青い炎

□7話
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side 手塚

どうしてもっと早くに気付いてやれなかったんだろう。
今俺の背中で静かに眠っているのは俺の大切な幼馴染みだ。彼女に初めて会ったのは小学3年の時。お祖父様に連れられて神奈川にある道場に行った時のこと。お祖父様は是非俺に会わせたい女の子がいると、毎日テニスばかりしていた俺を連れていったんだ。

道場で見たのは平均よりも高い伸長で、同級生の誰よりも大人びた女の子。大人相手に堂々と竹刀を突き合わせていた。俺はその姿に目が離せなかった。稽古が終わって挨拶をした彼女を、お祖父様が呼んだ。蘭華、と呼ばれた彼女は振り向いてこちらを見ると、先程とは違った年相応の無邪気な笑顔で手を振ってきた。お互いに自己紹介をして少し話をしてその日は帰った。それから俺はたびたびお祖父様と一緒に道場を訪れるようになった。お祖父様は、以前は道場の師範をしている人をからかうために道場を訪れていたそうだが、彼女に会ってからは彼女の顔を見るために訪れているようなものだ、と話していた。

お祖父様がその人と話をしている間、俺と蘭華は話をしたりテニスをしたり剣道をしたりして過ごした。彼女はいつも笑っていた。一度なにがそんなに嬉しいのだろうと思って聞いてみたことがあった。そうすると、彼女は“国光が笑っているから”と答えた。いつも学校の友人に俺はなかなか笑わないと言われていたし、俺自身も嬉しいと思った時に笑っているという感覚がなかったため、彼女の言葉は不思議だった。だからそう返すと、“だったら国光が笑っている時に教えてあげる”と答えた。それから彼女は見せてあげると言い、教えるのと同時に俺に鏡を向けてくるようになった。鏡に写った自分の顔を見てみたが、あまり普段と変わらないように思えた。彼女は信じられないと笑っていた。

彼女は俺が、笑っている、怒っている、悩んでいる、困っている、悲しんでいる、そうした表情をすぐに理解する。俺のことをわかってくれている家族以外で唯一の存在だ。

俺も彼女のことはなんでもわかっている、そう思っていた。




小学4年になると彼女は東京に引っ越してきた。引っ越し先の彼女の家は比較的俺の家の近くで、小学校も同じ所に通った。俺はテニスをしてばかりだったが、たまに一緒に出掛けたり、共働きの彼女の両親がいない時に俺の家で一緒に夕食を食べたりした。

当然中学も同じ学校に行くものだと思っていたが、彼女は氷帝学園に行くと言った。俺がどうしてかと聞くと、“特待生で入学金が免除になるし授業料もいくらか安くなるらしいから”と答えた。それなら仕方ないと頭ではわかっていたが、俺は自分が思っていた以上に彼女と離れることが嫌だったらしい。中学に入学して彼女から学校の話をされると妙に、、、ムカムカしていた。このムカムカ、というのはこの前乾に聞いた。――だから俺は彼女に学校のことを聞くことはしなかった。特にテニスの試合でよく会う跡部景吾の話は本当にムカついた。
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