企画!

□早すぎる
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ある夜のこと。

「ヴィンセンとー」
「何だ」
「アレ・・・どーする?」
「・・・そうだな」

ベッドの中でユフィはスマホを、ヴィンセントは本を読みながら言葉を交わす。
部屋の隅にある小さな箱には目を向けず―――。





『早すぎる』





それはまったりとした眠くなるよな午後に届いた。
ヴィンセントとユフィが住むマンションにストライフデリバリーサービスとしてクラウドが来訪し、小さな箱を届けてきた。
送り主は健康ドリンクの製造・販売をしている社長。
WRO経由でモンスター討伐依頼を完遂してくれた二人に個人的なお礼をしたくて送ってきたらしい。
中身はなんだろうとワクワクして開封してみたものの、入っていたのは3種類の青汁×10と健康ドリンク15本。
二人が言葉を失ったのは言うまでもない。

「しゃちょーさんの気持ちは嬉しんだけどさ・・・正直、ねぇ?」
「ああ、私たちにはまだ早すぎる代物だ」
「ヴィンセントなら実年齢的にいけるんじゃない?」
「肉体はまだ27だ。そういうお前こそ、青汁なんかはウータイ特有甘味のマッチャとやらの感覚で飲めるんじゃないか?」
「抹茶と青汁は全然違うよ!」

ユフィは反論のついでに太腿を人差し指でツンツンと突っついてくる。
そんな可愛らしい攻撃をやんわりと防ぎながらヴィンセントは1つの案を出した。

「私達の所にあっても賞味期限が来て捨てる事になってしまうだろう。そこで、誰かにあげるというのはどうだ?」
「あー、やっぱそれしかないよね。シドに送ったらなんて言われるかな?」
「間違いなく怒るだろうな。お前にその覚悟があれば私は止めないが」
「じゃあリーブのおっちゃんは?」
「微妙な所だな。青汁辺りは飲みそうなイメージはあるが。
 それよりも、お前の父親に送ったらどうだ?そちらの方が青汁など飲みそうなイメージがあるが」
「親父も青汁嫌いで飲まないよ。あ、でもゴーリキーとかは飲むかも。なんか飲んでるって前聞いた事あるし」
「決まりだな」
「うん、明日クラウドに頼んで届けてもらうよ。でもその前に―――」

ユフィはベッドから出て箱から青汁の袋を1つ取り出すと、ヴィンセントの前まで来てそれを掲げた。

「ちょっとだけ遊ばない?」

ニヒヒ、とユフィは口角を上げて挑戦的な目でヴィンセントを見つめる。
こんな時のユフィは大概悪戯系の何かを考えていたりする。
それを見透かしていながらも、暇潰しにとヴィンセントはユフィの挑戦に乗った。

「負けた方がそれを飲むんだな?」
「さっすがヴィンセント!話が早いね〜!」
「何度もお前のゲームに付き合わされればな」
「そんじゃ早速やろーよ!」

そう言ってユフィはベッドに乗り出すと、ベッドの隣に置いてあるキャビネットから将棋盤と駒を取り出した。
どうやら今日のゲームの内容は将棋のようだ。
ウータイに代々伝わる文化の1つで、その道のプロもかなりいるらしい。
ちなみに、ユフィはそこそこ強い。
そこそこ強いがヴィンセントは持ち前の理解力と分析力であっという間にユフィを負かしたのである。

「『待った』なしの一本勝負ね!」
「そう言っておきながらお前は『待った』をかけるからな、絶対に」
「言いません〜!なんてったって今日こそ勝つんだからね!!」

将棋の駒を分けながらユフィは勝利宣言をする。
果たしてそれが現実になるかどうか見ものだと内心で楽しみにしながらヴィンセントはユフィに挑んだ。














「王手」
「待った!!」

ヴィンセントの予言通り、ユフィは待ったをかけた。
いつもなら考えてあげない事もないのだが、今回は負けたら青汁を飲まなければいけないという罰ゲームが待っている。
流石のヴィンセントもそれだけは免れたいのでユフィの『待った』を却下した。

