パウリー

□プロローグ
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今日は驚く程清々しく良い一日だった。


発注ミスから納品が2日程遅れると予想されていた帆船も、何とかギリギリ本日完成。


アイスバーグさんも満足気に俺の肩を叩き、無事残業を免れ駆け込んだ最終ヤガラレースじゃあ、まさかの大穴ドンピシャ1人勝ち。


いつもは、どっから湧いて出たんだよ!!ってぐれぇ粘着質に追い回してくる借金取りの野郎共も、何故か今日は音沙汰なし。


景気良く酒場のツケを一括清算、余った金で浴びる程飲み、確かまた新たなツケが出来ちまったが…まぁ、それすりゃ今は清々しく思える。


とにかく、最高の1日だった。良い汗かいて良い酒飲めば、葉巻が一段とうめぇ。


そんで身体を纏う、程良い熱気を程良い水圧のシャワーで流し去り、寝付く前の一服を堪能すりゃあ後は、程良い硬さのベッドに雪崩れ込み、大口開けて寝るのみ…本当良い1日だったなって思い起こしながらよ。


あぁ…


『ウヒョーッ!!やっぱ、やっぱお前は何ともなんねーんだな?!』


その筈だったんだ。


『たッ、助けてくれ!!もう俺にはお前以外に頼れる奴居ねんだよ!!』


この得体の知れねぇ女が俺を訪ねて来るまでは。


「…どこのどちらさんか知らねぇがよ、年頃の女がこんな時間に、そんな格好で彷徨いてんじゃねぇ」


あーイライラする。


俺が蔑みの眼差しを送る女は、何故か男物のダボダボオーバーオールに、これまたダルダルのTシャツって何ともだらしねぇ姿をしていた。


どこか見覚えのあるそのスタイルは、今巷で流行りの“職人ファッション”だとか言うやつなんだろう。


それに見合った誇りやプライドも無い奴等がそんな格好しても、似合う筈もねぇのに…これだからミーハーは嫌いなんだよ。


はぁ…せっかく気持ち良く眠りにつけると思えば、最悪の終幕だ。


『俺だってばパウリー!!オレ俺!!ちょ、おいコラ閉めんなや?!』


うるせぇーよ。ってか何でこの女裸足なんだ?…関わらねぇのが賢明だな。


「ハイハイ今更オレオレ詐欺なんざで釣れねーって。どっから覗いてたんか知らねぇけど、今日の収益は全部酒に替えちまったから1ベリーも残ってねぇよ」


分かったらとっとと帰れ。そう、なるべくその身体に触れぬよう、扉で押しやりながら女を追い返そうと躍起になれば、対抗する様に女の言動も大胆になっていく。


『テッメ唯一無二の友人に向かってなんて仕打ちだ!!ノミで脳天くり抜くぞゴラァ!!』


口悪く喚き散らすコイツが、無理矢理隙間にその細い足をねじ込んでくるせいで、力任せに閉め出す事もままならない。


はぁ…ガレーラで腕を磨き、それなりの階級を踏んでいくにつれ本当“こーゆー”輩が増えていった。


「生憎俺はお前みたいなだらしねぇ女は知らねぇし、加えて言えば唯一無二の女の友人なんざ1人も居ねぇ」


『女女うっせーぞ!!お前そんなんだからいつまで経っても童て、お?やっと話聞く気に“バタン!!”ってちょ?!おいパウリー!!』


必死に閉め切ろうと握り締めていたドアノブを少し押し開け、忌々しく挟まっていたコイツの足が抜け出たのを確認した瞬間、俺は思いっきり扉を閉めてやった。


勿論、鍵もソッコーに。
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