*wild fancy

不意打ちと本番と
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今日の6時間目は映画を見るそうな。そんな噂で始まった俺の1日。







そして現在。噂は本当だったようで、教室の黒板前にあるスクリーンを引っ張り出して映画を見ている。高校生のHRってすごく自由だと思う。



ちなみに数年前の「ド●えもん」なのだが、つまらん。実につまらん。残念ながら俺はとっくにドラえ●んは卒業した身なのだ。
…せ、せめてク●ヨンしんちゃんにしてほしかった。




唯一の救いといえば、




「ジャイアン…!ジャイアンまじ男前…!グスッヒグッ」
と、ド●えもんに本気で涙する彼女が隣にいることだ。


同じ高校2年生とは思えない反応に若干びっくりはしているけども。うむ…。









周りを見渡すと、ポテチ食べながら映画についてツッコミを入れてるやつら、真面目に見てるやつら(含彼女)、ただ駄弁ってるやつら、果ては寝ているやつもいる。



それぞれが、したいことをしている時間、といった雰囲気の中、特にすることのない俺は大変暇なのだ。そしてごめん、彼女よ。俺にはジャイアンの良さがよく分からない。





「鈴くん鈴くん」


ふいに彼女は、ハンカチ片手にこちらを振り向いて俺を呼んだ。…涙と鼻水とで、すげえ顔ですよおい。



ハンカチを「貸せぃっ!」と奪い取り、顔を拭いてやる。擦れて赤くならないように力加減には気を付けつつ。




「えへへー、ありがとうね」うふうふ笑って顔を拭かれながら、彼女はしゃべり続ける。



「あのさあのさ、ジャイアン男前だけどさ」





私の鈴くんも負けてないと思うんだよねー。









ちゅ。










「おっとこまえイエー!」







 唇 奪 わ れ た 。
…かと思ったら頬っぺたチューだった。

安心したような残念なような。




いやいやいや、そもそも
「教室で!何を!するんだ!お前は!」



「頬っぺたチュー。」



「違う!いやそうだけど!何でこの公衆の面前でやった!?」



「教室が映画見る用に電気消してカーテン閉めて暗くカスタマイズされておりましたので。」


それにー、と続ける。




「みんな気づいてないよー。」



確かに。各々やることに夢中で周りに意識を向けている様子はない。

現にこうやって話していても誰もこちらを気にしたりしていない。


加えて、この席が端の列の1番後ろで見えにくい場所なのも原因だろう。







「どや。不意打ちチュドーンは。」
どや顔で胸を張る彼女。
正直かなり驚いたし、いまだにドキドキが止まらない。このままでは、男としてなんか悔しい感じだ。








しばし黙考。










「よし、もっかいして。」


「待って意味分からないよそれは。」


「もう一度頬っぺたチューを下さいお願いします」


「あれはドッキリだから面白いんだよ!やめてガチの頭下げお願いやめて!」


「…ダメ?」


「ダメ!しょげた顔で上目遣いしてもダメ!」



「仕方ないな、ならば土下座「ごめん分かった私が悪かったいくらでもやります。」


逆に頭下げられた。






とにもかくにも頬っぺたチュー第2弾を頂けることになった。






「いくよー?」
おっとりしすぎている彼女は、こういうことをする時に緊張しない。羞恥心仕事しろ。

ちなみに、海外だと当たり前なスキンシップだからね!とは彼女の談である。





「っしゃ来いやー!」








ちゅ。









触れる柔らかなそれを感じる。
よしきた。計画通り。









俺は、任務を終え唇を頬から離して遠ざかろうとした、シャンプーのいい香りのする頭を掴み、



「!?」




再びこちらがわに引き寄せる。

そして





頬じゃなくて、今度は唇に唇をもらう。






突然の事で驚きを隠せない様子の彼女。俺と唇を重ねているが、目を見開いたままフリーズしている。

口は真一文字に固く結ばれたままだ。






舌で無理矢理にでもこじ開けてやろうかと思ったが、息苦しくなった彼女が酸素を求めて自ら口を開いた。

「ん…っは、ぁっ…」


艶かしい吐息が漏れ聞こえる。




これは絶好のチャンス。


くちゅ…




、瞬間、俺は彼女の口内に侵入した。




熱いほどの体温をを舌で感じとる。



そして彼女を絡めとる様にして捕まえる。逃がすものか。




「ふぁっ…、ん、ぁ、…っ」




舌同士の交わりによる水音に混じって聞こえる甘い甘い声。








吐く息も。


甘いその声も。


唾液でさえも。





全て飲み干したくなる。















さて。そろそろ終いにするかな…。




名残惜しい気もしたが、ふと、「あ、教室にいるんだっけ俺ら」ということを思い出し、彼女からそっと離れた。


俺の口端から紡がれた銀の糸。





「はぁ…っ、ぁっ、はっ、」
その先には荒い息づかいで真っ赤な顔をしている愛しい君。







それにしても、ここまでやったのに周りは依然として気づいていない。

すげーなー、と最早感心する。





「な…に、するのよいきなり…!!」



復活してきたのか文句が聞こえ始めた。




「え?ディープキス。」

「バカ!んなこと分かってる!」


「そもそもお前が始めたイタズラだろー?自業自得。」


「だって不意打ちの一発で終わる予定だったんだもん。」


「ほら、自分不器用ッスから。」


「関係ないじゃない!」








薄暗い教室の隅の、甘い秘め事。













不意打ちでは見事にしてやられたけどさ、





本番までの準備期間があれば、いくらでも狼になれるから







覚悟しとけよ?

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