「残念だがユフィ、今回は聞けないな」
「いいじゃんいいじゃん!ケチケチ言うなって!!」
「駄目だ」

ヴィンセントはユフィの『王将』の駒を取ってユフィに敗北の現実を突きつけた。

「ぬぁあ〜〜〜〜〜!!ヴィンセントの鬼〜〜〜!!」
「夜だ、静かにしないか」

大声を出すユフィを制しながら勝者の笑みで将棋の駒を片付けていくヴィンセント。
敗北した事を認めざるを得なくなったユフィはがっくりと肩を落とし、しぶしぶと青汁を作りに部屋を出て行った。
そして待つこと数分。
ユフィは強烈に苦い香りを放つコップと水がたっぷり入った大きなコップを手に持って部屋に戻ってきた。
流石のヴィンセントも青汁の苦い匂いに顔をしかめて鼻をつまむ。

「部屋に匂いが残るぞ」
「ヴィンセントも道連れだもん」

同じく強烈な匂いに顔をしかめつつユフィはベッドの縁に座ってキャビネットの上に水を置き、青汁を眺めた。

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

10分〜20分くらいは眺めていただろうか、あまりの飲みたくなさにユフィはずっと口をつけないでいた。
しかし決心したのか、ぎゅっとコップを強く握り、ヴィンセントの方を振り返って切なそうな眼差しで言った。

「アタシの屍は拾ってね」
「・・・流石に死ぬ事はないだろう」
「お母さん、もしかしたらそっちに行くかもだけど、許してね!!」

大げさに叫んでユフィは鼻をつまむと、ぐいっと一気に青汁を飲み干していった。
ごくっごくっと重く喉が上下し、表情も段々と芳しくないものになっていく。
何だか止めた方がいいような気がしてきてヴィンセントが止めようとしたその時、丁度ユフィは青汁を飲み終えた。

「ぷはっ!!!!」

そしてすぐさま水の入ったコップを掴んでこれまた一気に傾けて水を飲み干していく。
喉は今度は何度も上下し、表情も先程よりは少しマシになった。

「ぷはっ!!!・・・マズッ!!!!!すっっっっごいマズッ!!!」
「よく頑張ったな」

ヴィンセントは苦笑してベッドから降りると、部屋の空気の入れ替える為に窓を開けた。

「うぅ・・・水全部飲んだのにまだ苦い味が残ってるよ・・・」
「味が消えるまで時間がかかるだろうな」
「こんな苦い味を口の中に残したまま寝られないよ。だから―――」

ユフィは同じくベッドの縁に座ってきたヴィンセントの肩に手を置くと、何の予告も無しに唇と唇を触れ合わせた。

「口直し」

柔らかい唇が離れてニヤリと弧を描く。
しかしヴィンセントの唇に残るのは苦い青汁の味。

「これは罰ゲームの巻き添えじゃないか?」
「そーだけど?」

ケロッと言いのけてユフィは再びヴィンセントの唇に自分のを重ねる。
けれど、苦い味はまだ消えない。

「苦い味が消えるまで付き合ってもらうから」

勝手な事を言ってユフィは三度ヴィンセントにキスをする。
ある意味でユフィらしいと言えばらしい行動だが、ヴィンセントも流されたままではない。
ユフィの後頭部を手で固定して離れないようにして、唇に舌を這わせる。

「ん・・・」

ふるっとユフィの唇が震えて一瞬躊躇いが伝わったが、それでも唇は僅かに開き、ヴィンセントを招き入れる。
侵入を許されたヴィンセントの舌は苦くない所を探してユフィの口内を彷徨う。
甘い箇所を見つけるまではやめないつもりだ。
だから―――

ドサッ

「んぅ・・・ヴィン、セント・・・」
「・・・」

ベッドの上に沈めて、身動ぎする華奢な体を押さえつける。
そのついでに引き締まった白い太腿に自身の熱を当ててこれから行う事を予告する。
それらを悟ったユフィは観念したようにヴィンセントの首に腕を回し、けれど恥ずかしそうに視線を逸らして言った。

「窓・・・閉めてよ」
「匂いが消えたらな」

なんてヴィンセントは言うが、匂いが消えた後も苦い味がなくなった後も甘く溶け合うのをやめなかった。











END
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