。私の戦闘力ももっとあげていかないとね。せめて自分の身は自分で守れるくらいに」
「ロビンならもう大丈夫だ。おれ全然心配してねぇよ。大体お前、誰かに守ってもらいてぇなんて思ってねぇだろ。ゾロがお前を守んのは特別なんだ」

そうなのだ。
私が気になるのは、戦闘中ゾロが度々私を庇うように入ってくること。
自分に向かってくる敵と対しながら、私の戦闘も気にかけてくれるのは、何となく申し訳ない気持ちになる。
最初は離れて戦っていても、気づくと隣にいたり、背中を合わせていたり。
そして、怪我はねぇか、とか必ず声をかけてくれる。
あっち行ってろ、だの、隠れてろ、だの言われないのは、私が好んで戦闘に参加しているのを分かってくれているからだと思っている。

「サンジはナミを見てるし、他のヤツはロビンなら心配ねぇって思ってる。おれもだけどな。ただゾロはロビンが傷つくのが嫌なんだ。あいつがムキになんのはしょうがねぇよ。ロビンのことが好きなんだからな」

私がゾロに守られるのを躊躇するのは、そのゾロの気持ちが伝わるから、というのもある。
誰かに想われるという経験もなく、しかも相手は9つも年下の共に生活する仲間だ。
恋愛を持ち込んでいいのだろうか。
私はゾロに相応しい人間なのだろうか。
嬉しくないと言ったら嘘になる。
私もゾロを意識しているのは確かだ。
ただ直接言葉で告げられたことはないので、自分の思い違いかもしれない。
本気でゾロを好きになってしまうのが怖かった。

そこで扉が開いた。
「お、噂をすれば、だな」
そこに立っていたのはゾロだった。
鼓動が早くなる。
顔が熱くなる。
これは一体何なのだろう。
ゾロは、分身の私の膝を枕にして寝転んでいるルフィを見ると、眉間に深い皺を寄せた。
「ルフィ、てめぇ何してる」
「何って見りゃ分かるだろ」
ルフィはケラケラ笑いながら答えている。
面白がってるのだろうか。
「なぁ、お前どっちが本物のロビンか分かるか?」
「…てめぇが寝転んでるのが分身だろ」
即答したゾロに驚く。
今まで本体と分身を即座に見分けた人などいなかったのに。
「だははは!すっげ!」
「どうして分かったの?どこか違うかしら?」
「…さあな」
そう言うとずかずかと歩いてきてルフィの前に立つ。
「…おい、そこから降りろ」
「やだね」
「なんでだ」
「ロビンの太もも気持ちいいからな」
ストレートな言い方に、ゾロの眉間の皺が更に深くなった。
…嫉妬…なのかしら。
どうしていいか分からず、針仕事の手を休めて二人の動向を見守る。

「悔しかったらゾロもしてもらえばいいだろ。本物のロビンの膝枕だぞ」
「ああん?!」
顔を歪めたゾロに、少し落ち込む私がいた。
私じゃ不服なのだろうか。
思わず俯いてしまう。

すると、ゾロの足が私の方を向いたのが分かった。
顔を上げると、ゾロと目が合う。
突然ゾロが私の頭に手を回したかと思うと、ぐっと引き寄せられ、唇が触れあった。
びっくりして呆然とする間に、口づけはどんどん深くなる。
ルフィがいることを忘れるほどうっとりしてしまう。
気づけば分身が消えていた。

唇が離れ、再びゾロと目が合う。
今起こったことが信じられない。
不自然に頭を浮かせてたルフィが飛び起きた。
「うっひょー!ゾロやるなー!」
「はん。てめぇと同じことしてどうする。それ以上のことしねぇと意味ねぇだろ」
ゾロは私の隣に座ると、肩に手を回してきた。
な、と言われるが、すでに放心状態だし、どうにも答えようがない。
「あれ?!できたぞロビン!見てくれ!」
見ると知恵の輪が外れていた。
「どーやったのかな?わかんねぇけどまぁいいや!ウソップに見せてくるな!」
「…あ、ええ。行ってらっしゃい」
駆け出したルフィが立ち止まる。
「あ、そのコート、いつでもいいからな!今はゾロとせいぜい楽しめよ!」

じゃあな!と手を振ってルフィが行ってしまい、私とゾロの二人が取り残された。
ゾロの手は私の肩に回されたままだ。
恥ずかしくて、つい黙りこんでしまう。
「楽しめ、だとよ」
フッとゾロが笑う。
考えようによっては色気のある展開にもなりそうな言葉に、更に顔が赤くなる。
「安心しろ。今日はそれ以上のことはしねぇよ。お前の心臓が壊れそうだからな」
ゾロがこちらを見ているのが分かったので、恐る恐る目を合わせてみる。。
さっきルフィを見てた時とは違う、温かい目だ。
「言葉が先じゃなくて悪かった。あいつを見てつい嫉妬しちまった。俺は本気でお前に惚れてる」

やっと聞けたゾロの想い。
私の答えは。

「私もよ、ゾロ」

勇気を振り絞った私の頭をゾロが優しく撫でてくれた。
緊張して思わずぎゅっと握りしめていたルフィのコートを奪われ、ぽんと放り投げられる。

「おいほら、手が空いたぞ」

次の瞬間、その手は迷うことなくゾロの体に回されていた。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

エピローグ


「ねぇ、どうして私が本体だと分かったの?」

「分かるさ。俺が入った瞬間、顔がゆでダコみてぇに赤くなった。分身は一呼吸遅かったな」

「うそ…」

「お、イケるかも、って思ってな。つい調子にのってあんなことしちまった」

「…意地悪ね」

「嬉しいくせに」

「もう…」

「どうする?お楽しみの続きするか?」

「無理よ。心臓が破裂しそう。でも、あと一回、ちょっとだけならしたい…」

「あほ。んなこと言われたら止まれなくなるだろ…」


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