青い炎
□19話
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『やっぱり強いね、立海』
南「そりゃ県大会で苦戦してたら全国で優勝なんてできないよ」
『そうだね。でもやっぱすごいよ。今の試合1時間かかってないよ』
今立海大付属中学校、県大会優勝を決めました。もう本当にあっさりと。決勝の相手は結構名の通った葉ノ宮中だったんだけど始まって1時間で3試合終わらせちゃった。みんな全然疲れてない。汗1つかいてないってすごい。
『みんなお疲れさま』
切原「あっけなかったッスね」
ジャ「赤也なんて最短記録出したぜ」
真田「優勝することが前提なのだ。時間も体力も使う必要などない」
切原「でもあっけなさすぎてだめッス。先輩達、誰か試合しましょうよー」
幸村「赤也、安心しな。今から学校に戻って練習だよ」
『え!?今から?』
幸村「九条さん、なにか用事?」
『あ、そういうわけじゃないんだけど、、、』
そういうわけじゃないんだけど、さっき通りかかった男の子達が話していたことが気になって、、、。
―――――――――
『昨日の都大会、あの氷帝が準々決勝でストレート負けしたんだってよ』
『マジかよ!?相手は?』
『不動峰だってよ。知ってるか?』
『いや、知らねーな』
『ま、氷帝も落ちたってことだろ』
『でも例年通り準レギュラーだったんだろ?』
『そうだけど正レギュラーの宍戸が負けたんだってよ』
『宍戸って宍戸亮か!?』
『もう次の大会から出てこないだろ』
『あそこは1回でも負けたらレギュラー落ちだからな』
『厄介なのが1人消えて良かったじゃねーの』
『あはは、俺らが戦うわけじゃねーだろ』
『まあ、そうだけどな』
――――――――
宍戸が負けたなんて、、、。相手は前に会った橘君がいる不動峰。多分宍戸が戦ったのは橘君だと思う。都大会までは準レギュラーが出て、正レギュラーからは景吾と宍戸と樺地君が出てるはず。宍戸は基本シングルスだからストレートで負けたってことはS3に宍戸が出てたんだ。そして、前に会った時に杏ちゃんに聞いた。橘君が獅子学中の橘桔平だって。その名前は私も聞いたことがあって驚いた。九州2強の1人。だから宍戸が負けるなんてよほど強い相手で、橘君だ、、、。
その男の子達が言っていたように氷帝は1回負けたらレギュラーを落とされる。もう宍戸が試合に出ることはないだろう。、、、ごめん宍戸。辛いよね。辛い時に一緒にいてあげられなくてごめん。でも私がいても邪魔なだけかもしれない。私も辛いよ、、、。
丸井「どうしたんだよぃ蘭華」
『、、、辛いよ、、、宍戸』
丸井「宍戸?」
柳「氷帝の宍戸だろう」
丸井「あっ、わりぃ」
幸村「九条さん」
『え、えっ!?あ、ごめん、なに?』
幸村「今日は帰って良いよ」
『え?練習があるんじゃ――』
幸村「そうだけどそういう気分じゃないでしょ?」
『気分って、、、そんなの関係ないでしょ。みんなは練習したくない時でも練習するでしょ?』
南「、、、蘭華。口に出てたよ」
『なにが?、、、えっ!!』
もしかして、さっきの宍戸のこと!?
『ごめん、みんな知ってて私に知られないようにしてくれたんだよね?』
ジャ「ま、まあな、、、」
『気、使わせちゃってごめんね。本当、私ってダメなマネージャーだね。試合する選手にどうでも良いことに気使わせちゃうなんて』
幸村「そんなこと気にしないで良いんだよ」
南「そうだよ。蘭華だって気になってたけど我慢してたんでしょ?」
『だってみんなの試合がまだ終わってなかったから、さ、、、』
南「もう、試合終わったよ?」
『、、、』
南「もう良いんだよ」
『、、、有栖!!』
南「うん」
『宍戸ねっ!!すごい努力家なの!!他の人の何倍も練習するんだっ!!』
南「うん」
『いつも冷静でねっ、お兄ちゃんみたいなの!!私と景吾が喧嘩しててもいつも宍戸が止めてくれるのっ、、、。呆れた顔で、、、でも温かいの、、、』
南「うん」
『今絶対辛いっ、レギュラー落ちして、、、。勝負の世界だってわかってるっ、負けたんだからって、私、、、甘いこと言ってるってわかってるっ、、、。けど宍戸の気持ち考えたら、、、私も辛いの!!そばにいられなくて余計に辛いの!!でも私がそばにいるの、、、ダメだから!!なにもできなくて、、、宍戸が苦しんでるのに私はなにもできない!!』
南「蘭華。そばに行っちゃえば良いじゃん」
『、、、へ?』
切原「有栖先輩?」
南「そうだよ、東京行ってきな」
幸村「馬鹿なの?今、そばに行くのがダメだって言ったじゃん」
南「だから見つからなきゃ良いんでしょ?こっそり行けば良いじゃん。私もよくあったよ。精市のおもちゃ壊した時にこっそり家に持って帰ってお姉ちゃんに直してもらってからこっそり返したこと」
幸村「知ってたけど?」
