青い炎

□18話
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Side 幸村

土曜日は有栖と大阪に行った。そこで有栖は俺達立海の三連覇をそばで見たいと言った。


事情がわかって有栖のおばさんが一緒に住もうと言った時、俺はうちは大丈夫だと言った。でも確かに赤の他人に姪を預けるなんておかしな話だ。けど有栖には立海を最後まで見届けてほしいと思った。金曜日に俺達への思いを話してくれて、有栖がそんなに俺達のことを思ってくれていたことを初めて知った。正直驚いた。頑なに理由を話さないで幼馴染の俺とも仲の良かった仁王とも3ヵ月もの間関わらなかった有栖。意味が分からなくて、なんで俺に話してくれないのかと苛立った。同時に自分が情けなかった。だから金曜日に仁王のこと、前のマネージャーを暴力からずっと守ってくれていたことを聞いて俺は本当に自分が馬鹿だったと思った。小さい頃からずっと一緒で有栖のことはなんでも知ってると思っていたのは大きな間違いだった。


だから無茶苦茶なことを言ってるのは承知で有栖を預かると言った。有栖が中学を卒業するまでと言った時は思わず情けない声を出してしまった。けど有栖が決めたことに俺が口を出すわけにはいかない。


そして有栖が来た俺の家は今まで以上に騒がしくなった。母さんと明日香に加えて有栖まで、、、。朝から晩まで家の中が静かになることがなく、俺も父さんも呆れきってしまってる。





そんな休日明けの、今は月曜日の朝練中。

これはどうしたことだろうか、、、?



『あ、ブン太!!靴紐ほどけそうだよ!!』

丸井「え?あ、うわっ!!」

ジャ「おい、大丈夫か!?」

切原「丸井先輩!!すんませんっ!!」

真田「赤也ぁ!!コントロールがなっとらんのだ!!たるんどるぞ!!」

切原「は、はい!!すんません!!」

丸井「赤也、お菓子1週間分で許してやるよぃ」

切原「え、ジャッカル先輩、よろしくッス!!」

ジャ「俺かよ!!」

『ほらブン太。後輩苛めないの』

丸井「じゃあ蘭華が奢ってくれよぃ」

『えーやだよ。ジャッカルに頼んで』

ジャ「俺かよ!!結局蘭華も俺を使うんじゃねーか」

『ごめん、冗談だよ』



なんで丸井とジャッカルが九条さんとお互いに名前呼びになってるんだ?


柳「精市がなぜ丸井とジャッカルと九条がお互いに名前呼びになっているのかと思っている確率95.7%」

幸村「ああ、蓮二。なんでだか知ってるかい?」

柳「金曜日の帰りに迷子になった九条がジャッカルに助けを求めたら丸井の家のすぐそばだったらしくジャッカルと丸井が九条と合流し、その後丸井の家で遊んで丸井から名前呼びにするようにと言ったらしい。ジャッカルはその後の帰り道に――」

幸村「ふーん、、、。」

柳「それとな」

幸村「ん?」

柳「九条がジャッカルの言葉を信じると言っていた」

幸村「え?」

柳「その帰り道、ジャッカルが跡部から詳しい話を聞いた後に俺達が決めたことを九条に話したんだ」

幸村「俺達は彼女のことを知りたい。彼女にはなにか不思議な力を感じる。優しさ、、、。真田が心を許す、俺の気持ちに気付く、彼女には多くの人を包み込む温もりみたいなものがある。氷帝での出来事が彼女にどれほどの傷を負わせたのか。なんの関係もない俺達に話してくれるわけないけど、彼女の痛みを俺達が少しでも和らげてあげたい」


そう。そして俺は彼女がマネージャーになった初日、彼女の口からそれを聞いた。もう何度も壊れてしまっただろう彼女の身体はとても細くて今にも消えてしまいそうだった。だから俺は彼女を抱きしめた。小さく震える身体を俺は壊れないようにそっと抱きしめたんだ。そうしたらその身体1つで抱えていた気持ちを精一杯話してくれた。どれほど辛かっただろう。あんなにも大切な人のことを思って泣く彼女が愛おしくて、俺は抱きしめる力を強めてしまった。壊れてしまうと不安になったけど彼女は“今だけで良いからそばにいて”と言った。俺はずっとそばにいると答えた。きっと彼女は俺が気を使ったと思っただろう。今はそれで良い。この先俺のことを信じられるようになった時にわかってくれれば。俺は本気で彼女のそばにずっといたい。九条さんのことが好きだから――。いつからかなんてわからない。気付いたら彼女のことで頭がいっぱいだった。彼女に初めて会って自分を見透かされた気がした時にもう彼女に惹かれていたのかもしれない。思えばあの時さりげなく言われたのはたった一言。それだけで俺を動かしてしまったんだ。自分でも不思議だと思う。でもそれが彼女なんだと思う。真田も手塚も氷帝のみんなもそんな彼女が好きなんだ。彼女を救えるのは俺じゃない。彼女が大切に思っているすべての人が彼女の闇を取り払ってあげなくちゃ彼女は救われない。だから俺は少しで良い。少し九条さんが前に進む手助けができればそれで良いって思った。



なのになんだって?ジャッカルが?



ふふ。なんてことをしてくれたんだジャッカル。けど結果的に九条さんが前に進めたならそれで良い。



幸村「ジャッカル!!」

ジャ「幸村?なんだ?」

幸村「ちょっと放課後俺の相手してくれない?」

ジャ「俺が?いや、県大会の調整なら柳とか――」

幸村「よろしくな」

ジャ「あ、ああ」

柳「頑張れ、ジャッカル」

ジャ「柳、お前なんか言ったか?」

柳「いや」

ジャ「そ、そうか。、、、じゃあ俺、戻るな」

『わっ、ジャッカルどうしたの!?顔色悪いよ?』

南「いつも通り黒いけど」

『そんなことないよ有栖。大変だ、ほら休んでなよ』

ジャ「あ、ああ。わりぃな」

『もう、疲れてるんだね。いつもブン太とか赤也君とかに無茶言われてるから』

南「なんか蘭華、ジャッカルに献身的だね。夫婦みたい」


ピキッ―――


『夫婦って、、、。まあジャッカルは好きだけどね』


ブチッ―――


切原「え!?幸村部長!?なにがあったんスか!?」

柳「赤也、気にするな」

切原「え、、、?」


ふふ、ジャッカル。放課後覚えてろよ。



Side end
 

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