萌えcanの

□不思議の国のユフィ
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「ウサギの代わりにマテリアをやるから機嫌を治してくれないか?」
「ホント!?」

びっくりするほど予想通りの反応を示したユフィにまた笑いがこみ上げそうになるが我慢する。
単純と言うか、分かり易いと言うか。
ヴィンセントはティーカップとソーサーを手に立ち上がると、家の中へと歩き出した。
それに倣ってユフィも立ち上がり、家の中へと入っていく。













家の中、ヴィンセントの部屋で見せられたのはマテリアが飾られているコレクションケース。
色とりどりのマテリアが収められており、先程からユフィは目を奪われっぱなしだ。

「その中から好きな物を一つ持っていくといい」
「いいの!?本当にいいの!!?」
「話し相手になってくれた礼だ」
「ありがと〜!ヴィンセントってば太っ腹!!どれにしようかな〜!?」

コレクションケースを前に大はしゃぎするユフィ。
もうウサギのマテリアの事なんて頭にない。
マテリアを一つ一つ吟味していき、どれを貰うか激しく悩む。
が、その至福の時間を邪魔する怒声が外から轟いた。

「出てきなさい小娘!これからアンタの裁判を行うわよ!!キャハハハハハハ!!」

女の甲高い声が部屋の窓を突き抜けてきたものだからユフィの肩が一瞬震える。

「な、何?誰?裁判?」
「ハートの女王・スカーレットのおでましだな」

優雅に紅茶を飲みながらヴィンセントは尋ね人の名を告げる。
その名を聞いてユフィは心底嫌そうな表情を浮かべた。

「うぇ〜、何の用だよ・・・」


「私の可愛いペットをよくも追いかけ回してくれたわね!死刑を言い渡してやるから大人しく出てきなさい!!」


「だそうだ」
「死刑判決下されるの分かっててのこのこ出てくる奴がいるかよ!ヴィンセント、どうすればいい?」
「お前はどうしたい?」
「助かりたいに決まってんじゃん!元はと言えばウサギがアタシの膝の上で寛いでマテリアをチラつかせたのが悪いんだし!」
「驚くほどの被害者意識だな」
「ふざけてないで助けてよ!お願い、アタシに出来る事ならなんでもするから!」
「・・・・・・いいだろう」

カチャリ、とティーカップをソーサーの上に置いて手近な所にそれらを置くと、ヴィンセントはユフィを抱き上げた。

「わわっ!?」

急に抱き上げられ、ヴィンセントとの顔の距離が近くなった事にユフィの胸の鼓動が早くなる。
睫毛は長く、近くで見る紅い瞳は燃えるように美しく、まるで宝石のようだ。
初めて見た時同様、思わず見惚れているユフィを他所に大きな宝箱の前へと歩いて行き、強く蹴ってその蓋を開ける。
宝箱の中は何もなかった。
いや、『ない』のではない、真っ暗な『空間』がそこにあった。
箱の底など見えやしない。

「なにこれ?」

尋ねようとした瞬間、何の前触れもなく箱の中に落とされた。

「わぁああああああああああああ!!!??なんだこれぇえええええええええええ!!!?」

「私にも分からん」

「アンタでも分からんとこにアタシを落とすなぁああああああああああああああああ!!!」


箱の中を覗くヴィンセントの姿がどんどん小さくなっていき、やがて見えなくなっていく。
それに伴ってユフィの意識もどんどんと薄れていき、やがては失っていくのであった。





















「ハッ!?」

ふと目が覚めると、そこは自分が昼寝をしていた丘の上の木の下。
膝の上にウサギはおらず、また立って辺りを見回してみるが、目立った落とし穴はなかった。

「夢・・・?」

「あ、やっぱりここにいた」

声がして振り返ると、いつもは優しい顔をしている姉のティファが怒った顔をしながらこちらへと歩いてきていた。

「うっ、ティファ姉・・・」
「もう、すぐに抜け出しちゃうんだから!お見合い相手の人、もう来てるよ。エアリス姉さんが応対してくれてる」
「だって・・・アタシはお見合いするなんて言ってないのに親父が勝手にさ・・・」
「気持ちは分かるけど無視するのはよくないわ。相手の人だってユフィの為に時間を割いて来てくれてるんだから」
「そうだけどさぁ・・・」
「お父様だって付き合いの関係でお見合い相手を呼んでるから、嫌だったら断っていいって言ってくれてるんだし。ね?」
「うん・・・」
「ほんの数十分じゃない。数十分我慢すれば後は好きにしていいのよ?」
「その数十分が長いんだもん・・・」

ごねるユフィにティファは苦笑混じりの溜息を吐く。
こうなってしまってはあの手を使うしかない。
物で釣るのは気が引けるが、これでユフィの機嫌がちょっとでも戻るならばそれも仕方あるまい。

「マドレーヌ」
「え?」
「ユフィがお見合いしてる間にエアリス姉さんと一緒にマドレーヌを作るわ」
「本当!?」
「ユフィの大好きなチョコチップを沢山入れてあげる」
「やったー!!ティファ姉だーいすき!!」

喜び飛び上がって、そのままの勢いでユフィはティファに抱きつく。
ティファも笑いながらユフィを抱きとめて言う。

「今回は特別よ?」
「うんうん、判ってるって!それより早く戻ろうよ!」

元気に駆け出す妹に苦笑が漏れる。
ここは強く言い聞かせるべき所なのだが、どうしても甘やかしてしまう。
これが姉のエアリスであるならば・・・いや、同じように甘やかしていたかもしれない。
前にもユフィがお見合いを嫌がった時に今の自分と同じようにユフィの好きなお菓子を作って待ってると言ったのだ。
つくづく自分たちは妹に甘いと苦笑するティファだった。
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