南「嘘!?」
幸村「本当」
南「うそーん」
柳生「あの、、、」
「「あ」」
『あ』
有栖に抱き着いていたけど幸村君と言い合いを始めてしまって有栖に腕を放されて行き場をなくした私の腕は今、弦一郎に掴まれていた。
『ご、ごめん!!弦一郎!!』
真田「す、すまん、、、」
『本当にごめん!!』
私は素早く弦一郎のそばから離れた。なんて運がないんだろう、、、。いや、運がないのは弦一郎か、、、。たまたまそこにいたんだもんね、、、。はあ、本当迷惑な女だな、私、、、。
柳「とりあえず南の言う通り東京に行くべきだと、俺も思う」
『え!?』
丸井「なんでだよぃ?」
柳「なにもしなければ九条はずっと気にしているだろう。だったら自分の目で宍戸を見てくるのが1番九条のために良いんじゃないか?」
ジャ「行動あるのみってことか」
切原「データばっかりの柳先輩が言うと変な感じッスね!!」
柳「俺はデータを収集するために行動している」
仁王「主にパソコンか携帯で、じゃろ?」
『、、、行ってきて良い?』
幸村「行っておいで。1人で大丈夫?」
『うん』
丸井「迷子になるなよぃ」
『ずっと住んでたんだから迷わないよ!!』
ジャ「落ち着けって」
南「いってらっしゃい」
『うん、みんなごめんね。行ってくる』
みんなはこれから練習なのに本当に申し訳ない。でも了承してくれたみんなの優しさに甘える。柳君の言葉も幸村君の行っておいでも偽りじゃない。本気で言ってくれてる。だから今は宍戸のそばに行かせて――。
――――電車に乗って東京に着いた。
どこにいるんだろう、、、。とりあえず知り合いに会わないように氷帝の近くを探してみよう。
宍戸のランニングコース
みんなで行ったゲームセンター
景吾を引っ張って行ったファーストフード店
宍戸と見つけた小さな洞窟
本当に宍戸はお兄ちゃんで、兄貴って感じ。冷静なんだけど熱くて、仲間や後輩から慕われて、、、。お兄ちゃんって言うと忍足もそんな感じだったけどなにぶん忍足は変態で、、、。街に出かけてみんなで買い物をしてるといつもあの人の足は綺麗だとか、良い足しとるわぁ、とか気持ち悪いことばっかり言ってた、、、。
みんなとの楽しい思い出が詰まった道を走っているとみんなのことが一気に思い出された。
庶民同士1番価値観が合って、いつも私のわがままに付き合ってくれた宍戸
何かと言い合ってたけどいつもお互い刺激を受けながら高め合ってた景吾
変態だけどやっぱり私のことをわかってくれるお兄ちゃんな忍足
一緒にふざけて忍足をいびって遊んでたがっくん
のんびり屋だけど楽しい時は本当に楽しそうにはしゃいでてかわいいジロー
いつも宍戸を慕ってついていく姿が大型犬にしか見えないけどそこが愛らしい長太郎君
ぶっきらぼうでも先輩達の良さをちゃんとわかってる若君
景吾の良いところをわかっているからこそ無茶に付き合ってあげてる樺地君
『、、、なんでどこにもいないの?』
思い当たる場所は全部探したのに、、、。それにしても、あちこち探し回ってたから誰かに見られてたかも、、、。でも、今はそれどころじゃない。
最後に氷帝学園に向かう。本当は絶対行きたくなかった。もう2度と来ることはないと思っていた場所。でももう宍戸がいそうな所なんて思いつかない。
辺りは薄暗くなっていたけどコートの方からボールがラケットに当たる音がした。誰かがいる。宍戸じゃなかったら、、、そもそも宍戸でも見つからないようにしなきゃ。
私は1度深呼吸して、そっとコートが見える距離まで行く。
鳳「宍戸さん!!もう止めましょうよ!!」
宍戸「まだまだ!!」
鳳「これ以上やったら死んじゃいますよ!!」
宍戸「馬鹿!!これくらいで死ぬわけねーだろ!!」
鳳「、、、一球入魂!!」
長太郎君と宍戸、、、。長太郎君のスカッドサーブ、、、前に見たときよりすごく早くなってる。すごくたくましく見える。そして宍戸、、、。長太郎君のスカッドサーブを素手で受けようとしてる。あんなに傷だらけになって、、、。
ごめん、宍戸。私あなたをわかってなかったね。あなたは誰よりも努力する。無茶だけど今のそのがむしゃらな姿があなただよね。辛いって下を向いてるなんて宍戸じゃないよね。1度負けたら2度と正レギュラーに戻れない榊先生の方針。宍戸は真っ向からそれを打ち破るつもりなんだ。、、、うん。きっとできるよ。
長太郎君も、宍戸のことをいつも慕ってたから、今回のこと気にしたんだろうな。でも長太郎君と私は違う。私と違って長太郎君は宍戸のそばにいられる。、、、悲しいけど仕方ないことなんだよね。誰も私のことなんて望んでないんだもん。でもそっと応援することは許してくれるかな、、、。
私は急いでコンビニへ行き、絆創膏とミネラルウォーターを買ってテニスコートの出口近くにそっと置いてから神奈川に帰った。