混迷∞青年記A 第七章〜

□第八章第四話
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旅館に戻ってしたのはとりあえず旅館の外にあるシャワーを浴びることだった
ガッツリ海に入っていた龍崎と空はもちろん、基本砂浜にいた俺や春原、嵩海も砂だらけだし汗もかいたのでそこで簡単に洗い流す
そしたら今度は部屋に戻って準備をして浴場へ


『わーい!おっきなお風呂だーっ』

『こら空、はしゃがないの!』


テンションが高い空に嵩海が喝をいれる
転んで怪我されても困るしな…


『じゃあとりあえずバラバラで。洗い終わったらそこの風呂集合な』


中でも1番広いと思われる風呂を指差して言う
皆了解だと告げるとそれぞれが空いている所に座ってシャワーを浴び始めた
俺も探そう、とあたりを見回したらちょうど春原の隣が空いた
そういえばこの旅行に来てから春原と全然話せてないんだよな…
なんとなく寂しいものを感じて俺は春原の隣に座った


『隣、失礼するぞ』

『おう』


先に頭を洗っていた春原は下を向いていて、俺もそろって髪を洗い始めたものだから
2人とも下を向いていて話がし辛い…
さて、なんと話を振ろうか


『お前ずっと鳥子ちゃんと居たけどさ、仲良くなれたのか?』

『あー…ちょっとだけ。あの子ずっと怯えてばっかだったんだよな。
でも最後の方は結構話してくれた…と思う』

『…そうか』


うん、仲良くできたんならそれでいい
春原だって高校生だし、女子と仲良くできるのに悪く思わないはず…
しゃかしゃかと頭の泡を立てながらそう考える
十分に洗えただろう、と手探りでシャワーを探すがどうも見つからない
目を開けるわけにもいかず困っていると、横から頭に向けてシャワーが浴びせられた


『っ…春原?』

『このまま俺がもってるからさ、泡流せよ』

『……』


若干、この状況に納得がいかなかったものの
俺にはどうしようも出来なかったので大人しく頭の泡を流す

全て洗い流せた所で春原がシャワーを止めて、タオルを俺の腕に当てた
それを受け取って顔をふき、顔をあげる
どうやら春原が持ってるシャワーは俺のところのシャワー
どうりで見つからないわけだ…


『おい、どういうことだよ』

『鳥子ちゃんに嫉妬した?』

『は!?』


なんでそんなこと
と言うか鳥子ちゃんに?嫉妬?
そんなまさか、ありえない


『だって鳥子ちゃんのこと聞いた途端、頭洗う手が荒々しくなったから』

『そんなことない!…お前が楽しかったならそれでいい』

『そうは言うけど、寂しがってるのは分かったぜ?』


図星を突かれて胸が跳ねる
俺、そんな分かりやすいか…?
しかも下向いてお互い顔なんて見えてなかったし
雰囲気で感じ取ったとかいうのかよ、恐ろしい…
そんなふうに動揺していると拍車を掛けるかのように春原が顔を覗き込ませてきて、言った


『大丈夫。俺が愛してるのは二十歳だけだから』

『な…っ、おま公共の場で…!』

『平気平気、周りの人にはシャワーの音で聞こえてないって』


無邪気な笑顔を浮かべて、そして心拍数の上がる俺のことは御構い無しにシャワーを定位置に戻し
普通に自分の体洗い始める
俺は湯気とは違う熱を顔に感じてタオルに顔をうずめた

はぁ…どうしたもんか…

由奈に打ち明けてからというもの余計に春原へのガードがゆるくなったんじゃないのか俺…

そんなことを考えつつ、俺はそのまま胸を落ちつかせ深く深呼吸をしてから顔を洗い始めたのだった
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