krk*s

あれ、そういえば
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好き、嫌い、好き、嫌い、好き




「き、嫌い…!」


部活からの帰り道、何の気なしに“花占いでもしてみっかな”なんて思い立ったので、一輪だけ道端のお花を拝借してスキキライスキー!と花びらを外していけばこの様である。ジーザス。




最後の花びらの無情なるお告げに、あまりのショックで頭を抱えて空を仰いでいると、にょろりと背後から細長い影がひとつ。



「道端に座り込んでなにしてんの?新興宗教かなんかの儀式?」


「あらあら森山くんじゃないか…。普通に信じられると思うけど、今あった事をありのままに話すよ。“葉山羽衣子(18)花占いで自爆。彼女は「もう私はだめだ。人生なんてクソゲーかつムリゲーだったんや…。」と供述している”そして今に至る。…泣いて良いかな…。」


「俺は渾身のボケをスルーされて泣きそうなんだが…。」


「え、森山くん泣きそうなの?ならば一緒に泣こうぜ。帰り道、みんなで泣けば、怖くない。」


「ここでまさかの赤信号方式応用編!葉山さん安定の斜め上発言きた!そんでもってなんで慈愛に満ちた表情で肩をぽんぽん叩くんだ!」


「知ってる?涙の数だけ、強くなれるんだぜ?」


「あっ…はい…。」


「ちょ、困った顔しないでよ森山くん。こっちが困っちゃうよ。」


「………。」



ちなみに、友人によく「あの森山を黙らせるんだからあんたすげーや☆」とよく誉められるのだが、ようやく今察した。マジで黙らせてた。




「葉山さんのボケが俺の脳内で飽和状態でどうしたら良いか分からない…。」


「海常のおなご達は、みんな君の残念さの飽和状態に戸惑っているから安心していいよ。」


「どう安心したらいいんだ!」


「ウン?…ホラ…アレダヨ。…ファイトッ。」


「う、うあああああああああ!!」





なんか再起不能をお知らせするライトが点滅してる(ような気がする)森山くんには悪いが、今はそんなことより花占いの結果である、ごめんね。

気がつけば、無惨に散らばっていたはずの花びら達は、私のショックなど素知らぬ顔で、風に乗って既にどこかに行ってしまっていた。全く薄情なやつだ。





「…ところでさー、葉山さんさー、誰からのスキキライを花占ってたの?」


「え、そりゃ勿論不特定多数の人達からのスキキライだよ。」


「エ"ッ?」


「エ"ッ?」


「そ、それって、自分の好きなたった一人の人からの、スキキライを、占うものなんじゃ、ないのか?」


「まー普通はそうなんだけど、なんて言えばばいいんだろ、昔からね、皆から好きでいて欲しかったから、私は、“誰にも嫌われてませんように祈願”で花占いやるの。古き良き自分的伝統!」


「ごめん、葉山さんの事だから、てっきり正しい情報を知らずに今日の今日まで生きてきたのかと…。」


「うん?森山くんなのにフェミニストらしからぬ失礼な発言をするね?」



彼がモテないのはこの辺にも理由があると思う。やっぱりひっじょーーーに残念な人だ。黙ってれば多分磁石に集まる砂鉄よろしく女子に囲まれて、うはうはハーレムライフ送れるぜ。




「誰にだってね、嫌われてたくないんすよ、私は。」


「はげつるピッカーのおっさんとか巷で話題の不審者とかでも?」


「んーー、そー、だねー、どちらかと言えば、嫌われたくない、かなー、」


「無理するなって、目がスイミングしてるぞ。」



森山くんが意地悪く笑う。楽しそう。彼は残念なイケメンで失礼でサディストなようです。


「でもほら、沢山の人に好かれるに越したことは無いじゃない?嫌われたらつらい。要はモテたいのと同じ心理だよ。君ならば分かってくれるはずだ。」


「え?分かんない。」


「裏切り者!ていうか意外。君なら“分かる!分かるぞ!嬉しいもんだよな、女の子からの熱い視線、視線、視線は!”ってくると思った。」


「いや確かに大体合ってるけど…、うー…んまあこれは普段の行いが悪いよな…。」


「何を項垂れてんの。こんなイメージ今更じゃないか。」


森山くんは、頭を抱えて私の横に座り込み、腕で隠れてよく見えないけど、どうやら苦悶の表情をしているよう。


そして、うーんうーん、と暫しの唸りタイムの後、再起動。


「あのな、葉山さん、 俺は沢山の女の子にモテたらそりゃ嬉しいし、そんなハーレムライフに憧れもするけどな、」


「うん?」


「沢山の“好き”より大事な、っつーかめっちゃ欲しい、唯一無二の“好き”があるの。分かる?」


「ああ、つまり森山由孝氏には好きな子がいると!」


「そーゆーこと!理解した?」


「へー、ほー、そーなんだそーなんだー!でもそしたらあれだよ、やっぱり、数多の女の子にモテたいです!を公言したり、軟派な行いは控えた方がいいと思う。ほんで好きな子にはアプローチを忘れずに。」


「分かったがんばる。」


「おう、がんばれ。」







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気がつけば、花占い騒動から早いもので一週間。



最近の海常3年女子の間では、「森山が静かだ」「森山がただのイケメンだ」「森山が」「森山が」

まあ、とにもかくにも森山くんがいっぱいである。専ら、女の子に声を掛けまくる残念行為が無くなった話。



だが、しかし。何故だ。


「羽衣子ちゃん一緒に学食行こう!」「羽衣子ちゃん俺が枝毛を切ってあげる! 」「羽衣子ちゃん帰り送るから待ってて!」


なんで森山くんはいきなり下の名前で呼び始めたの、めっちゃ声掛けてくるの。枝毛とか自分で切れるよ大丈夫だよやめてよ。


誰だ森山がただのイケメンになったとか言い始めたの!むしろ残念さ三割増しなんだけど!ていうかアプローチはどうしたのアプローチ。

聞いてみたところ、


「まったくこっちからの好意に気づかない上になんかキモがられてる気がするが、距離を縮めようと頑張って名前呼びしてるし、なんだかんだで一緒にいる時間増えたし、根本からは嫌われてない!多分順調!でも泣きたい!」

とのこと。とりあえずいつかのように


「人は涙の数だけ強くなれるんだぜ?泣きなよ。」


と励ましておいた。





まあなんだ。残念な彼が幸せになることを祈るばかりである。がんばれ森山くん。






あれ、そういえば
好きな子って誰だ






(笠松、どうしよう羽衣子ちゃん本気で全然気づいてないどうしよう)(お前キモいから気づかないフリしてんのかもな)(………。)(流石に冗談だよ悪かった)

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