本編

□第6話:襲撃
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世界一の軍事大国、ミッドガルズ。
かつてダオスに侵略され、滅亡の危機に瀕していたが、クレス達の活躍によってその隆盛を保った国。城壁に囲まれた堅牢な街の中には、今なお進化し続ける都市がある。

ここに、クレスがいる。

そう思うと、一行の間に緊張が走る。
何せ、これから城に行って父の居場所を聞き出さなければならないのだ。嫌でも身体に力が入る。

「よしっ……!」

気合いを入れ直す様にパンッと頬を叩くと、カレンは街の中へと足を踏み入れた。リーティアとルイスもそれに続く。

「どいたどいた!邪魔だよ!」
「きゃっ!?」
「うわっ!?な、なに?」

街に入ろうした時、すれ違いざまに人とぶつかり、荷物をばら撒いてしまった。カレン達は慌てて拾うのを手伝う。
見たところ家族の一行のようだ。小さい子ども達もいて、母親の陰からカレン達を見ている。旅行に行くにしては多過ぎるほどの荷物を持っていて、どこかソワソワと落ち着かない様子だ。

「あんたら、ミッドガルズに用があるのかい?」
「そうですけど、それが何か?」

荷物を拾っていたら、カレンとぶつかった父親らしき男性が声をかけてきた。

「悪い事は言わねえ。すぐに引き返した方が身の為だ」
「え?それってどういう……」
「邪魔して悪かったね。じゃあな」

荷物を拾い終えると、男性とその家族はそそくさと街の外へ出て行った。
その様子と、さっきの意味深な言葉が頭に引っかかって離れない。

「何なんだろ?」
「夜逃げにしては、随分と早い時間だな」
「とにかく、街の人に聞いてみよう」

とは言ったものの、ミッドガルズの街には活気が無かった。重く、物々しい雰囲気が漂っている。街のあちこちを武装した兵士が歩き回り、一般市民はほとんど出歩いていない。店は開いているが、閑古鳥が鳴いている状態だ。人々の憩いの場となる広場や公園には、子ども達が楽しげに遊ぶ姿も見当たらない。

「どういう事だ?」

街の様子に、ルイスは眉を寄せる。
以前彼が訪れた時には、人が大勢いて、アルヴァニスタよりも活気のある街で、こんな物騒な空気は流れていなかった。なのに、この今にも戦争でも始めるかのような不穏な雰囲気は何なのだろうか。
ルイスは、営業している数少ない店の店主に声をかける。店主は俯いていた暗い顔を上げて、面倒くさそうに答える。

「モンスターが襲ってくるんだよ。街の中までな……」
「モンスターが?」

店主の話によると、最近ミッドガルズ周辺でモンスターの動きが活発化し、外に仕事に出た人々が襲われるという事件が多発していたという。軍が討伐に乗り出し、一時は落ち着いたと思われていた。しかし、つい昨日、モンスターが群れを引き釣れて街中にまで入り込み、人々に襲いかかった。すかさず軍が出動してモンスターを退治したが、それでもかなりの死傷者が出たらしい。
それ以来、軍は街中の警備を強化し、住民には外出を控えて家にいるようにとの通達があり、今に至る。

「うちのガキも大ケガをした……軍では死人も出たらしい……。あんたら冒険者だろ?死にたくなかったら、とっとと街を出た方がいい」
「城には入れるのか?」
「城門の警備を見なかったのか?あんな状態で入れるわけないだろ」

店主が指差した方向にある城門に視線を向ける。普段は二名の警備が厳重になり、兵士の数が倍はいる。とてもおいそれを中に入れてくれる雰囲気ではない。モンスターの襲撃があったのなら、当然の処置だろう。

話が終わると、店主は早々に店の奥に引っ込み、『閉店』の札を持ってきた。今日はよっぽど客が来なかったのだろう。ルイスは礼代わりにアップルグミとオレンジグミを数個購入した。

「話は聞いてたな。城には簡単に入れそうにもない。しかもモンスターの群れがやって来るときたもんだ。どうする?」
「だからって、引き返せるわけないでしょ!父さんのことを聞き出すまで、ぜぇ〜ったい帰らない!」
「そう来なくっちゃな」
「ルイス、何か方法があるの?」

リーティアがそう尋ねると、ルイスはニヤリと笑った。

「任せとけって。親の七光りってのは、こういう時に使うもんだぜ」

その言葉に、二人は首を傾げる。そんな二人に「ついてくればわかる」と言い、そのまま城門へと向かった。

「何者だ?」

案の定、近づいたら槍で行く手を遮られ、不審者扱いだ。
しかし、その対応もルイスは予想していたようで、余裕の態度を崩さない。

「俺の名はルイス・フレミング。ギルドで魔術師をしている。ちょっくら城に用事があるんだが、通してもらえるか?」
「駄目だ。今は何人たりとも城には通すなと、隊長の御命令だ」
「これでもか?」

そう言ってルイスは、一枚の書状を差し出した。兵士がそれを受け取って開くと、驚愕の表情を浮かべた。
書状にはルーングロムのサインがあり、そこには今回のクレス失踪の捜索に協力していただきたいとの旨が書かれていた。

「それに書いてある通り、この二人はカレン・アルベインとリーティア・アドネード。かのクレス・アルベインの御息女だ。その二人が行方不明になった父親を捜す為に、わざわざミッドガルズまでやって来たんだ。無下に追い返す事はないんじゃないか?あんたらが忙しいのはわかるが、話だけでも聞いてくれるように、その隊長さんとやらに話をつけて欲しい」

カレンとリーティアの名を聞いた途端に、周りの兵士達にもどよめきが走った。クレス・アルベインの名は、まだミッドガルズに深く根付いているようで、効果は抜群だったようだ。

「…………わかった。しばらく待っていろ」

一人の兵士が書状を持って、城の中へと走って行く。とりあえず、無下に追い返される事はなさそうだ。ルイスも、この結果に満足している。

「あっきれた!親の名前を引き合いに出されるの、嫌じゃなかったっけ?」
「こういう時に使うもんだって言ったろ」

あっさりとカレンとリーティアの名を明かし、ルイスは得意気な顔をしている。もっとも、ルイスは以前からギルドの仕事でも父の名を引き合いに出して仕事をやりやすくしたり、立ち入り禁止区域に入ったりしていた。
親の名を盾にして威張り散らすのは嫌いだが、こういう時に使えばこれほど便利なものはないと思っている。
その様子に、カレンは呆れ果て、リーティアは苦笑している。

「敵襲!!敵襲―!!!」

静寂の街に響いた叫びと警鐘。
見張り台に目を向けると、兵士が北の方角を指差しながら、必死に叫んでいた。指差された方向には、大きな黒い影がミッドガルズを飲みこもうとしていた。ザワザワと蠢きながら、猛スピードでこちらへ近づいて来る。飛行モンスターの大群だった。

「あれ……全部モンスター?」
「すごい数……」
「あんな大群、見たことねえぞ」
「君達も早く城に入れ!ここにいては危ない!」

見張りについていた兵士達は、モンスターの群れを確認すると、住民達を城内に避難誘導していた。

「何言ってんの!わたし達だって戦える!」
「わたしも、救護くらいなら出来ます。手伝わせて下さい!」
「しかしっ……!」
「グダグダ言ってる場合か!行くぞカレン!」
「言われなくってもわかってる!行こうリーティア!」
「うん!」
「お、おい!待て!!」

兵士は走り去る三人を止めようとするが、避難誘導で手が離せず、三人の背中は城内へと吸い込まれて行った。
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