混迷∞青年記A 第七章〜

□第八章第三話
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休憩した後、水着に着替えて旅館を出た俺達が向かったのはもちろん海
解放されている砂浜には沢山の人がいて賑わっていた
空はひと足早く砂浜に入り、サンダルは邪魔だと脱いで裸足で海まで駆けて行った


『みんなー!早く早くー!』

『はえーよ空ー!』


春原がそれを追いかけようとするが、ビーチサンダルでうまく走れるわけもなく
早速転んで全身で砂浜に激突し、すぐ跳ねるように起き上がった

青い海、青い空、照りつける太陽、心地よい潮風
と、ここまではいいんだけれど…


『あっっっっつ!』

『そりゃこれだけ照りつけてたらな…砂も熱くなるさ』


正直、サンダルを履いてても熱い
それなのに空は平気な顔
春原は体についた砂を落としながら海へと再び歩き出し
早速2人で海の中へと入りバシャバシャと遊び始めた


『元気な奴等…』

『あいつらはまだ餓鬼だしな。海ってだけでテンション上がってんじゃねぇの』


龍崎もそうは言うけれど、顔は笑ってるし今にも海に入りたそうにうずうずしているようだ

2人とはしゃいでくればいいのに…
こいつが素直に楽しんでるところってそう見ないよな、そういえば
こいつにも色々事情があってそれによく悩んでるみたいだけれど
今回はそれも忘れて純粋に楽しんでくれればいいな


『お前も行ってこいよ。俺はあの辺りで場所取って荷物見ておくからさ』

『おう、へんな男にひっかかるんじゃねぇぞ』

『はいはい…』


そう言い残して、龍崎は波にもまれている春原と空のところまで行って
3人で海水の掛け合いっこが始まった
…そう、3人


『嵩海は行か……あれ?』


嵩海がいる方向を見上げたつもりだったのだが、視界に嵩海は入らなかった
慌てて反対方向を見るも結果は同じ

おっかしいな…さっきまで居たはずなのに
それに嵩海ほどの身長があれば、人混みに紛れていてもすぐ見つかりそうなものなんだが…
迷子?まさかな
とは言ってもどこに行ったのやら…


『仕方ない、探すか』

『ここだよ…』

『!?』


突然足元から嵩海の声が聞こえ、視線を下ろすと砂浜に小さく丸まった嵩海の姿
尻熱くないのかな…いやそうじゃなくて


『どうしたんだよ。お前、海に行くってなってから様子がおかしいぞ?』

『うう…』


嵩海は頭を膝の間に挟むように抱え、そのまま黙り込んでしまった
俺は隣にしゃがんで嵩海の顔を覗くと
見えたその表情は何かに怯えているようなものだった


『嵩海?』

『…ねぇ、聞いて笑わない?』

『え?そりゃ笑ったりなんかしないさ』


そういうと嵩海はゆっくりと顔をあげ、海を指差してこう言った


『俺、海苦手なんだよ……』
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