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□守ってくれた背中
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二人で熱い夜を過ごした日の翌日はヴィンセントからシャワーを浴びるのが通例となっている。
というのもユフィが熟睡してたり、まだ(良い意味で)気怠いからと先を譲ってくれたりするからだ。
今回は前者の方で、幸せな顔で熟睡するユフィの頬にキスをしてからヴィンセントはシャワーを浴びていた。
熱いシャワーの熱が昨夜の情事でかいた汗を流していく。

「さて・・・」

髪を流し、顔を洗い終わった所で最後に体を洗おうとスポンジに手を伸ばした時だった。

「ヴィンセンとー、アタシも入っていい〜?」

浴室の扉の向こうから若干眠気を含んだユフィの声が届く。
さっきまで熟睡していた筈だが、案外早く起きてきたユフィに驚きつつヴィンセントはユフィの入室を了承する。

「いいぞ」
「体洗い終わっちゃった?」
「これからだから少し待っててくれ」
「あーいいよ、急がなくて。それよりも丁度いいや、アタシが背中流してあげる!」

体に白いタオルを巻いたユフィがスポンジを渡せと手を差し出してきて、素直にそれを渡す。
ユフィはスポンジを何度かクシャクシャと握って泡を出すと、ヴィンセントの背中を洗い始めた。

「もう少し寝てても良かったんだぞ」
「うん、でも起きよっかな―って思ってさ」

ゴシゴシと適度な加減でヴィンセントの背中を洗っていく。
ヴィンセントの背中は広くがっしりとしていて、ユフィは大好きだった。
けれど、そんな大好きな背中に情事の時にいつもキツく爪を立てて痕をつけてしまう。
少しすれば消えるが、それでも罪悪感を覚えずにはいられない。

「あ〜、背中に爪の痕残っちゃってるね。ごめん」
「気にするな。お前も必死だった訳だしな」
「バカッ!」

ベシッと照れ隠しにヴィンセントの背中を叩く。
しかしヴィンセントはくつくつと笑っていて、まるできいていない。
なんだかそれが悔しくてどうしてやろうかと考えながら背中の下の方を洗っていると、肌の色とは違う何かを見つけた。
なんだろうと思ってスポンジをどけてみると、そこには鋭い何かで引っ掻かれたような痕があった。
最初は昔宝条にやられた実験の痕かと思ったが、すぐにユフィはある事を思い出した。

「この傷・・・」
「どうした?」
「ここに傷痕があるんだけどさ、これ、三年前の旅の時にヴィンセントがアタシを庇って出来た傷だよね」
「痕が残るほど酷い怪我を負った事などあったか?」
「あったよ。あの時アタシ、アンタが死ぬんじゃないかと思った」
「三年前の時点ではまだ不老不死の身だ、死ぬ事はない」
「それでも心配したの!ケアルガですぐに塞がったから良かったけどさ・・・ごめん、こんな傷痕残して・・・」

ヴィンセントの背中の傷痕を撫でながらユフィは俯く。
この傷痕はヴィンセントが痛みを受けた証。
ユフィが油断した所為でヴィンセントがユフィを庇い、代わりに深手を負ってしまった証。
ヴィンセントにこんな傷を負わせてしまった自分をユフィは呪った。
そうやってユフィは暗い空気に包まれていたが、くしゃっというスポンジを奪われる音でその空気は破れた。

「悪く思っているのなら、無茶はするな」
「うん・・・」
「その為にもマテリアハントは控えるんだな」
「それとこれは関係ないじゃん!」
「いや、ある。お前はマテリアの為なら良くも悪くも何でもするからな」
「何と言われようとこればっかりは譲れないから!」

怒るユフィに軽く一笑して泡だらけの体をシャワーで洗い流し、立ち上がってユフィに椅子を譲る。

「こうなったらアタシ、もっともっと強くなってやる!
 ヴィンセントがアタシに守ってくれないと何も出来ないくらい強くなってやる!」
「フッ、その時を楽しみに待っていよう」

薄く笑うヴィンセントだが、これからも体を張ってでもユフィを守り抜くという意思は変わらない。
たとえユフィが嫌がってもこれだけは譲れない。
もう、大切な人を守れない苦痛と悲しみを味わうのはごめんだ。
強くなると意気込むユフィを微笑ましく思いながら、華奢で小さな愛しい背中を洗い流し始めるのだった。













END

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