拍手ページ作品

□私の宝物
1ページ/1ページ

今日は久しぶりにゆっくりお風呂につかる。
力が抜けてしまうけれど、いざという時には私を守ってくれる人がいるから安心している。
温かいお風呂に肩まで潜ると、疲労からゆっくり解放されていく。
目を閉じて、今までの出来事を思い出す。

ゾロに恋をし、想いを通わせあうことができた。
みんなには内緒にしていたけど、ルフィにはしっかりばれていた。
それでもみんなからは温かい祝福を受けた。
そしてある日、体調に異変を感じて倒れてしまった。
チョッパーの診察を受け、子供ができたのではないか、と疑惑が持ち上がる。
私もゾロも、子供が出来ているのならこの手で育てたいと強く思った。
ただ、海賊という身分で、子供を産み、育てるなど容易いことではなく、みんなの意見を聞くことにする。
麦わらの一味であることに誇りを持っている私たちだけど、一人でも反対する者がいれば、二人で船を下りる。
そんな覚悟でみんなに打ち明けた。
私とゾロの心配はどこへやら、みんなは私たちの気持ちを尊重し、支えになると言ってくれた。
自分たちを信じろと。
このときの話し合いのことを思い出す度に、目の奥が熱くなる。
そしてゾロとの結婚式。
ナミからベールを、みんなから花を、ゾロから指輪を贈られる。
敵船に式を邪魔されたけれど、あっけなく勝利を収めて宴が開かれる。
そして島へと上陸し、病院へ行き、正確な診断を受けた。

一つ一つの出来事を詳細に思い出して、こんなに幸せでいいのだろうかと逆に不安になる。
強い信頼で結ばれた一味。そしてゾロ。
彼らが私に生きる希望と勇気を与えてくれ、絆とは何かを教えてくれた。
一人一人の夢は違うけれど、みんなの夢が叶うその瞬間、クルーとして見守っていたいし、見守って貰いたい。
まだまだ遠い先かもしれないし、近い未来かもしれない。
それは誰にも分からないけれど。

お風呂からあがり、涼しい夜風に当たって火照った体を少し冷ます。
思い立って、船首へと向かった。
何度も危機に陥った海戦で、頑丈な体ととびきりのアイテムで私たちを助けてくれたサニー。
メリーの魂も受け継いでいるサニーも私たちの仲間だ。
ねぇサニー。
これからも、私たちを色んな所へ連れていってね。
咲かせた手で顔を撫で、心の中で呼び掛けると、サニーが笑ってくれたような気がした。

踵を返してラウンジへと向かう。
灯りはついているけれど、賑やかな声が聞こえてこない。
そっと扉を開けると、みんながそこにいて、私を振り返った。
みんなはにこにこ笑っている。
病院から帰ってきて、診察の報告をしたときの顔だ。
そう言えば、あれからもう一年が過ぎたのだ。
みんなはゾロをぐるりと囲んでいた。
私もみんなに近づく。
ゾロの腕の中には、私とゾロの宝物がすやすやと眠っている。

「おう、ゆっくりできたか?」

私が世界で一番愛する人の優しい笑顔。

「ええ、お陰様で。ありがとう」
ゾロの隣に座ると、子供を渡される。

ある月の綺麗な晩、この子は産声をあげた。
初めてこの子を抱いたときのゾロの顔は忘れられない。
抱き上げる手元が覚束なく、見ていた私はひやひやしたけど、今まで見たこともないようなくっしゃくしゃの笑顔だった。
そして私にありがとう、と言ってキスをしてくれた。

だけど、感謝を言うべきなのは私の方だろう。
私を仲間として認めてくれて。
私の命を助けてくれて。
私を愛してくれて。
私を母親にしてくれて。

腕の中の温もりと、私の肩を抱くゾロ、みんなの笑顔。

ブルックの奏でる優しいバイオリンの旋律は、私のお腹にいるときから、子供のお気に入り。時には紳士に、時には面白おかしく、私の話し相手になってくれるブルックは、優しいおじいちゃん。

子供が出来たと伝えたとき、号泣していたフランキーは、ベビーベッドやゆりかごを作ってくれた。どうしても皮肉合戦になってしまうけれど、本音で話し合えるフランキーは、頼もしいアニキ。

人一倍優しく、責任感のあるチョッパー。彼が側にいてくれたから、安心して子供を産むことができた。癒しの存在でもある可愛いチョッパーは、私とゾロの一人目の息子と密かに呼んでいる。

大好きな煙草を、私の前では吸わなくなったサンジ。美味しくて栄養のある料理をたくさん振る舞ってくれた。ゾロとの仲は相変わらずだけど、実は誰より分かり合えている同士。

その手先の器用さで、子供の為にとたくさんのおもちゃを作ってくれたウソップ。他人の為に涙を流し、勇気ある行動を示してくれる彼は、私とゾロのツッコミ役であり、気心知れた親友のような存在。

私がずっと欲しかった、同性の心を許せる仲間。お茶目で明るく、しっかり者のナミは、怒ると怖いけれど、クルーをとても愛している。私の妹のような、姉のような、母親のような、大事な女の子。

大きな器と大きな夢を持ち、いつも堂々と船長の威厳を発揮するルフィ。普段は無邪気な男の子で弟のように接してしまう時もあるけれど、彼のような人とは二度と巡り会えない、世界にたった一つしかない太陽のような存在。

この子が大きくなったとき、教えてあげよう。
あなたは産まれる前からみんなに愛されていたのだと。
そして今も、大きくて温かいたくさんの愛情に包まれているのだと。

私たちを待ち受ける運命は過酷かもしれない。
でも、きっと私があなたを守る。
ゾロが、みんなが、私たちを守ってくれる。
だから笑って生きよう。
大きな体の親友から、笑い方を教えてくれたから。
だから精一杯生きよう。
私の母が最後に残してくれた言葉が『生きて!』だったから。
この子を世界一の幸福者にしてみせる。
その思いはこれからも止むことはないだろう。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